第6話 指輪物語の旅はつらい

 去年から指輪物語を読んでいる。文庫の新版で、やっと王の帰還(下)まで辿り着いた。


 何を隠そう、実は私は指輪物語は読んでいなかった。趣味は読書と言い放ち、本好きのフリをしているにも関わらず、このファンタジー小説の原点かつ頂点を。


 ずっと前に、ピーター・ジャクソンによる映画「ロード・オブ・ザ・リング」が公開された時に見て面白いと思ったが、そのときも原作を読もうと思わなかった。


 しかし、去年、たまたまBSで「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の一挙放送を見たり、カクヨムを始めたりして、自分で小説を書くからには一度読んでおくべきだなと思い、読み始めた。


 そして、読んだ感想は、つまらん! 映画のほうが100倍面白い!


 とにかく文章が読みにくい。元の翻訳が古いせいもあるかとは思うが、たぶん、原文から読みにくいのだろう。フロドが指輪を火山に投げて溶かすというだけの話だが、とにかくくどい。


 ストーリーは映画で知っているにも関わらず、ひたすら細かい情景描写にうんざりし、本筋と関係ない過去のできごとの話が割り込んできたりして、頭が理解に追いつかない。わからない人名やできごとを、wikipediaで調べながら読んでいる。


 一冊読むのに一ヶ月近くかかり、やっと最終巻にたどりついた。そして、思った。

 

 トールキンすげぇ!!!!



 NHKの大河ドラマでは戦国武将ものは視聴率がよく、それ以外は苦戦する。今放映中の「いだてん」の視聴率は10%を切っている。それは、なぜか? 話についていけないからである。


 大河ドラマは一年つづくという構成上、登場人物も必然的に多くなり、細かいエピソードが多くなる。つまり、難しくなる。難しくなれば、一見では理解できない。理解出来ないのだから、つまらないと思うのは当然だ。「いだてん」もちゃんと、NHKから出版されている公式ガイドを読んで、放映中は他のことをいっさいせずに画面に集中したらきっと面白さがわかるのだろうが、予備知識もなく他のことをしながらで見ると、話の内容が理解出来ないし、登場人物が誰が誰だかわからない。


 しかし、戦国武将ものは登場人物が多くても、細かいエピソードが多くても、他のことをしながら適当に見ても理解できる。それは、歴史の知識があるからである。小学校、中学、高校と学び、他にも歴史番組を見たり、歴史の本や小説を読んだりしているうちに、知らず知らず膨大な知識が蓄積されている。


 だから、信長と秀吉が出てきて斉藤と戦えば、もうすぐ一夜城だなとわかるし、そのドラマが独自の解釈で一夜城を描くと、『なるほど、そうきたか!』と面白さがわかる。

 信長がエキセントリックな態度を取れば、『まぁ、信長だからな』と納得するし、神経質な切れ者がでてきたら光秀で、お調子者が出てきたら秀吉だ。光秀と秀吉を演じる役者が、ごっちゃになることなどない。


 つまり、戦国武将ものの大河ドラマを見る時は、予備知識で、いつどこで誰がなにをするか、だいたいわかっているため、そんなに苦労しないで物語を理解することが出来る。途中で、一話二話、見なくたってなんともない。


 戦国時代を舞台にした歴史小説も同じだ。読者が歴史を知っていることが前提になっている。だから、くどくどとした無駄な説明を端折ることができる。



 指輪物語は、架空の世界、中つ国を舞台にした話だ。ヨーロッパの伝承に基づいているが、ほとんど独自にトールキンが作った。だから、指輪物語は、フロドが指輪を捨てに行くというメインストーリーに加えて、舞台となっている中つ国についての歴史や社会を説明する教科書にもなっている。


 今では、エルフとかドワーフとか、あまりにも当たり前過ぎて、トールキンの凄さがわからないが、数千年の寿命があって賢くて容姿端麗なエルフ像はトールキンが作った。ドワーフの酒好きや鋳造加工技術にたけているスキルもトールキンだし、ホビットは完全にトールキンの創作だ。


 話の中で、メインストーリーに加えて、この中つ国の民族や歴史、地理を詳細に書いているせいで、読みにくさとわかりにくさがダブルで襲ってくる。聞いたことのない地名、人名、歴史的出来事が出てくるたびに、歴史と地理のテストをやらされているようで頭がくらくらする。


 さらに、こういった概念的な出来事だけでなく、トールキンが創作した中つ国の風景や建物、道具などの視覚的な描写も、これでもかというぐらいひたすら細かく描写する。文章で精緻なデッサンをしている。


 これらを全部まとめあげて、指輪物語という一つの作品にした。これはもう、天才というか変人である。


 しかも、もともとトールキンは指輪物語を『一冊の本』として出版したかったらしい。紙不足のため分けて出版することになったらしいが、何千ページもあるような本、たとえ出版されても誰も買わないだろう。このことからも、変人だとわかる。


 だから、トールキンはすごい!、変人だけどすごい! 変人と天才は紙一重、いや、同じだ!

 このことに異存はない。


 しかし、それでも言いたい。

 指輪物語は読みにくい!


 そして、この旅ももうすぐ終わる。我ながらよく頑張ったなと思ったら、なんと『追補編』があるという。これは本編以上に読みにくそうだ。


 つらく険しい旅は、まだまだつづく。今日も10ページしか読めなかった。


※指輪物語を読もうと思っている人は、記憶力と理解力と忍耐力の優れている若いうちに読むことをおすすめします。年をとってからだと、つらいですw。

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