第4話

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 菖蒲たちは百鬼夜行に向けてのお弁当の支度に取り掛かり、お雪と星はお祭りのお手伝いとして再び商店街に向かい外に出て行った。

 勇は完成した酒を菖蒲に届けると「俺も、自分んとこで色々やらなあかんことあるから、また、今夜に会おうや! んじゃな~」と、言って颯爽と帰って行ったのだった。

 骨董屋に残った三人は味見をしたり、重箱に盛り付けをしたりしているうちに、空はあっという間に薄暗くなってきていた。

 正月料理もそうだが、作り出すと思いのほか時間がかかり、時が経つのが早い。


 ――ゴーン ゴーン ゴーン。


 居間にある振り子時計が鳴る。


「おやおや。もう、こんな時間かえ?」

「あっという間ですね。……それにしても、この量は凄いです」

「そうですか ?いつもどおりですよ?」

「ふむ。……まぁ、それでも今年はちと多い方じゃがの」


 そう。真司の目の前には三段の重箱が何十個並べられていた。

 これを三人で運ぶなんてのは確実に無理だ。


「あの……これ、どうやって持っていくんですか? 三人だと無理ですよね?」

「ふむ。それは、問題ない」

「はい」


 菖蒲たちの言っていることがいまいちわからず真司が首を傾げると、玄関の扉が開く音がした。


「姐さん失礼しまーす」

「お邪魔しますぅ」


 玄関から老若男女の声が聞こえてくる。そして、それらは真司たちがいる台所へと向かって来ていた。

 ドタバタと聞こえる足音からにすると、かなりの人数が押し寄せて来たのだとわかった。


「え? ええっ!?」


 誰かが突然押し寄せるように家に入ってきたことに真司は驚き、その場で慌てる。菖蒲はそんな真司を落ち着かせるために真司の肩をポンと叩いた。


「落ち着きんしゃい」

「は、はい……」


 それらはついに台所まで来た。

 真司は、唖然としながら目の前の光景を見ている。目の前には天狗・山姥といった、少々大柄な妖怪が先程のお弁当を持ち去ったからだ。

 そして、あっという間に妖怪達はその場から居なくなる。真司には、何が起こっているのかわかなかった。


「あの……?」

「ふむ。お前さんの言いたいことはわかっとるよ」

「ふふふっ」


 菖蒲と白雪が真司のポカンとしている表情にクスクスと笑うと、菖蒲は彼らについて真司に説明した。


「あ奴らは、弁当を持って行ってくれる妖怪達じゃ。親切な奴等じゃろ? ふふっ。さて、と。時間までまだある。真司や、少しは商店街の祭りも楽しんだらどうじゃ?」

「え?」

「お前さんも見たじゃろ? 商店街を」

「は、はい」


 真司が小さく頷くと、菖蒲は一つだけ真司に忠告する。


「百鬼夜行はの初刻から始まる。それまでに橋の前に来るんよ」

「…………」


 真司は悩む。確かに、商店街はお祭りみたいに賑やかで出店等もたくさん並んでいた。

 だが、妖怪の群れの中に一人で堂々と行くのは、まだ少しだけ躊躇したのだ。


(誰かと一緒なら怖くないんだけど……)


 真司が悩んでいる事を察したのか白雪が微笑んだ。


「では、私と行きませんか?」

「え?」


 真司は悩んでいた顔をあげ白雪と目を合わす。


「雪芽や星ちゃんのことも気になりますし。私も全部はお店を見れていないんです」

「そう……ですね。では、お願いします。白雪さん。菖蒲さん行ってきます!」


 菖蒲は微笑みながら頷いた。


「うむ。気をつけて行ってきんしゃい」

「はい!」

「では、菖蒲様。行ってまいります」


 真司は居間に戻り掛けていた上着を着ると、白雪と共に商店街へと向かった。

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