第37話 影
城.三階.祭壇の間……
セラフィーは綺麗な銀髪をした男に抱えられていた。男は優しく、そして宝石を扱うように丁寧に、部屋の中央にある棺の中にセラフィーを寝かせた。
銀髪の男「ああ…娘よ、何故お前だけが魔王様に忠誠を誓っていなかったのだ……」
男はセラフィーの頭をそっと撫でる。すると、セラフィーは閉じていた目蓋をゆっくりと開けた。
セラフィー「ん……お父様…?」
銀髪の男「おや、目が覚めたかい?」
セラフィー「…そうだ!森でレインお兄様に捕まって……」
銀髪の男「セラフィー!何も言うな、お前は黙って魔王様に忠誠を誓えばいい」
セラフィー「……お父様、どうしてこんな事を……」
銀髪の男「我々は一度死んだ。だが、甦ったのだ。その時、頭の中で声がしただろう?魔王様の声が」
セラフィー「一体何の事を言っているの?」
銀髪の男「はぁ……やはりお前には聞こえていなかったのだな。お前以外は皆聞こえていたのだがな」
セラフィー「それじゃあ、お父様達はその声に従って魔王に忠誠を誓ったと言うの?」
銀髪の男「セラフィーよ、お前の母さん…リシアは生まれつき体は弱かったが不思議な力を持っていた」
セラフィー「魔を祓う力……」
銀髪の男「そう、それだ……その力がお前に魔王様の声が届かなかった原因だと私は思っている」
セラフィー「お父様、私は魔王に忠誠は誓うのは嫌です!それに、私達はとうの昔に死んでいるんですよ」
銀髪の男はしばらく黙っていた、怒る訳でもなく悲しむ訳でもなく、ただ黙っていた。
銀髪の男「そうか!お前のペンダント、確かそれはリシアの物だったな、そのペンダントが邪魔をしていたのか」
セラフィー「お父様……このペンダントはお母様の形見です」
銀髪の男「ああ、分かっている。だが、魔王様の邪魔をするのであれば捨てるしかあるまい」
セラフィー「あぁ……お父様は変わられてしまったのですね……」
セラフィーの目からは涙が溢れ、頬を伝って涙が床に落ちる。その様子を見ていた男は、優しい笑顔で語りかけてきた。
銀髪の男「どうした?何が悲しいんだい?父さんに言ってみなさい」
銀髪の男はセラフィーを優しく抱きしめると、再び頭を撫でた。
その頃、フェインと別れたラッシュは、コックの魔物から息を切らしながらも、柱の陰で身を隠してやり過ごしていた。
ラッシュ「はぁ…はぁ……よし、行ったか?」
辺りに魔物の気配は無く、自身の呼吸しか聞こえない程に静かだった。呼吸を整え周囲を見渡すと、どうやらここは地下墓地のようだった。そして、墓地の一番奥には石造りの棺が五つ見える。五つの内、四つの棺の蓋が開けられており、中は空になっていた。
ラッシュ「もしかして、セラフィー達が入っていた棺ってこれの事か……ってことは開けられていない棺の中身は一人だけ甦らなかったセラフィーの母親か?」
??「その通りでございます」
振り向くと、執事姿をした不気味な老人がいつの間にか立っていた。
ラッシュ「誰だ!いつからそこに?」
??「クックックッ、私はあなたが来る前からずっと居ましたよ」
ラッシュ「何を言ってるんだ?俺が来た時には誰も居なかったぞ!」
??「私の名前はソンブラ。この城の主、シルキード様に仕える者。あなた如きに私の気配は悟れませんぞ」
ラッシュ「(この老人……本当に気配を消して俺に気づかれなかったと言うのか?)」
ソンブラ「さあ、お喋りはこれくらいにして、主の命に従い侵入者を始末しましょうかねぇ」
ソンブラの掛け声と共に、ラッシュの周りの柱の影から六人の執事達が飛びかかってきた。ラッシュは距離を置こうと飛び退けるが、囲まれてしまう。
ラッシュ「くそッ…せめて剣さえあれば…」
ソンブラ「まずは一人、侵入者を始末できそうですな」
執事達はそれぞれが剣や槍、短剣などの武器を持ち、準備万全の状態で来ているようだ。そして、一斉に攻撃される瞬間、ラッシュの足元に勢いよく剣が突き刺さった。剣が飛んできた方向を見ると、フェインが手を振っている。
フェイン「おーい、大丈夫か?」
ソンブラ「ほぅ…もう一人いましたか。探す手間が省けました、二人まとめてこの場で殺りますよ」
ラッシュ「フン、礼は言っておく。助かったぜフェイン」
ラッシュは剣を引き抜くと素早い身のこなしで、近くにいた執事を二人切り裂いた。
ラッシュ「さあ、次はどいつだ?」
ソンブラ「ふむ、中々やりますな」
フェイン「さあて、俺も加勢するぜ!」
フェインがラッシュの周りを取り囲む執事達を攻撃しようとしたその時、背後から撒いたはずのコックの魔物が現れ、フェインを捕まえた。
フェイン「何ッ!こいつ、いつの間に俺の後ろを」
ソンブラ「クックックッ、私は影に色々な物を忍ばせる事が出来るのですよ」
ラッシュ「成る程、この執事達がいきなり現れたのはこう言う事だったのか……」
ソンブラ「クックックッ、その赤髪の坊ちゃんを握り潰してしまいなさい」
コックの魔物は両手を強く握りしめると、フェインの体はギシギシと鳴った。
フェイン「うわあああ……くそっ!離せ」
ソンブラ「さあ!そのまま握りつぶすのです」
魔物の握りしめる力はドンドン強まり、フェインの動きは完全に封じられていた。ラッシュも助けには行きたいが、周りの執事が道を塞いでおり、全員倒さなければ進めない状況になっていた。
ラッシュ「お前ら!そこをどけ!」
ラッシュは果敢に執事達に斬りかかった。しかし、攻撃を見切られたのか、かすりもしない。
ラッシュ「…どういう事だ?こんな簡単に攻撃を避けられるなんて」
ソンブラ「彼らはドラクレア家に仕える執事ですよ?あなた達程度なら、一度太刀筋を見ただけでほとんど見切れるくらいには強い」
ラッシュ「それじゃあ、さっき俺が斬った二人はまぐれだと?」
ソンブラ「ええ、先程斬られた二人も他の者達に引けを取らない実力者でしたが、愚かにも彼らは油断をしていたのでしょうな」
ラッシュ「(マズい事になった……フェインは捕まってるし、爺さんも含め五人まとめて相手にするのは流石に分が悪い。その上一人一人かなりの強いときたもんだ…どうする俺)」
早速ピンチに陥ったフェインとラッシュは、強者集団の執事達相手に勝つ事が出来るのだろうか……………………………………………
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