第10話

 真司の返答を聞いた香夜乃は、また真司に向かってニコリと微笑む。



「じゃぁ、宮前君は特別な存在なんだね」

「……え?」



 香夜乃の言葉にポカンとする真司。



「だって、普通の人は彼らの姿は見えないわけだし。そんな彼らのことが見える宮前君はきっと凄いよ」

「…………」

「あ、因みに、私は他人の〝色〟が見えることは自分でも驚いたけど凄いと思ってるよ」



 ふふんと自慢気に鼻を鳴らす香夜乃に真司はおかしく思いクスリと笑った。

 そこで真司は、ふと自分の〝色〟について気になった。『自分はどんな色をしているんだろう?』と興味があったのだ。

 色について興味がある真司は、自分の色のことを香夜乃に聞いた。



「あの、僕ってどんな色をしているんですか?」

「宮前君の色は、白。雪みたいに真っ白で凄く綺麗よ。だから歩いている時、もしかして宮前君かなぁって思ったの」



 その言葉に真司は「だから会った時、僕だってわかったんだ」と理解した。

 香夜乃は真司の色について話を続ける。



「白って見たことが無いから、不思議な子だなぁ〜って初めて会った時に思ったの。どんな子なんだろう?って。だから、こうやって話を聞けたこととか凄く嬉しい」



 真司は『嬉しい』と言われてむず痒い気持ちになると恥ずかしげに頬を掻いた。

 すると、香夜乃の肩に乗っていた夜雀が真司の膝の上に飛び乗り何かを言いたげにバタバタと翼を羽ばたかせた。



「チチチッ、チチチッ」



 夜雀のそんな行動に真司は本題のことを思い出しハッとなる。



(そ、そうだった!)



 真司は送り狼に狙われていること、それを助けようとしている夜雀のことを香夜乃に話す。

 もう、先程まであった不安は全然無い。



「あの、実は大事な話があるんです」

「大事な話?」



 香夜乃はコクリと首を傾げると真司は小さく頷いた。



「杉浦さんが言っていた鳥の名前は『夜雀』って言います」

「夜雀……それって、お化け?」

「いえ、妖怪です。あ、妖怪って『お化け』に入るのかな……?」



『お化け』の部類がどれに入るかわからない真司は首を傾げながら考えた。

 香夜乃は「妖怪……」と小さく呟く。



「その夜雀が私を助けてくれたのね」

「はい。今もここにいます」

「え!?」



 香夜乃は真司の言葉にギョッと驚くとキョロキョロと辺りを見回した。



「どっ、どこ!?」

「今は僕の膝の上にいます」

「そう、なの? ……その夜雀って、どんな姿?」


 真司は夜雀をジッと見ながら夜雀の外見を香夜乃に伝える。



「凄く小さい鳥ですね。一見、雀に見えて、目も羽も真っ暗です」

「真っ黒な鳥さんなのね」

「あ、でも、頭にある羽の一部だけ白いですよ」



 香夜乃は真司の言葉のとおり夜雀の外見を想像したのか顔をほころばせ小さく「ふふっ」と笑った。



「そうなんだ……その子が私のことを……ふふふっ」

「……こんなこと言ったら、また不安にさせるし怖い思いもするかもしれませんが……実は杉浦さんが会った狼も妖怪で『送り狼』って言う名前なんですが、送り狼はまだ杉浦さんのことを狙っているみたいなんです」



 真司の話を聞いて香夜乃は口を開け驚く。真司はそんな香夜乃を見て申し訳なさそうな表情を浮かべながらも話を続けた。



「送り狼から杉浦さんのことを守ってほしい……助けてほしいって、僕、夜雀から頼まれたんです」

「あの狼が……」



 香夜乃はそう呟くと口を閉じ少しだけ俯いた。

 真司は眉を寄せ「こんなことお伝えしてすみません……」と香夜乃に謝った。

 怖い思いをまた呼び起こさせてしまったと思ったからだ。

 だが、香夜乃は直ぐに顔を上げると、また毅然とした姿で前を向いた。



「なんとなく、そんな感じがしてた……こっちに来るか前から私の周りにいる人達が事故になったり、突然倒れてしまったり不幸になっていたから」

「……そうだったんですか」

「もしかして、私は呪われてるのかな?って思ったぐらい」



 真司も視えるせいで周りに被害が起こった時もある。学校の花壇が荒らされていたり、隣の子の教科書が無くなったり、時にはソレが誰かを傷つけることもあった。

 それが真司のせいなのか、それともソレの気まぐれなのかはわからないが、ソレが見えている真司には『自分のせいでこうなってしまった』と思っていたのだ。

 だからこそ、真司には香夜乃の気持ちが痛いほどよくわかる。

 だが、香夜乃は今はそう思っていないのかスッキリとした表情をしていた。



「そっか、私、呪われてなかったんだ。あ、でも……私のせいでこうなってしまったのも事実なんだよね。どうしたら、その送り狼を止めることができるのかな」

「それなんですけど、僕にそういうのに詳しい人を知っているんです! あ、あの……今日の授業は午前中だけなんで、午後からその人と一緒に会えませんか?」

「なんとかできるの?」



 香夜乃の言葉に真司は小さく頷きながら「はい」と答えた。



「わかった。じゃぁ、宮前くん……よろしくお願いします」



 そう言うと香夜乃は真司の方を向き頭を下げたのだった。



(絶対に杉浦さんを助ける……送り狼も助けたい……)



 人間のせいておかしくなってしまった送り狼。それは決して送り狼のせいでは無い。

 だからこそ真司は、その送り狼のことも助けたかったのだ。ともあれ、今は、このことを菖蒲に伝えなければならない。

 真司は午後、香夜乃とこの場所で待ち合わせすると真司は学校に行く準備もするため一旦家に帰り電話越しで菖蒲に話した。

 そして夜雀はというと、スッカリ体調も良くなったので香夜乃について行ったのだった。

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