第24話 〇〇節に憧れる

 たとえ著者名が書かれていなくとも、読んだだけでこの作品の作者は〇〇だと判る文体があります。俗に、〇〇節と言われるものです。古くは太宰治から、コバルト文庫時代の新井素子や、最近(というほどでもないが)だと森見登美彦などが、代表的な作家でしょうか。

 

 こういった作風は読者を選ぶ傾向はあるかもしれませんが、作家の個性が際立つことにつながり、とても魅力的で羨ましいかぎりです。


 私はもともと文芸上がりではなく、文章書きはもっぱらビジネス文書や仕様書ばかりだったので、没個性的で、読み手が誤解しないよう無駄や曖昧さのない文章を書くという癖がついており、彼らのような文章を書こうと思っても書けません。


 そもそも独自の文体というのは意図的に書いているのか、それとも書くと自然にそうなってしまうのか、そこらへんも疑問に思うところではあります。


 カクヨムでも「これは、あの人の作品だ」と判る個性の持ち主がいます。そんなオリジナリティを持つ作家さんを、勝手ながら紹介したいと思います。



 〇〇節を持つカクヨム作家で真っ先に思いつくのは『坂井令和(れいな)』さんです。

https://kakuyomu.jp/users/sanchandx


 ホラータッチのミステリーからエロファンタジーまでジャンルはいろいろあっても、読んだ瞬間に『これぞ、坂井令和作品だ!』とわかる坂井節は他の追随を許しません。私は最初に手首蒐集家を読んでホラー作家だと思いましたが、次にセクハラ探偵を読んで、あまりの作風の違いにド肝を抜かれました。しかし、全く違うジャンルにも関わらず、間違いなく同じ作家が書いた癖のようなものが感じられる、その圧倒的な個性に驚きました。


 そんな、坂井節の完成形とも言える作品が、『蝉時雨は小さな狂気を奏でる』というコメディタッチのホラーミステリーです。本格ミステリーでありながら、商業作品を含めて今まで読んだことがない強烈な個性がある、私が読んだ中で今の所ダントツのカクヨム投稿作品です。


◇蝉時雨は小さな狂気を奏でる - 坂井令和(れいな)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889088285




 『げえる』さんもまた、げえる節と呼ぶのが相応しい独自の文体を持った作家さんです。

https://kakuyomu.jp/users/gale-chan


 注目の作品にピックアップされた時に何度か目を通したことがありましたが、そのあまりも個性的な作風に、読み続けることができませんでした。


 しかし、カクヨムコン5短編部門に応募された『わたしたち感覚派』を読んだとき、独自の語り口による斬新な物語に脳をシェイクされたような衝撃を受けました。例えるなら、今まで食べることができなかったトムヤムクンが、ある日突然、こんなに美味しい物があるのかと気付いたような感じです。


◇わたしたち感覚派 - げえる

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892263079




 個性というものは、追求するとスタンダードやマジョリティよりも必然的に外れていくことになり、下手をすると読者が許容できる範囲を超えてしまうリスクがあるわけですが、ここで紹介したお二方は圧倒的な個性がありながら、読者を置いてけぼりにすることなく面白さを両立させている稀有なセンスの持ち主です。


 また、こういった作品を読むことで「では自分はどういうふうに書いていくのか?」「自分なりの個性をどこで出していくのか?」を考えるキッカケにもなるという点でも、とてもためになりました。

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