第2話 これ、ゲームでやったとこだ!
目が覚めると、そこは教室でした。
……いや、待って?なんで?いや、ていうかここどこ?どこの学校?
フリーズしていると、ドアを開ける音と共に背後から声がした。
「あ、やっと起きたのかよ!もう放課後だぞ」
聞き覚えのある声だった。よく見たら、この教室もどこか見覚えがある。
振り返って声の主に応えようとして、また固まった。
「アユム君!!??」
「え、どうしたの急に大きい声出して……変な夢でも見た?」
見間違いではない。見間違えるはずがない。
そこにいたのは、間違いなく私の推し、天川アユム君だった。
「桃子、今日ずーっと寝てたんだぞ。今は疲れてるんだろうって先生たちも大目に見てくれてたけど、大丈夫か?マジで」
えー!推しが!高飛車な推しが私のこと心配してくれてる!?
「ここんところプロデュースで忙しかったし、もししんどかったら、ゆう先輩に言ってちょっと仕事減らしてもらって……って、桃子きいてる?」
やっぱめちゃくちゃ顔がいいーー!!
……いやいや、じゃなくて、え?
推しが目の前にいて、私は教室にいて、えーっと、ん?????
理解が追いつかない。パニックだ。だめだ目眩してきた。
ブラックアウト、再び。
***
目を覚ますと、また知らない風景。
いや、嘘、知ってる。保健室だ、ここ。
ゲームのスチルだと一方向からしか見てなかったけど、天井ってこうなってたんだな。
ようやく理解し始めた。いや、理解はできないけど、たぶん私は、くるスタの世界に居る。きっと直前までゲームをしてたから、こんな夢を見てるんだろう。
なんて幸せな夢だろう。大好きなゲームの中で、推しと同じ学校に通う夢だなんて。できることなら醒めないでほしい。仕事という現実なんて来なくていい。
「おーい、大丈夫か」
覗き込んできた顔を見て、また失神しそうになった。
「んえええ……
「おっ、ついに俺のことを呼び捨てするようになったか。偉くなったなぁ」
「ああああ違いますすいませんちょっと混乱してて!!」
思わずフルネームが口をついて出たが、さっきの感じだと私はアユム君と同い年、つまり1年生。大地先輩は3年生。しかも生徒会長。呼び捨てになんてするわけがない。
慌てて飛び起きると、視界の端に笑いをこらえるアユム君の姿が見えた。
「ははは、それだけ騒げるなら大丈夫だな。寝不足か?ゆうに言ってしばらく休ませてもらおうか」
「……!いえ、それには及びません!」
「そうか?まぁ、はじめての大きなライブが終わったところだし、疲れも溜まってたんだろうな。無理はするなよ」
私の頭を優しくなでて、大地先輩は保健室を出て行った。
頭の感触もちゃんとある。リアルな夢だ……。
自分の頭に軽く触れたあと、少し考えた。このシーン見たことあるぞ、と。
私の記憶が正しければ、この話はシナリオ的には、まだ数話目。入学して最初のライブを終えたところだろう。そして、ライブが成功した安心感と疲れで、主人公は突然倒れてしまう。
ゲームの舞台となる、ここ、星ノ
アイドル科の生徒は入学と同時に、学園が持つ芸能事務所『オフィス銀河』に所属し、ユニットを組み実際に芸能活動をする。
『マネジメント・プロデュース科(通称:マネプロ科)』の生徒は、1人につき1ユニットを担当し、マネージャー兼プロデューサーとして彼らを支え、共に成長して行くのだ。
プレイヤーは、小さい頃に好きだったアイドルに憧れ、この星ノ宙学園のマネプロ科へ入学してきた高校1年生としてゲームを進めて行く。
そして、担当することになるユニットは、各学年それぞれ3人ずつから成る9人組ユニット【Cosmic☆Stars】、つまりこのゲームのメインキャラクター達である。
元々人気のあったユニットに、今年入学した1年生を新たに加え、新体制となるCosmic☆Stars。ファンからの反発やユニット内での不和、ライバルユニットの登場などさまざまな問題を乗り越えて、アイドルとしての頂点を目指す。
そして今は、今年最初の『学園内ライブ』をなんとか終えた……。
頭の中を整理していると、アユム君が隣のベッドに腰掛けた。
「な、なに」
「あのさ」
綺麗な瞳で真っ直ぐ私を見つめながら、真剣な顔で彼は言う。
「俺、まだユニットに加入したばっかで頼りないかもしんないけど、同じ1年なんだし……何かあれば言いなよ」
心臓がうるさい。頼りなくなんてないよ。私、知ってる。
このライブの準備期間中、あなたが一生懸命集客してくれたこと。この先、あなたがどんなに私を支えてくれるか。全部知ってるんだよ。
と、なんだかいい感じのモノローグが出そうではあるが、実際の心の中は「ありがとうございます!!!!!!」と「顔がいいーーー!!!」でいっぱいだった。
どうやら私の夢は、シナリオ通りに進もうとしているらしい。オタク丸出しじゃねえか。
でも、とにかくそういうことならやりやすい。
夢から醒めるまで、できる限り楽しんでやろうじゃないか!
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