アラサーが推しキャラと同じ学校に通う話
@enico_any
第1話 20代最後の誕生日
「ハッピーバースデーディアもーもこー……ハッピーバースデートゥーミー」
むなしい。
なんてむなしい。
これで29回目。なにがって誕生日を迎えるのが。
ちなみに一人で迎える誕生日は10回目。キリ番じゃん。踏み逃げ厳禁!ってか。アホか。
誕生日も29回目ともなると、別に嬉しくもなんともないわけで、ただ「嗚呼、また歳をとってしまったなぁ」と思うだけ。
もしくは「また一人かぁ」と思うだけ。私だけか。
別にお祝いのディナーもなけりゃケーキも用意していない。いつものレトルト食品をレンジでチンして、発泡酒で晩酌しただけだ。
食後にソファで横になりながら、いじっていたスマホの時計をふと見ると、いつの間にか日付が変わっていたのでなんとなく歌ってみた次第である。
SNSの通知がポコポコ鳴っている。
数人のオタク友達が、風船の飛んだ私のプロフィール画面を見て祝いの言葉を贈ってくれているのであろう。
ありがてえありがてえ。後でまとめて返事するから、待っててくれよな。
私は今、忙しいのだ。
仕事かって?いや、仕事の繁忙期はもう済んだ。まぁ仕事といえば仕事みたいなもんではあるんだけど。
ちょっとアイドルたちのプロデュースとマネジメントで忙しくってね。あと今イベント開催中で、今回は推しがランキングボーナスだから頑張らないと……。
「あ、ミスった」
あーーー色々考えてたらミスしたじゃん、ろくでもねえな本当。
スマホを投げ出しため息をつく。
ため息をつくと幸せが逃げるらしいのでもう一回吸う。推しのためにも今、自分のLUCKを失うわけにはいかない。
私は
20代最後、というワードに一瞬顔を青くしてみたものの、別になんも怖がるこたぁねえな、と開き直ったりしている。
30歳を越えることはさも恐ろしいことのように言われているが、別に30歳になったからと言って、突然何かが変わるわけでもあるまいし。
日本人はどうやら若さという言葉の呪いに頭をどうにかされてしまったようで、ただ年齢が若いというだけなのに様々なことが許され、ただ年齢を重ねただけなのに、様々なことが許されなくなっていく。
実在のアイドルをおっかけていた10代の頃は「そんなことできるのも若いうちだけよ」と親に言われ、20代になっても辞めずにいたら「まぁまだ若いから」と半ばあきれられてはいた。
そのうちそのアイドルグループが解散し泣き崩れていたところ、手を差し伸べてくれた(ように感じた)のは二次元だった。
キラキラ輝くキャラクター達。彼らは永遠だった。(基本的には)年を取らないし、方向性の違いで解散しないし、突然メンバーがロックをやりたいとか言って脱退しないし、不貞行為で謹慎になったり事務所を解雇されることもない。裏切られることのない、最高のアイドルだった。
青春スポーツもの、ファンタジー系、歴史もの、いろんな作品に触れてきたが、結局アイドルものが一番しっくり来た。DNAに刻まれたアイドルオタクの血が騒ぐのだ。
結局25歳を過ぎる頃にはどっぷりハマり、どこに出しても恥ずかしくない立派な二次元オタクになっていた。
そして、26歳の頃に出会ったのが、この『とぅいんくる☆スターズ(通称:くるスタ)』だった。
学園生活を送りながら、アイドルを目指す高校生を支えるプロデューサーとなり、一緒にトップアイドルを目指す、熱い学園青春アイドルサクセスストーリーだ。
中でも、1年生の
長いまつげと大きな瞳、そんなに高くない身長と、1年生らしからぬデカい態度。そして「美形」という公式設定。とにかくすべてが私の好みドンピシャで、すぐに恋に落ちた。
もちろん、ゲームの中の私も年を取らないため、永遠に高校1年生。
気を取り直して、再びスマホを手に取った。今ここで諦めるわけにはいかない。あと数日でイベントが終わる。
プレイ画面に戻ろうとすると、猛烈な眠気に襲われた。
明日もまた仕事だ。誕生日なんだから、予定がなくても有休くらい取ればよかった。そうしたら、イベントも思いっきり走ることができたのに。
後悔しながら眠気と戦ったが、健闘むなしく惨敗。
このまま寝たら、スマホの充電とか、寝癖とか、起きた時の身体の痛さとか、色々もっと後悔することになるのはわかってる。わかってるんだけど、もう無理。
視界がブラックアウトしていくのをただ待つしかない。
29歳最初の夜を、寝落ちで終えることになるとは。ごめん、明日の私……。
***
翌朝、ソファに寝転んでいたはずなのに、座った状態で目が覚めた。
どんな寝相だよ……と自分でツッコミながら顔をあげると、そこは教室だった。
……教室?
なんで?
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