第2話

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 星とルナは、駅の周辺をぽてぽてと歩いていた。

 特に目的地はない。ただ、券を求めて歩いていた。

 そして、噴水広場までやって来た。


 テント場所からこの噴水広場までの道は1つ。

 その間にお好み焼き屋や小さな雑貨屋、宝くじのお店や電車の切符売り場などもある。噴水広場から先は高島屋に行く道やパンジョに行く道があり、その通り道には色々な店も建ち並んでいるので、この駅は意外と便利だ。


「……後……二枚」


 どうしようと思いながら星は噴水広場の前で立ち止まり考える。すると、ルナが「にゃー」と鳴いた。


 ルナが見ている先には、泣きそうな顔をして小さな女の子がいた。

 辺りの人々は関わりたくないのか、素通りする人達ばかり。星とルナは、放っておくことは出来ずその子の元へと向かう。


「………どうしたの?」

「にゃー?」


 星とルナが突然話しかけてきたので、女の子は少し驚いた様子だった。しかし、我慢していた糸が切れたのか、女の子は大きな声で泣き始めた。


「う、うわぁぁぁぁんっ!」

「…………」

「にゃー?」


 ルナが「どうしたの?」と言うように女の子に向かって鳴く。


「うっ……ううっ……お母さんっ…お母さんどこーっ!」


 どうやらこの子は迷子のようだ。星は自分よりも小さな女の子の手を優しく握った。


「……探してあげる」

「にゃー!」

「えぐっ……ほっ、ほんと……?」


 星とルナは同時に頷く。すると、女の子は腕で涙を拭うと嬉しそうな笑顔で「ありがとう!」と、言った。


 星とルナと女の子。二人と一匹は、駅周辺を歩き進む。

 高島屋や子供達が大好きなトイザらスや小さなゲームセンター等があるジョイパークに行き、エスカレーターを上ってはキョロキョロと見回し先に進み、またエスカレーターに乗り下り元の道へと戻り別の道へと行く。これの繰り返しだった。

 しかし、それでも女の子のお母さんは見当たらなかった。


「………いない、ね」

「にゃぁ……」

「うっ、えぐっ……」


 女の子は、また泣きそうになっていた。

 噴水広場に戻ってきた星とルナと女の子は、近くのベンチに腰掛ける。


「おっ、お母さん……お母さん、どこなん……」

「大丈夫……絶対……見つける」

「にゃっ!」

「うっ…うぅっ……」


 星は、泣いている女の子を見るとなぜだか自分も悲しくなってきた。


「ソワール……リュミエール……」


 眉を下げ、しゅんとなりながら自分の大切で大好きな人の名前を呟く星。

 それを励ますように、ルナは星の足に前足をポンと置き「にゃー、にゃ」と、鳴いた。


「そう、だね。僕が……しっかりしないと、だめ……」


 ルナに励まされ星は元気を取り戻す。そして、隣に座っている女の子の涙を止めるにはどうしたらいいのかと考える。


「………そうだ」


 ふと何かを思い出し、ポケットを探り始める星。星はそれを握ると、女の子の前に拳を突き出した。


「……??」


 女の子は、目に涙を溜めながら首を傾げる。


「手、出して……」


 女の子は自分の両掌を星に差し出す。すると星は自分の拳をパッと開いた。

 コロコロと、何かが女の子の掌に落ちてきた。

 それはほしのようにキラキラと光っている綺麗な飴玉だった。


「わぁー!!」

「……あげる。リュミエールに……貰った……」

「すごーい! これ本当に食べれるん?!」


 星は頷く。女の子は貰った飴を一つ口の中に入れた。

 コロリ、と飴は口の中で小さく転がる。


「おいしー! こんなん食べたことない! お姉ちゃん、ありがとう!」

「…………」

「にゃ」


 「お姉ちゃんじゃない」と言おうとしたが、言う前にルナが足をポンと叩いた。

『まぁまぁ。これぐらい、いいじゃない?』という意味も含まれていたのか、結局、星は女の子に何も言わなかった。

 すると、遠くの方から女性の慌てている声が聞こえてきた。


あい!!」

「っ?! お、おかあ、さん……?」


 女の子は再び目に涙を溜めて母の元へ走って行く。


「おかあさん、おかぁさーん!! うぇーん!! おかあさん、おかあさん!」

「もうっ! 何処に行ってたん?! ずっと探してたんやで!」

「――っ!!」


 女の子は母親に怒鳴られ、泣いていた涙が引っ込んだ。

 怒られた女の子は顔は俯き、服の裾をギュッと握る。星は、女の子と母親のところに歩み寄り、母親の服をクイッと引っ張った。


「……怒らないで」

「え?」

「一緒に……あなたを探していた……。この子も……反省している……すごく」

「…………」

「それに……あなたも……怒鳴りたいんじゃないって……僕は知ってるよ」

「――っ!?」


 母親は星の言葉に驚き、星のオッドアイをジッと見つめる。何かを言おうと口を開くが、それは言葉では無く小さな溜め息だった。

 母親は、女の子をギュッと抱き締める。


「……おかあ、さん?」

「はぁ。ごめんね、愛……ちゃんと見てなかったママも悪いのに。ママも、ずっと探してたんやから。すごくすごく心配したんやからね」

「おか…さん……っ……うっ……うぅ」

「ごめんね」

「愛もごめんなさいっ……!」


 母親は立ち上がると、星に向かってお礼を言った。


「ありがとうね。愛の面倒を見てくれて」

「……うん……泣いてる子……放っておけない」

「優しい子やね。そうやわ。これ、君にあげる」

「???」


 星は、母親に差し出された物に首を傾げる。


「ほら。駅前にくじがやってるでしょう? それの券と、後、お菓子折り」

「……ありがとう」

「ふふっ。でも、ごめんね。こんな物しか無くて。こっちに滞在するのも明日で終わりやから、今はこんなのしかないんよ」


 星は自分のを含めて合計五枚のくじ券を見て微笑む。


「これ……欲しかったから……嬉しい。ありがとう」

「お礼を言うのはこちらの方やよ。本当に有難うね」


 母親はそう言うと女の子を抱っこしたまま立ち上がる。


「おねぇちゃん、ありがとうね!」

「……おねぇちゃんじゃないけど……うん。元気でね」

「うん! ばいばーい!! 飴大事にするねー!」


 そう言って、女の子は大きく手を降って母親と駅に向かった。


「僕達も……行こう」


 そうルナに言って、再びテントの所へと向かう一人と一匹。しかし、その途中で買い物をしていたお婆さんが人にぶつかり物を落としてしまう場面に遭遇した。

 星はお婆さんの側まで歩み寄り顔を窺う。


「……大丈夫?」

「大丈夫やよ。ありがとうね」


 物が散らばったのを拾うお婆さん。星とルナは拾うのを一緒に手伝った。


「……手伝う」

「あら、ありがとう」


 全て拾い終わると、お婆さんはニコリと微笑んだ。


「ほんまに、ありがとうねぇ。駄目ねぇ……年を取ると歩くのもフラフラになって、皆に迷惑かけて」

「……大丈夫。気にしちゃ……ダメ」

「ふふっ。お嬢ちゃんは優しい子やなぁ。ん? その手に持ってるのって――」

「……くじの券。これ……今から……やりに行くの」

「あぁ、やっぱり」


 そう言うと、お婆さんは小さなショルダーバッグから四枚の券を出し星に手渡した。


「ほな、これあげるわ」

「……いいの?」

「ええよ。拾うのを手伝ってくれたお礼。後、これも持って帰り」


 お婆さんは買い物袋から林檎を2つ取り出し星にあげた。


「……ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうね。ほなね」


 そう言うと、お婆さんは杖をつき星に別れを言って去って行った。

 星はお婆さんの背を見送ると、手に持っている全ての券を見つめる。


「……すごいね。沢山……貰った」

「にゃー♪」


 ルナは嬉しそうに鳴いた。


「……行こう」

「にゃー♪」

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