第5話
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表通りは昼間には無かった出店もお店を開け始めていた。
たこ焼き屋、飴屋、小物屋、鈴カステラ屋なとが開いている。そして、提灯には狐火と鬼火が灯されていた。
「うわ~!」
真司は辺りを物珍しそうに見回す。
「あ、古本屋まであるんですね!」
「はい。そういえば、人間界でもお店を開いている妖怪がいるんですよ? 知っていましたか?」
白雪の言葉に真司が目を見開いて驚く。
「えっ!? バレないんですか!?」
「人に化けていますからね。バレたら今頃大騒ぎですよ、ふふふっ」
クスクスと笑う白雪に真司は「た、確かに……」と呟き小さく頷いた。
すると、白雪がなにかに気づいたような声を出し、真司は「え?」と、言いながら白雪を見て首を傾げた。
白雪は飴屋の前でお雪と星が立っているのを指さす。
「ほら、あそこ」
「あそこにいるの、お雪ちゃんと星くんですね」
「はい。……あらあら、雪芽ったら。よだれが垂れそうなぐらい飴を見つめて……うふふっ」
頬に手を当て苦笑する白雪。しかし、白雪の顔は何処か嬉しそうだった。
真司と白雪は、お雪達がいる飴屋へと向かう。すると、星が先に気づいたのか、星がお雪の裾をクイッと引っ張った。
それに気づいたお雪も白雪達を見つけると花のような笑顔を浮かべ、白雪達に向かって走って行った。
「おっにいちゃーん♪」
ドンッ!と、ぶつかってくるお雪。
「うっ!」
飛びつくように突進してくるお雪の頭が鳩尾に入り、真司は軽く呻く。これはもうお雪の恒例行事と化している。
「こら、雪芽。そうやって、突進するんじゃありません。もう少し軽くしないと」
(え、そこですか……?)
どこかズレている白雪の発言に、真司はそう思ってしまった。
そして、お雪を追うように星もまた肩にルナを乗せて小走りでやって来る。手には古い本を持っていた。
「それどうしたの?」
「……お手伝いをしたら……お礼に……貰った……」
ズイッと真司の目の前に本を差し出す星。表紙には"竹取物語"と書かれている。
「竹取物語? あ、かぐや姫の話か。でも、少しボロボロだね」
星は黙ったまま頷いた。
「この古い感じ……好き」
「星くんは、本当に本が好きなんだね」
「……ん」
少し照れながら頷く星に真司の心は和み、つい口元が上がり微笑むような顔になった。
「ねぇー、ねぇー。私も何かほしー」と、白雪と真司の手を引っ張るお雪。
「あらあら」
「あのねぇ~、あそこの飴食べたーい♪」
「飴かぁ」
「……綺麗、だよ?」
「そうなの?」
星は黙ったまま小さく頷く。
「なら、僕も一つ買ってみようかな」
真司がそう言うと、お雪は「わーい♪」と、手を上げ喜びながら飴屋に向かっていった。真司達もその後に続き飴屋の前へと向かう。そして、飴屋に来ると真司は呆然としながら飴細工に釘付けになっていた。
それも当然だ。何せ、目の前にいるのは一人の妖怪なのに手が無数あり、これ見事に金魚の形をした飴や猿の形をした飴などを華麗な手さばきで作っていくからだ。
(す、すごい……!)
真司は、あまりの凄さにゴクリと口の中の唾液を飲む。
「おじさーん、雪兎の飴一つ~♪」
「はいよ!」
お雪がそう言うと、飴屋の妖怪はあっという間に飴用のハサミを使い可愛らしい雪兎を一つ作った。
「ほい、あがり! お代は二百円だ!」
(や、安いっ! こんなに綺麗なのにっ!)
「わーい! ありがとー♪」
お雪は飴を貰うと、白雪が二百円のお金を払う。
「そこのあんちゃんはどうする?」
「へっ!? あ、はい!」
「んんん? って、お前さん、もしかして……人間かぁ?」
その言葉に真司はぎくりとなる。
あやかし商店街の入口付近の妖怪たちは真司が人間で菖蒲のお気に入りということは知っているが、奥の商店街は真司に会ったことがない妖怪もたくさんいるのだ。
「ま、まぁ……」
真司がその妖怪から目を逸らし曖昧な返事をすると、飴屋の妖怪が興味津々な様子で真司を見始めた。
「ほぉー。人間ということは、もしかして菖蒲様のところのか! そうか、そうかぁ〜」
飴屋の妖怪は一人で納得するとニカッと笑った。すると、鋭い牙が見えた。
(……うっ!)
真司はその鋭い歯に一瞬怖気付くと、白雪が真司の耳元で「大丈夫ですよ」と、小さく囁いた。
妖怪は真司が怯えていることに気がついたのか首を傾げる。
「ん? なんだ、なんだ? もしかして、土蜘蛛(つちぐも)を見るのは初めてか?」
「土蜘蛛?」
「おうよ! 俺は土蜘蛛の二郎ってんだ! よろしくな」
またもやニカッと笑い、無数の手の一つを差し伸べる二郎。どうやら、握手を求めているらしい。
真司は、恐る恐る手を握った。
「よ、よろしくお願いします」
手は細かい毛で覆われているせいなのか、少しザラっとし硬い感触だった。
「なかよしー♪」
「……ん」
握手をする真司を見て、星とお雪は満足そうに頷く。手を離した二郎は、機嫌よく歯を見せ笑うと「今日はお前には素敵な飴をやろう! 特別だぞ〜ぉ」と、真司に言った。
二郎は無数の手で、飴を炙り、更にそれを伸ばし艶を出す。そうして出来上がった飴は、とても綺麗で美しい飴だった。
「わ……凄い……!」
「相変わらず、素晴らしい飴細工ですね」
「わー、お花だ!!」
「……綺麗」
真司は椿の花が咲き誇っている飴を二郎から渡される。
「本当に綺麗です」
「ははは! 気に入ってくれると、こちとらも嬉しいもんだ!」
「ほら、星と白雪姐さんにも」
そう言って、素早く作り二人にも飴を手渡した。
白雪には、真っ白な百合の花に留まっている硝子のように綺麗な蝶の飴を。そして、星には二匹の猫が中睦まじく寄り添っている飴を。
それぞれ、とても綺麗で可愛らしく美しい飴だった。
「なんだか、食べるのが勿体無いですね」
「ははは! そりゃぁ、嬉しい褒め言葉だ!」
「ふぇも、おいふぃよ~」
お雪は、早速、飴を口の中に入れ頬張っていた。
それを見た二郎は、盛大に笑い出す。
「相変わらず、お前は立派な食い方をするなー! いいことだ、いいことだ!」
「ふぅぇ??」
飴を頬張りながら丸く大きな目を瞬きするお雪。首を傾げるお雪を見て、真司と白雪はクスクスと笑ったのだった。
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