第11話
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授業が終わり午後になると真司は海と遥に用事あるから先に帰ると伝えると、早速公園に向かおうとしていた。だが、それを稔が慌てて引き止めたのだった。
「ちょっ、宮前、待て待て!」
「せ、先生?」
「今日は俺の話聞けよ!? 聞いてくれるんだよな!?」
真司は昨日、稔が言っていたことを思い出しハッとなる。
(そっ、そう言えば、そんな約束したんだった! 忘れてた!)
今はそれ所じゃ無かったため、真司は稔との約束をスッカリ忘れていたのだった。
稔はジトッとした目で真司を見る。
「……やっぱ忘れてたな」
「うっ……す、すみません」
「まぁ、いいけど。というわけで、俺の話を聞け宮前」
「うわわっ!」
グイグイと引っ張りながら真司を稔の秘密の準備室まで連れて行かれる真司。
真司は断るにも断れなくて心の中で「どうしよーう!?」と、焦っていた。
結局、稔の誘いを受けてしまった真司はお菓子の部屋の準備室にてソワソワした様子で稔の話を聞いていたのだった。
「でさ、その……雛菊さんの携帯番号とかって、宮前は知らないか?」
「それが、雛菊さんは携帯を持っていないんですよ」
「マジかよ!?」
それもそのはずだ。何せ雛菊は人ではなく妖怪なのだから、現代の道具は持っていなかった。
稔は頭を無造作に掻きながら困ったような顔をする。
「そっかぁ……食事に誘おうにも、これじゃ誘えないな……。好きな物とかも聞けないし……はぁ」
まるで恋する乙女のように溜め息を吐く稔。
稔は、そこまで雛菊のことを気になっていると知り、自然と笑みがこぼれた。
(雛菊さん、先生は雛菊さんのことをこんなにも気にかけていますよ)
真司は窓を開けて今直ぐにでも、この事を雛菊に伝えたかった。
稔がここまで雛菊のことを気になっていると知れば、雛菊はきっと嬉しくて恥ずかしく思うだろう。だが、真司には一つ気になることがあった。
(雛菊さん……折角、菖蒲さん達のおかげで先生とも話せるようになったのに、どうして……)
真司が考え込んでいると「宮前」と稔が真司を呼んだ。
「お前さ、雛菊さんと会うことってあるか?」
「はい」
「なっ、なら……この紙、渡してくれるか?」
そう言って稔が取り出したのは、大阪市港区にある水族館のチケットだった。
「これを雛菊さんに?」
「その……本当は自分から誘いたいんだが、住所も連絡先も何も知らないからな。できれば宮前から渡してほしい。後、このメモも」
真司は手渡されたもう一つの紙を見る。それは、稔の携帯番号だった。
「携帯は無くても固定電話はある、よな? まぁ、とりあえず渡してくれ。そ、それで……もし、その誘いがOKなら電話してほしい」
「すまんな……こんなことお前に頼んで」
「いえ、大丈夫です! 僕、先生と雛菊さんのこと応援してますから!」
真司の言葉に嬉しさが込み上げ稔は真司の肩を掴んで「ありがとうっ!!」と力強く言う。
「俺、こんなんだからさ。生徒には好かれても恋人はあんまりできたことなくてな……なんか、面倒になってきたし。でも、あの時、雛菊さんと出会ってビビっと来たんだよ! まさかとは思ってたけど、これが一目惚れというやつなんかね」
(一目惚れ、か……)
真司は八郎ともう一人の雛菊の出来事を知っていたからこそ、この二人の出会いは『運命』なんじゃないかと思っていた。
生まれ変わりではないけれど、八郎と雛菊の想いが二人に届いているような気がした。そして、その二人が稔と雛菊を引き合わせたような気がしたのだ。
(八郎さんと雛菊さんは、最期まで一緒にいられなかった……でも、先生と雛菊さんは種族が違っても幸せになってほしい)
真司は嬉しそうに話す稔の後ろにある窓を見る。
(雛菊さん。僕にはなにも出来ないかもしれないけれど、雛菊さんには幸せになってほしいです。だから、僕は雛菊さんに聞きます。どうして先生と会おうとしないのか……なにを躊躇っているのかを)
真司は手渡された水族館のチケットと先生の連絡先を鞄の中に入れると徐ろに立ち上がった。
「先生、雛菊さんのことは任せて下さい! では、僕は行かなきゃいけないところがあるので、これで失礼します」
「ん? そうか。お前も最近は色々忙しそうだしな」
そう言うと稔も膝に手を当て立ち上がった。
「よっと。んじゃぁ、気をつけて帰れよ。と、その前に、ほらこれやるよ」
稔はそう言うと隅に置いてあるクーラーボックスから桃のゼリーを取り出し、それを真司に手渡した。
ヒヤッとした冷たさが掌から伝わり、真司は思わず「冷たっ」と呟く。稔は真司のその言葉にニヤッとした顔で「そろそろ冷たい食べ物も美味しくなる季節だからな」と言った。
「ありがとうございます、先生」
「おう。こっちこそ、わざわざ付き合わせてすまんな」
「いえ。それじゃぁ、失礼します」
真司は稔に小さく頭を下げると準備室を出た。そして、気持ちを切り替えるようにギュッと鞄を握ると香夜乃が待っている公園へと向かったのだった。
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