霧の古城 編

第32話 霧の町

デスタ達は六勇者クロウに会うため、マジルカ大陸を出てラミア大陸にある、ミストと言う町に向かっていた。船は昼過ぎ頃には、ラミア大陸の小さな港町に着くと、そこからミスト行きの馬車に乗った。


馬車の中……


馬車は林道を走っている。辺りには霧が立ち込めており、昼だというのに薄暗く視界が悪い状態にあった。



フェイン「ミストに着いたらどうする?」


デスタ「まずは泊まる所を見つける。それからクロウを探すとしよう」


ピノ「それとさあ、ミストって最近魔物の被害が多いんだろ?確か廃城から魔物達がやって来るとかなんとか」


フェイン「勿論その魔物達も退治するに決まってるだろ!」



三人が馬車の中で町に着いた後の計画を立てていると、突然車輪の軋む音共に馬車が急停車した。その勢いで三人は狭い馬車の中で揉みくちゃになった。誰が顔を踏みつけただのくだらない言い争いをしていると、外にいる御者が声をかけてきた。



デスタ「どうした?何があった?」


御者「それが…道の真ん中に人が」



三人は馬車から顔を覗かせる。すると、道の真ん中にデスタ達と同い年ぐらいの少女が倒れている。綺麗な銀髪に、品のある服装。少女はどこかの金持ちのお嬢様なのだろうか。三人は馬車から降りると、倒れている少女に近づいて生死を確認する。少女の肌は透き通るように白く、ピクリとも動かない。死んでいるのかと思ったが、近づくと呼吸をしているのが分かった。



デスタ「息はある、気を失ってるだけだ。町までは後どれくらいで着く?」


御者「10分もあれば着きますよ」



三人は倒れている少女を馬車に乗せると、ミストの町まで連れて行く事にした。町は林道と同様に昼でも薄暗く、霧が立ち込めていて、とても静かな町というのが第一印象だろう。町には一つしか宿がなく、一階には酒場があり、二階が客室になっている構造だ。

三人は客室で少女を寝かせると、少女の目が覚めるまで一階の酒場で魔物について情報を集めることにした。静かな町だが、酒場はそれなりに活気があり、人々が酒を楽しんでいる。



「お前らも来てたのか…!?」



三人が遅めの昼食をとっていると、聞き覚えのある声が話しかけて来た。声のする方を見ると、ラッシュが軽く手を挙げて挨拶した。



フェイン「ラッシュ!?お前、ダリオのオッサン達を追っかけてレスト大陸に向かったんじゃないのか?」


ラッシュ「それが……俺が港に着いた時にはダリオさんもミトラも出港した後だった。それで魔物の情報を聞いて、ここに来たらお前らが居たってわけだ」


フェイン「プププ、要は二人に置いてかれたって事だろ?」


ラッシュ「違う!二人は俺が追っかけているのを知らなかっただけだ!」


ピノ「はいはい、せっかく再会出来て嬉しいのは分かるけど後にしてくれよ。俺達はこの町に来てるクロウって人を探さなきゃならないんだ」



二人の間を割って入りながら、ピノは骨つき肉にかじりつく。三人が盛り上がっているのを横に、デスタは酒場のマスターから話を訊いていた。



マスター「そうだなあ、最近のニュースって言えばやっぱり、六勇者のクロウさんがこの町の近くにある廃城を調査しに来てる事かな」


デスタ「やはり来ているのか……で、そいつはどこにいるんだ?」


マスター「さあ…何処にいるかまでは知らないな。でも、よく酒場に来るからすぐに会えると思うよ」


デスタ「特徴は?どんな格好をしてる?」


マスター「うーん、変わった格好をしてる人だけど、実力は確かだよ」



デスタ達が酒場で得られた情報は二つ。一つ目は、クロウがこの酒場によく出入りしていると言うこと。二つ目は、1年程前からミストの町を魔物達が定期的に襲撃しているという事。ラッシュを含めた四人は、情報を整理しながら食事を続ける事にした。しばらくして、二階の客室の扉が開く音が聞こえて来る。客室で寝かせていた少女がおぼつかない足取りで一階に降りてきた。



少女「あの…ここはどこなのでしょうか?」



か細い声の少女は不安そうにデスタに話しかけてきた。フェイン達も少女に気付き、デスタの周りに集まってくる。



デスタ「ここはミストと言う町の宿だ」


少女「そうですか……失礼します」



急いでいるのか、少女は軽くお辞儀をして立ち去ろうしている。その時少女の服の中からペンダントが落ちたのが見えた。デスタは少女を呼び止めるが、考え事をしているのか全く聞こえていないようだ。仕方なくペンダントを拾い、立ち去ろうとする少女の腕を掴む。その瞬間、デスタは思わず手を離してしまった。冷たい。少女の手は生きている者とは思えないほど冷たかった。



デスタ「お前……」


フェイン「どうかしたのか?」


デスタ「……何でもない」


少女「私に何か?」


デスタ「これ、落としたぞ」



デスタがペンダントを差し出すと、少女はひったくる様に急いで受け取った。そして、再び軽くお辞儀をすると、宿の出口の扉を開けて出て行こうとする。少女が宿から出るのと同時に、宿に入って来る黒いマントを羽織った人物と少女はぶつかってしまった。ぶつかった衝撃で転びそうになる少女を黒いマントを羽織った人が優しく支える。



少女「す、すみません」



黒いマントを羽織った人は、少女より少し背が高く、綺麗な紫色の髪をなびかせている。深く帽子を被っているので顔は見えないが、体つきからして女性だと思われる。黒マントは少女に軽くお辞儀をすると、酒場の一番端の目立たない席に座った。



ラッシュ「おいおい、大丈夫かよ……」


ピノ「あんなに急いでトイレでも行きたいのかな?」


フェイン「せっかく会ったんだしさ、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか?」


少女「……えっと、私はセラフィーと言います」


デスタ「セラフィー、何であんな所に倒れてたんだ?」


セラフィー「それは……しばらく何も口にしてないので栄養が…」



デスタの質問にもじもじしながら答えるセラフィー。何か隠している、そんな気がしたデスタはもう少し質問をする事にした。



ラッシュ「昼と言ってもここら辺は常に薄暗い、一人で歩くのは危険だぞ」


少女「ええ、おっしゃる通りです……でもここがミストの町なら、後はこの町に来てるクロウさんに会えば……」


デスタ「ほう?お前もクロウを探してるのか?」


少女「旅の方に話すのもどうかと思いますが、実は私……」


マスター「ちょっと君達、さっきそこの嬢ちゃんがぶつかった黒いマントを羽織った人が、六勇者のクロウさんだよ」



酒場のマスターは少女の話を遮る様に、酒場の一番端の席を指差す。



デスタ「奴が六勇者のクロウだったのか……」


マスター「言ったろ?変わった格好だって」



クロウと呼ばれる黒いマントを羽織っている人物は、見れば見る程変わった格好をしている。そして、一番目につくのは背中にしっかりと固定された、自分より少し大きい棺だった。確かに変わった格好をしている。そんな事を考えていると、セラフィーは酒場のマスターにお礼を言ってクロウの座っている席に近づいた。



セラフィー「あの!すみません、クロウさんですか?」



クロウは無言で頷くと、コーヒーに角砂糖を入れる。



セラフィー「私、クロウさんに頼みたい事があるんです…」



クロウは無言で反応は薄いが、セラフィーの話はしっかり聞いているようだ。



セラフィー「実は私………吸血鬼なんです」



クロウの角砂糖を入れる手が止まる。会話を聞いていたデスタ達も、ついつい静止してしまう。



フェイン「吸血鬼?冗談だろ?」


セラフィー「本当です。私は400年前、ドラクレア家の次女として生まれました」


ピノ「400年前!?マジで?!」


フェイン「馬鹿、人間が400年も生きてられる訳ないだろう?」


ラッシュ「馬鹿はお前だ。この子が吸血鬼だと言ってたのが聞こえなかったのか?」


デスタ「少し黙れ……」



デスタが横で騒いでいる三人を睨みつけると、三人は去勢された動物の様に大人しくなった。セラフィーは一回咳払いをすると、話を続ける。



セラフィー「母は生まれつき体が弱く、私を産んですぐに亡くなってしまいました。それから17年、町では不治の病が流行っていました。父、そして腹違いの兄と姉、そして私も病に倒れ、皆死んでしまいました」



セラフィーは椅子に腰をかけると、一呼吸置いてからまた喋り始める。



セラフィー「そして、私は1年前のあの日……突然棺の中で目が覚めたのです。理由は分からないのですが、母以外は皆甦っていました。そして私達はもう一度お城で暮らす事にしたんです」


デスタ「死霊術か……だが、死者をここまでしっかりと蘇らせる程の使い手がいるとは……」


セラフィー「すみません、誰が何のために私達を蘇らせたのかは私も分からないんです」



セラフィー曰く、蘇った家族全員が定期的に生き物の血液が欲しくなる事があるそうだ。しかし、その事以外でセラフィーの家族は以前と様子がおかしいのだと言う。



フェイン「様子がおかしい?」


セラフィー「ええ、毎晩三人が地下室に集まって何かしているようなのです。気になって後をつけて見ると、地下室で恐ろしい魔物と話していたんです。どうやら、この町に魔物達を送り込んでいるのは父達の仕業のようなんです。それから、私は城を出て吸血鬼になった家族を退治出来る人を探す事にしました」



そして、セラフィーは勢いよく立ち上がるとクロウに深々と頭を下げる。



セラフィー「私はあんな家族の姿は見たくありません!だから、クロウさん!どうか吸血鬼になってしまった家族を、もう一度安らかな眠りにつかせてあげてください」



クロウは、角砂糖が沢山入って甘くなり過ぎたコーヒーを一気に飲み干すと、カップをそっと皿の上に置いた。



クロウ「……私は最初から廃城の吸血鬼を倒す為にこの町に来ている。だから頼まれなくてもやるつもりだよ」


セラフィー「本当ですか!」


クロウ「だけど、その前に一つ質問をいいかな?」


セラフィー「はい、なんでしょう?」


クロウ「私は廃城に着いたら、君の家族を殺すだろう。本当にいいんだね?」


セラフィー「……はい。勿論悲しい、だけどそれ以上に、魔王の手先になってる家族を見るのは嫌なんです!」


クロウ「そうか、では明日の朝、城へ向かう。君は城までの案内を頼む」


セラフィー「ありがとうございます!!」



クロウは席を立つと、荷物をまとめて酒場を出て行った。



セラフィー「皆さんもありがとうございました」


フェイン「セラフィー、一つ頼みがあるんだけどさ……」


セラフィー「なんですか?」


フェイン「俺達もついて行っちゃだめか?」


セラフィー「構いませんけど……なんでまた?」


フェイン「いやー、さっきクロウに魔界へ行く方法を聞きそびれちゃってさ。それに、勇者を名乗るんなら放って置けないだろ?」


セラフィー「でも…かなり危険だと思いますよ」


フェイン「大丈夫、俺達強いぜ!」



フェインの発言にラッシュが噛みつき、二人はまた喧嘩を始める。酒場の空気が少し緩んだ気がした。



セラフィー「フフ…変なの」


デスタ「吸血鬼達が危険なのは知ってるが、私達も戦いには自信がある。心配する必要はない……」


セラフィー「分かりました、明日みんなで城に行きましょう」



こうして、デスタ達は吸血鬼の住む城へ行く事になった。城にはどんな危険が待ち受けているのだろうか…………………………………

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