第34話 吸血鬼の城
夜の帳が降り、森の中にある不気味な城は、より一層雰囲気を出していた。風吹き始め、木々が騒ついている。そんな中、デスタ達は城に入るため、石造りの橋を渡っていた。だが、その様子を城の最上階から監視している者がいた。
レイン「父上、やっぱり来たよアイツら」
レインは誰かに呼びかける。すると、背後にある柱の影の中から、執事の格好をした不気味な老人が現れた。
老人「レイン様、旦那様はこれからセラフィー様に儀式を行うための準備中でございますぞ」
レイン「そうだったな、それじゃ侵入者はソンブラ、お前達に任せる」
ソンブラと呼ばれた老人は、丁寧にお辞儀をすると、再び影の中に消えて行った。
城.一階入口……
デスタ達が重い扉を開け中に入ると、そこには上階へと続く大階段と沢山の扉があった。少しカビ臭く、嗅いだ事のない匂いも混じっている。そして、至る所に蜘蛛の巣が張っており、全体的に薄暗かった。
ラッシュ「どうする?これだけ広いとどこから調べていいか分からんな」
クロウ「手分けしてセラフィーと吸血鬼達を探す」
ピノ「敵の本拠地で戦力を分散してもいいの?」
クロウ「元々私とセラフィーだけでここに来る予定だったんだ。それに、君達は強いんだろ?」
ピノ「そ、そりゃあ勿論」
フェイン「で?誰がどこを探索するんだ?」
デスタ「この城は外から見たところ四階建てだったな……」
クロウ「では、フェイン君とラッシュ君は一階。デスタ君とピノ君は二階を頼む。私は三階を探す。四階は最後に探索だ」
早速。クロウの指示通り探索を開始しようとすると「ちょっと待った」と声が上がる。見ると、フェインとラッシュが不満そうな顔で手を挙げていた。
フェイン「何で俺がコイツと一緒なんだよ!」
ラッシュ「それはこっちのセリフだ!」
二人が睨み合っているのを無視して、三人は階段を駆け上がって行く。気がつくと二人の周りには誰も居なかった。
フェイン「あれ?みんなは?」
ラッシュ「はぁ…どうやら皆は先に行ったみたいだな」
組み合わせに文句を言う前に置いていかれた二人は、渋々探索を始める事にした。
城.二階……
デスタ達が階段を上がると、二階も一階と同様に沢山の扉が並んでいる。一階と似たような光景が延々と続いており、探索には結構な時間が掛かる事だろう。
クロウ「では、二階は君達に任せる…」
クロウはそう言い残すと、さっさと走り去ってしまった。そして、残されたデスタとピノは、どの部屋から探索するか考えるのだった。
デスタ「二階だけでも結構部屋があるな……よし、ピノは西側を頼む。私は東側の部屋を探索して来よう」
ピノ「え?ちょっと待ってよ姉御!ここに来て更に別れるの!?」
ピノは早速一人で探索を開始しようとするデスタの腕にしがみつく。
デスタ「そっちの方が効率がいいだろ、何故止める?」
ピノ「い、いやぁ…二人の方が安全かなぁと…」
デスタ「フッ…心配するな、敵と遭遇しても倒せば問題ないだろ?」
デスタは掴んでいる手を振りほどくと、ピノを置いてさっさと探索に行ってしまった。薄暗い廊下で一人残されたピノは、立ち尽くしていた。
ピノ「…………」
ピノは一人になって改めて分かった事があった。
ピノ「(こ、怖ええ)」
城.一階……
その頃、フェイン達は地下へと続く階段を見つけ、階段を下りるかどうか相談していた。
フェイン「どう思う?」
ラッシュ「確かに女の悲鳴が聞こえたんだな?」
フェイン「ああ、セラフィーの声かどうかは一瞬だったんで分からなかったけどな」
ラッシュ「行って見れば分かる……か」
二人が地下へと続く階段を下りようとしたその時、二人の頭を何者かが鈍器で強く叩いた。不意の一撃という事もあり、二人は気絶してしまった。それからどれくらいの時間が経ったのだろうか、二人は顔に落ちる水滴の冷たさで目が覚めた。寝ぼけ眼で周囲を見渡す。どうやらここは、牢屋の中のようだ。
フェイン「痛ッ……頭がズキズキする」
ラッシュ「ここは…牢屋か?」
フェイン「見りゃ分かるだろ……ん?」
フェインはふと自分の腰の辺りに違和感を感じ、目線を向ける。すると、鋼鉄で出来た輪っかが腰に着けられていた。ラッシュも同様に、同じ輪っかが着けられていたが、ここで二人はある事に気がついた。
ラッシュ「この輪、繋がってないか?」
なんと、二人の輪っかは一本の鎖によって繋がっており、二人は常に離れる事が出来ない状態になっていた。鎖を破壊するために武器を使いたかったが、当然ながら武器は取り上げられている。
フェイン「……最悪だぜ」
ラッシュ「奇遇だな、俺もだ」
二人は、鎖を破壊出来ない事に腹を立てていたが、騒いでも牢屋からも出られる訳ではないので、大人しく助けが来るのを待つ事にした。しばらくすると、ズシンズシンと響き渡る大きな足音が、牢屋に近づいて来るのが聞こえてきた。やがて、足音の主は二人の牢屋の前で止まると、牢屋を開けた。
「ウマソウ ナ ニンゲン オレ タベル」
足音の主は、二人の倍はある体格だ。肌は緑。鋭い牙を生やし、お世辞にも似合っているとは言えない、コックの帽子を被った魔物だった。魔物は二人を担ぐと、どこかに向かって歩き始めた。二人は武器を持っていないので、魔物を怒らせないように大人しくしていたが、突然フェインがラッシュの耳に手を当て小声で話しかける。
フェイン「おい、ちょっと耳かせ」
フェインの話を聞いたラッシュは、思わず声を出して驚いた。
フェイン「しーーッ、声が大きい」
ラッシュ「やめとけ、そんな事したらコイツ暴れ出すぞ」
フェイン「じゃあ黙って喰われるのか?」
ラッシュ「そうは言ってない……だが、今やるのはマズイだろ…武器も持ってないんだし……っておい!」
ラッシュの忠告を無視して、フェインは魔力を両手に集めると、バレーボールサイズの火球を作り出した。
フェイン「おいデカイの!そんなに腹が減ってるならなぁ、これでも喰っとけ!」
フェインの放った火球は、見事に魔物の顔面に直撃した。魔物はたまらず二人を地面に落とすと、苦しそうに両手で顔を覆っている。
フェイン「……やったか?」
しばらく苦しんでいた魔物は、ゆっくりと両手を顔から離す。その顔は怒り以外の何物でもなかった。激怒した魔物は二人を睨みつけると、ベルトにぶら下げている血の着いた包丁を取り出す。それをアイスクリームのようにベロベロと舐め回している。
魔物「オマエラ ユルサナイ!!」
ラッシュ「おい、全然効いてないぞ!」
フェイン「うーん……逃げる!」
二人は回れ右をすると、全力で走った。無論、魔物は二人の後を鬼の形相で追いかける。その頃、ピノは二階にある薄暗い食堂を探索していた。食堂には、四つの長いテーブルが綺麗に並んでいる。そして、大きな暖炉があった。セラフィーも昔はここで家族と食事をしていたのだろうか。そんな事を考えながら食堂を歩く。
ピノ「それにしても天井が高いなぁ、おーいセラフィー!居るなら返事してくれー……返事無しと…」
ピノが食堂から出ようと扉に手をかけたその時、廊下からコツン…コツン…コツン…と何者かの足音がこちらに近づいて来る。
ピノ「(姉御か?いや、姉御は東側を探索してるはずだぞ……)」
ピノはゴクリと生唾を飲み込むと、足音の主が通り過ぎるのを待つため、しばらく食堂で隠れる事にした。長いテーブルにはテーブルクロスが掛かっているので、捲くられる事さえなければ見つからない。そう思ったピノは、テーブルの下に身を潜め、しばらく待つ事にした。しかし、足音は食堂の前で止まった。ギィーッと鈍い音を立てて扉が開く。そして、足音はゆっくりと食堂の中を歩き始めた。
ピノ「(嘘だろ…何で入って来るんだよ……)」
ピノはかなり怖かったが足音の主が気になり、テーブルクロスを少し捲ってテーブルの外を覗いた。すると、黒い靴に白のソックスを履いた女の脚が見えた。
ピノ「(メイド……かな?この格好は)」
食堂は薄暗く、テーブルの下という事もあり顔はよく見えないが、メイドは暖炉の前で止まると何かの箱を取り出しているようだった。
ピノ「(ん?何だ?……よく見えないぞ)」
何をしているのか気になったピノは、テーブルの下から更に身を乗り出す。その時、誤って体勢を崩しそうになり、ピノはテーブルクロスを強く引っ張ってしまった。その衝撃で、テーブルの上に置かれている燭台が音を立てて倒れる。
ピノ「(やべッ……)」
燭台の倒れる音が響き渡る。静寂に包まれた食堂で、この音が聞こえない訳もなく、メイドは立ち上がった。そして、燭台を倒したピノのテーブルに向かって歩いて来る足音が聞こえてきた。だが、メイドは燭台を元の位置に戻すと、また暖炉に向かって歩き始めた。どうやらメイドには気付かれていないらしい。ネズミとでも勘違いされたのだろう。ピノはホッと胸を撫で下ろすと、今度は慎重にテーブルクロスを捲り暖炉の方を覗いた。
ピノ「(あれ?……居ないぞ)」
ピノが首を傾げた瞬間、突然テーブルを貫通して槍が床に突き刺さった。槍はピノの首を数ミリずらして刺さっている。
ピノ「な…何いッ!!」
危険を察知したピノはすぐにテーブルの下から出ると弓を構えた。テーブルの上に立っていたのは、ピノの予想通りさっきのメイドだった。ただ一つ予想外なのはそのメイドには
首から上が無かった……………………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます