第33話 魔の森

翌日、四人は町の入り口に集まった。空は雲で覆われていて快晴という訳ではないが、霧はすっかり晴れて視界が良くなっている。



セラフィー「皆さーん!お待たせしました」



四人の元に駆け足で来るセラフィーの服装は、昨日までの小綺麗な格好とは違い、動きやすい服装になっていた。その後ろから、相変わらず重そうな棺を背負ってクロウが歩いて来る。



クロウ「城へ行く前に君達に一つ言っておく事がある。これから先どんな危険があるか分からない以上、命の保証は出来ない…それでも来るのかい?」


ピノ「俺達こう見えても強いんだぜ!心配は必要ないよ」


クロウ「……随分な自信だな」



フェインは早速、魔界と人間界を繋ぐゲートの見つけ方をクロウに尋ねた。クロウは指を左右に振り「まだ早い」と言った。



フェイン「俺達じゃ魔王に勝てないって言いたいのか?」


クロウ「勘違いしないで欲しい、勝てないと言ってる訳じゃない。ただ君達の実力が分からない以上、魔王の所まで行くのを手助けする事は出来ない」


フェイン「それじゃさ、今回の吸血鬼退治で俺達が活躍したら教えてくれよ」


クロウ「……分かった。くれぐれも無茶はだけはしないでくれよ」



なんとかゲートの情報を教えてくれる約束をつけたフェインは、隣にいるピノと飛び跳ねて喜んだ。その様子を見ていたラッシュは、セラフィーに廃城のある場所を訊く。



セラフィー「これから向かうドラクレア家の城は、魔の森中心にあります」


ラッシュ「何ッ!魔の森だって?!」



魔の森という言葉を聞いたラッシュが、慌てて聞き返す。



フェイン「何だよお前、ビビってんのか?」


ラッシュ「違う!……ただ小さい時に読んだ童話では、一度入ると生きて出ることは出来ないと言われてたのを思い出しただけだ」


フェイン「童話の話だろ?たまたま名前が被ってただけだって」


ラッシュ「そうだといいんだが……」


セラフィー「そうですよ、危険なのは城に居る魔物です。私が森を抜けた時は普通でしたよ」



そう言いながらラッシュの側によるセラフィー。すかさずラッシュはセラフィーから距離を取った。女性が苦手なラッシュは、例え吸血鬼であっても苦手なようだ。



セラフィー「(ガーン!!もしかして私……さけられてる?)」



魔の森.入り口……


一行が魔の森に向けて馬車を走らせること六時間。ようやく馬車が魔の森の入り口に到着した。まだ森に入っていないにも関わらず、辺りの雰囲気はどこか不気味で、人の気配はおろか動物の気配も無い。



ピノ「なんだか不気味な森だなぁ、姉御もそう思うだろ?」


デスタ「そ…そうだな(魔界に似て落ち着くとは言えんなぁ)」


フェイン「それにしても、セラフィーはこんな不気味な森の中にある城なんかによく住んでられたな」


セラフィー「元は普通の森だったんですよ。今はいかにも魔物が出そうな雰囲気ですけど」



一行が森に入って三十分くらい経った頃。クロウ、セラフィー、デスタの三人が先頭を歩き、その後ろをフェイン、ピノ、ラッシュの三人が歩く陣形で森を進んでいた。デスタは歩きながら、前にセラフィーが落としたペンダントから微弱な魔力が出ているのを感じていた。



デスタ「そのペンダントどこで手に入れた?」


セラフィー「このペンダントは亡くなったお母様から貰ったんです。お母様とお揃いで、とても大切な物。だから肌身離さず、ずっと身につけてるんです」


デスタ「そうか、母親とお揃いって事は仲が良かったんだな(このペンダントからは何か魔除けの様なものが感じられるな)」


セラフィー「はい!だから欲しいって言ってもあげませんよ」


デスタ「そう言えば、お前の母親は甦ってないんだよな?」


セラフィー「はい、そうですけどそれがどうかしましたか?」


デスタ「なんとなく、お前だけが心まで吸血鬼にならなかった理由が分かった気がするよ」



二人が雑談してる少し後ろでは、フェイン達が先頭の三人の後をゆっくり歩いていた。



ピノ「なあなあ、俺ちょっと気になったんだけどさあ、クロウさんの背負ってる棺の中には何が入ってるんだろう?」



ピノが小声で二人に話しかける。三人はそれぞれ棺の中身を想像し始める。



ラッシュ「確かに棺を背負って旅をするなんて、余程の理由がない限りそんな状況にはならないな」


ピノ「だろう?んで俺考えたんだけどさ、棺の中身はやっぱり死体が入ってるんじゃないか?」


フェイン「おいおい、死体を運びながら旅する奴がどこにいんだよ」


ピノ「それじゃあフェインはあの棺の中身はなんだと思うんだよ」


フェイン「そりゃあ…えっと……あれだ、鞄代わりにしてんだろ。中身はきっと着替えとか旅に必要な物だ」


ラッシュ「わざわざ棺を鞄代わりにするくらいなら普通に鞄を使うだろ…」


フェイン「それじゃあお前は何だと思うんだよ」


ラッシュ「……そう言われると、何も思いつかないな」


ピノ「気になるなぁ…中身」



ピノは思い切って棺の中身を訊いてみることにした。すると、クロウは気軽に棺の中を見せると言い、棺の蓋を開けようとした。その時、沢山のコウモリが一行の周りを飛び回り、やがて一つの集合体となった。そして、集合体は青年に姿を変えた。



青年「よう、探したぞセラフィー」


セラフィー「レインお兄様!?」



レインと呼ばれた銀髪の青年は、今度は巨大なコウモリの羽を生やしたかと思うと、セラフィーを鷲掴みにして上空へ連れ去った。



フェイン「あの野郎……セラフィーを返せ!」


レイン「フハハハ、返す訳ないだろバーカ」



高笑いしながら城の方向へ飛んで行くレイン。しかし、クロウは目にも止まらぬ速さで地上から木を伝って高く飛び上がった。そして、棺を繋いでいる鎖を鞭のように振り回し、レインの羽に勢いよく打ちつけた。思わぬダメージを負ったレインは、空中から真っ逆さまにはたき落とされる。下ではデスタが魔界剣を構えて、とどめを刺す体勢に入っている。



レイン「クソッ!こいつら強いぞ」


デスタ「そいつは返して貰うぞ」



デスタは魔界剣で落下して来るレインを斬ろうと踏み込んだ。その時、突然、背後に強い殺気を感じた。振り返ると、鉄仮面を被った女騎士が剣で斬りかかって来た。すかさず剣で防御すると、その隙にレインが地面に着地してしまった。



デスタ「もう一人隠れていたのか……」


レイン「ふぅ…助かったぜ、エル姉」


セラフィー「エルネーゼお姉様……みんなどうして変わってしまったの…」



エル姉と呼ばれた女騎士は、無言で懐から煙玉を投げた。煙が消えた頃には、セラフィーの姿は無かった。



ピノ「早く追いかけなきゃ!」


ラッシュ「待て、肝心のセラフィーが居ないと城の場所が分からないぞ」


クロウ「……そうでもないさ。さっきの奴らがセラフィーの家族って事なら、きっと城は近いはずだ」



クロウは徐に左手で指笛を吹き、右腕を大きく広げた。すると、何処からともなく一匹の立派なカラスが現れて、広げている腕に留まった。クロウはカラスに何か指示をすると、カラスはまたすぐに飛んで行った。



ピノ「今の何だ?鳥と喋れるのか?」


クロウ「まあね……あのカラスには、ちょっとこの辺りを見て貰ってる」



しばらく待っていると、五分も掛からずしてカラスが戻ってきた。そして、カラスの後を追いかけ森の中を進んで行くと、見るからに魔物が住んでいそうな城が現れた。城の周りには堀があり、城の出入り口は正面の大扉一箇所だけだった。大扉へは石で出来た橋を渡らなければ到達できず、橋から堀を覗くと、引きずり込まれそうなくらいに暗く、底が見えなかった。

果たして、デスタ達は無事、拐われたセラフィーを連れ戻し、吸血鬼を退治する事が出来るのだろうか……………………………………

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