第53話 鉄壁の攻撃

ラッシュとシュウはお互いに睨み合っていた。どちらも一歩も動かない。不思議そうに動物達も見守っている。しかし、しばらく続いていた睨み合いにも終わりが来た。痺れを切らしたラッシュが動いたのだ。素早く払った剣の先から斬撃がシュウに向かって放たれる。ラッシュはシュウが避けるのを見計らって、その隙に間合いを詰めて一気に仕掛ける作戦だった。だが、シュウは避けようとせず、正面から斬撃を受け止める姿勢を取った。



ラッシュ「(何考えてるんだあいつ……俺の技を生身で受けたら細切れになるぞ)」



斬撃がシュウに直撃し、砂埃が盛大に舞い上がる。しばらくして視界が晴れる。すると、驚いた事にシュウは無傷だった。だが、驚いたのはそれだけではなかった。シュウの両腕が鋼鉄になっていたのだ。



シュウ「俺の鋼鉄拳はいかなる攻撃も通さない……」


ラッシュ「なるほど……中々厄介な魔法だ。だが、魔力は有限。ずっとは使っていられないだろ?」


シュウ「……勘違いをしているようだが、これは魔法ではない」


ラッシュ「皮膚を鋼鉄に変化させるのが魔法ではないと言うのなら、何なんだそれは?」



シュウは自身の皮膚を全て鋼鉄に変化させた。そして、指をボキボキと鳴らしている。



シュウ「これは鋼鉄拳と言って、拳法の一種だ。だから魔力は使わない。時間制限も無い」



話終わった瞬間、シュウはその鋼鉄の拳をラッシュの腹に叩き込んだ。全身が鋼とはいえ動きはかなり素早く、ラッシュはもろに攻撃を喰らってしまった。勢いよく壁に叩きつけられるラッシュに対し、追い討ちの蹴りが炸裂した。堪らずダウンする。ダメージは大きかった。だが、根性で立ち上がると弱々しくもシュウに斬りかかった。しかし、シュウは剣を片手で受け止める。残念ながら鋼鉄の体に傷がつく事は無かった。



シュウ「無駄だ……俺は剣で倒せない。そして、俺は今まで傷をつけられた事は無い……この意味分かるな?」


ラッシュ「確かに普通の戦い方じゃお前には勝てそうにないな……だが、あいにく俺は普通じゃない」



妙に自身のあるラッシュの態度に、シュウは少し引っかかった。だが、軽く剣を払うと鋼の拳をラッシュの顔に打ちつけた。しかし、紙一重で攻撃を躱すと、また剣で斬りつける。



シュウ「無駄と言ったはずだ、聞こえなかったのか?」


ラッシュ「無駄かどうかすぐに分かると思うぜ……」



ラッシュは懲りもせず、攻撃をかわしながら、鋼鉄の体を斬りつけている。無論、ダメージは通っていない。無駄な事を繰り返すラッシュに苛立ちを覚えたシュウは、勝負を決める事にした。腰を深く落として、体中の力を拳に集める。すると、ラッシュは剣を地面に突き刺して両手を合わせた。



シュウ「何の真似だ?」


ラッシュ「今から使う魔法は魔力と体力の消耗が激しすぎるから、使いたくなかったんだが……そうも言ってられない状況だしな、やってやるぜ」


シュウ「どんな魔法を使おうとしているのか知らんが、俺の体に傷はつかん。無駄な事だ、やめておけ」


ラッシュ「これだけボロボロになるまで準備したんだ、今更使わないなんて選択肢はないんだよ!」


シュウ「準備?何の事だ?」


ラッシュ「へ……気づかなくて良かった。さっきから俺はお前の体に呪文を書き込んでいたのさ」



シュウは自分の手足や胴をよく見る。すると、傷にもならないくらい薄い文字がいくつも刻まれていた。しかし、文字と言うにはあまりにも独特な形をしている。戦いの中で相手の体に刻んでいたのだろう。そして、シュウが文字を見ている隙に、ラッシュは両手から剣に魔力を注いだ。剣はバチバチと音を立てて稲妻を纏っている。



シュウ「これは……!?古代ガルベルグ文字………何故貴様が扱える?」


ラッシュ「さあな、そんな事より自分の心配をした方がいいと思うぜ……」



魔力が十分に蓄積した剣をラッシュは引き抜いた。そして、剣先をシュウに向けると一気に魔力を解き放った。



ラッシュ「砕け散れ!リュクシオンッ!!!」



電撃を撒き散らしながら放たれた魔力の塊は、シュウに向かって一直線で飛んでいく。しかし、素早い身のこなしで電撃を躱す。



シュウ「残念だったな、俺は素早い」


ラッシュ「甘いな……甘すぎるッ!よく見ろ!」



完全に避けたはずの魔力の塊は、宙で方向転換すると、再びシュウに向かって飛んでいく。しかし、また素早い身のこなしで避けようとシュウは跳び上がった。その瞬間、ラッシュは両手を合わせて魔力を練り込んだ。すると、シュウの体に刻まれていた古代ガルベルグ文字が輝き始めた。動けない。文字が輝いた途端、シュウの体は突然動かなくなってしまったのだ。



シュウ「何ッ!う…動けない……」


ラッシュ「残念だったな、この魔法は必中だ」



文字が輝き始めた事でシュウは身動きが取れなくなっていた。そして、魔力の塊がシュウに直撃した。空中で大きな爆発が起こり、鋼鉄化が半分解けたシュウが落下してきた。



ラッシュ「はぁ…はぁ……やったか?」



ラッシュはボロボロの体を引きずりながらシュウの元に近づく。すると、シュウは急に立ち上がりラッシュの首を強く掴んだ。ラッシュは必死でもがくが、リュクシオンを使った事で力がほとんど残っていなかった。



シュウ「はぁ…はぁ……俺は貴様が何者か分かったぞ」


ラッシュ「クソ……離せ!」


シュウ「2年前、ガルベルグ帝国から皇子が失踪した事件があった……そしてあの古代ガルベルグ文字を扱えるのは皇帝の血筋のみと聞いた事がある。勿論俺も古代ガルベルグ文字を読める訳ではないが、独特な形をしているからな、一目でわかった」


ラッシュ「何が言いたい?」


シュウ「貴様が2年前帝国から失踪した皇子だろ?違うか?」


ラッシュ「……」


シュウ「……まあどうでもいい事だ。どのみち貴様はここで俺に殺されるからな」



シュウは拳を強く握り、ラッシュの腹部に強く打ちつけた。何度も何度も。拳が当たる度に、骨が何本か砕かれる痛みが体中に走る。ラッシュは力を振り絞りポケットから護身用のナイフを取り出すと、シュウの鋼鉄化していない腕を狙って突き刺した。思わぬ反撃を喰らったシュウはラッシュを突き放す。



シュウ「ッ……まだそんな力が残っていたのか」


ラッシュ「俺は負けられない……勇者になるからな」



今にも倒れそうだったが、ラッシュは根性で立っていた。だが、倒れそうなのは相手も同じのようだ。リュクシオンで受けたダメージがかなりあるのだ。ラッシュは自分の剣を拾うと鞘に収めた。そして、静かに腰を落とし精神を集中させる。



シュウ「何の真似だ……?いや、どうでもいい。これで終わりにしてやる」


ラッシュ「(もう戦う力は残ってない……この一撃で決める)」



シュウは拳に力を集めると、ラッシュ向かって来る。そして、シュウが間合いに入った瞬間、ラッシュは一気に剣を引き抜いた。突風と共にラッシュは鋼鉄の体を斬り裂いた。シュウは完全に気絶していた。ラッシュは勝ったのだ。だが、体力の限界が来たのかそのまま倒れ込んだ。



ラッシュ「チッ…この怪我じゃ、しばらくは動けないか……みんな、後は頼んだぜ……」



ラッシュが教団の幹部の一人シュウを倒したその頃、神殿近くの林の中でカナとラオは数十人の教団の手下の黒装束達に囲まれていた。



カナ「ラオさん、相手結構な数いるよ……」


ラオ「嬢ちゃん、あまり時間は無いようじゃ……こいつら頼めるかのぅ?」


カナ「え?……ラオさんはどうするの?」


ラオ「目指すはこいつらの大将……そいつさえ倒せば解決じゃろ?」


カナ「……分かりました。行ってください!こいつらは私が相手をします!」


ラオ「うむ、頼んだぞ」



ラオは目にも留まらぬ速さで敵の間を駆け抜けて行く。誰もラオの動きを捉えられないようだ。そして、ラオを見失った手下達の視線はカナに集まった。すると、手下の中から幹部の女魔法使いが現れた。



魔法使い「キャハハ!見捨てられちゃったの?可愛そー」


カナ「アンタは教団の幹部ね」


魔法使い「私はアロマ。あなたを殺った後はあの爺さんをんだからさっさと死んでちょうだい」


カナ「そんな事させる訳ないでしょ!アンタは私が倒してやる!」


アロマ「キャハハ!無理無理ィ」



ラオは単身、厄災王の復活を阻止するため神殿へと向かった。だが、カナは大勢の敵に囲まれていた。カナはこのピンチをどう切り抜けるのだろうか…………………………………

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