第38話 強者の戦い
フェイン達がソンブラ率いる執事軍団に苦戦を強いられている頃、クロウは三階の祭壇のある部屋に来ていた。部屋の中心には棺が一つ豪華に祀られており、部屋の奥には最上階へ続く階段があった。
クロウ「この部屋は……一体何なんだ?」
「セラフィーを探しに来たのか?」
天井から声が聞こえて来る。見ると、一匹のコウモリが優雅に飛んでいた。コウモリは空中で人間に姿を変えると華麗に着地した。
クロウ「お前は、セラフィーを拐った奴か……」
レイン「俺はレイン、悪いが儀式の邪魔はさせないぜ」
クロウ「……その階段を上った先にセラフィーは居ると言う事かい?」
クロウは棺を固定している鎖を、少し伸ばして両手に集めた。そして、レインが返事をするよりも速く、鎖をムチの様に打ちつけた。鎖はレインの左腕を根本から引き千切り、腕は空中へと弾き飛ばされた。
クロウ「儀式が成功するとセラフィーはどうなる?」
レイン「俺の腕がああああ!!」
クロウ「質問に答えてくれ。もう片方の腕も失いたくないだろう?」
レイン「……なーんてな!全然効かねーよ」
千切られた腕は沢山のコウモリに変身すると、レインの左肩に集合し腕の形になった。
レイン「どうするよ?そう簡単に俺は殺せないぜ?」
クロウ「フフ、それはどうかな?」
突然、集合したコウモリは次々に地面に落ちていく。やがて、レインはコウモリで腕の形を形成する事が出来なくなった。
レイン「何だッ……!」
クロウ「この鎖には常に、人間には感知出来ない程微弱な魔力が込められている」
レイン「……コウモリ達の耳を狂わせたという事か」
クロウ「レイン君、妹さんを助けるためなんだ、協力してくれないか?」
クロウはレインがセラフィーの身内と言う事もあり、本気を出さないでいた。何とか協力してくれないか説得をしてみたが、聞く耳を持たない。
レイン「チクショウッ!!お前、一体何者なんだ?」
クロウ「六勇者だ。勇者協会プラチナランクのな」
六勇者と言う称号を耳にしたレインは少し考えると、何かを思い出した様に手を叩いた。
レイン「六勇者……そうだ!最近魔王様が殺した奴もそんな称号を持っていたな」
クロウ「……何の話をしている?」
レイン「ククク、知らないのか?レスト大陸の雪山で、六勇者と名乗る馬鹿が魔王様に挑んで負けたんだよ!まあ、当然の結果だけどな」
クロウ「(レスト大陸は確かダリオの向かった所のはず……しかし、彼がそう簡単に負けるとは思えないが……)」
レイン「魔王様は近いうちにこの世界を侵略するだろう。断言する!お前達人間ではどうする事も出来ない!」
クロウ「……まあいい、今は君を倒してセラフィーを救出するのが先だ」
クロウは左手に魔力を溜めると、鎖全体に魔力を注ぎ込む。それと同時にレインも右手に水の魔力を溜めると、一気に空中へ放出した。
レイン「レインアロー!!」
放たれた無数の水は。空中でキラキラと輝きながら矢の形に変形し、クロウに降り注ぐ。それを見たクロウは、鎖を頭上で高速回転させ、水の矢を次々に弾いていく。
クロウ「片手では矢の数が足りないようだな?」
レイン「ククク、足元をよく見たらどうだ」
クロウの足元には弾いた水の矢が砕けて、床を水浸しにしていた。レインは右手に雷の魔力を溜め始める。
レイン「次に俺がやろうとしてる事、分かるよなぁ!?」
クロウ「……なるほど、足元の水のお陰で雷の魔法の範囲を拡げるのが狙いか」
レイン「そう言う事だ、逃げ場は無いぜ」
逃げ場が無くなったクロウだったが、余裕そうに笑っている。レインはこの追い詰められた状況で笑うクロウを理解出来なかった。
レイン「あ?何がおかしい?」
クロウ「その雷は撃たない方がいい。私には奥の手があるからね」
レイン「ほう?奥の手ねぇ……どんな?」
クロウ「それは言えない。ただ、君がその雷を放った瞬間、勝つのは私と言う事になる」
レイン「チッ、つまんねえ嘘つくのはやめろ!」
クロウ「なら撃てばいいさ、それとも怖いのかい?」
レイン「いいだろう!そんなに死にたきゃ黒焦げになっちまえええッ!」
レインは最大まで溜めた雷の魔力を、クロウに向かって放出した。バチバチと音を鳴らしながら飛んで来る電撃は、直撃すれば大ダメージを受けるのは免れないだろう。しかし、クロウは電撃を限界まで引きつけ、何かのタイミングを図っている。
クロウ「……今だ!」
部屋は電撃と水の衝突によって激しく輝く。何かに引火したのか、爆発も起こった。爆煙が部屋中に立ち込めていたが、しばらくすると煙は消え視界が広がった。クロウは無傷で立っていた。だが、何故かレインは黒焦げになっていた。
レイン「な…何が…起こったん…だ」
クロウ「私の奥の手、それは……」
クロウはレインに奥の手を教えようとしたが、既に気を失っていた。こうして、レインを倒したクロウは祭壇の先にある階段を上がり、最上階を目指すのだった。
一方その頃フェイン達は……
四人の執事達の猛攻を受け続けていたラッシュも、やがて体力が底をつき地面に膝をついていた。
ソンブラ「そろそろ限界のようですね」
ラッシュ「ま…まだやれる!」
ソンブラ「強がるのもそこまでです。お前達!やってしまいなさい!」
コックの魔物に捕まえられたフェインは、その様子を見ながらも必死にもがいていた。
フェイン「クッソおおおおッ!離しやがれ!」
コックの魔物「オマエ ウルサイ」
魔物がどんどん力を強めていく度に。フェインの体は悲鳴をあげた。
フェイン「グッ、一体…どうなってんだ?……さっきから魔力を溜めてもすぐに掻き消されちまう……」
コックの魔物「オマエ キヅクノ オソイ。オレ オマエノマリョク タベル」
やがて、フェインの体からは力が完全に抜け、死んだ様に俯いた。しかし、突然顔を上げるとニヤッと笑った。
フェイン「へへ、お前相手に本気を出すのは勿体ないが、そうも言ってられないみたいだぜ、そうだろう?ラッシュ!」
ラッシュ「仕方ない、本気をだすとするか……」
ソンブラ「なんだと?今までの戦いは本気じゃないと?つまらない冗談ですねぇ」
フェイン「本当はお前らの親玉と戦う時の為に、力を沢山温存する作戦だったんだけどな」
ラッシュ「その作戦はお前達のせいで失敗に終わったが」
フェイン「いくぞラッシュ!!全開だあああああッ!!」
フェインは雄叫びと共に増大な光のオーラを纏った。そして、瞬時に魔物の指をへし折ると、その顔面に強烈なキックをお見舞いした。ラッシュは剣に風を纏うと、片膝を挙げて独特の構えを見せる。
ラッシュ「見せてやる、秘技!疾風剣舞!」
目にも留まらぬ速さで執事達を瞬時に斬り伏せたラッシュは、剣を払って血を落とす。
フェイン「俺も新しく使えるようになったこの技をお見舞いしてやるぜ!デカブツ!」
フェインが剣に魔力を込めると、刃が白く輝いた。魔物は折られた指を押さえるのに夢中で、気づいていない。
ラッシュ「お前、それ何属性のエンチャントだ?」
フェイン「へへ、分かんねえけど…何か強そうだろ?最近上手く扱えるようになったんだぜ」
ラッシュ「……本当に効果あるのか?それ」
フェイン「まあ見てろって!」
二人が話している間に、コックの魔物は立ち上がり包丁を大きく振り上げた。しかし、フェインが剣を全力で薙ぎ払うと、魔物は見事に上半身と下半身が二つに割かれ死んでいた。その切り口は少しのズレも無く綺麗に斬られており、フェインのエンチャントが本物だと言う事を物語っていた。
ソンブラ「そ…そんな馬鹿な……!?」
ラッシュ「爺さん、まださっきの二人を斬ったのがまぐれだと思うかい?」
ソンブラ「どうやら、あなた方を少々侮っていたようです」
ソンブラは後ずさりをしながらも不気味な笑みを浮かべていた。
フェイン「さあ!次はアンタの番だぜ」
ソンブラ「結構、遠慮しておきましょう。私はここで倒れる訳には行きませんので、一旦引かせてもらいますよ」
ソンブラは物陰に隠れたと思うと姿を消していた。フェイン達は休憩もせずに、早々と地下の探索を終え、上階を目指すのだった……
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