第4話 かっこいい台詞を書きたい

 小説を書く上で重要なのが台詞である。いかに、かっこいい台詞を書くか、いかにオリジナリティのある台詞を書くか。それが、とても難しい。


 そんな台詞作りに苦労している私が、すごいなと思うのが、B級アクション映画の台詞回しである。


 B級アクション映画には、印象に残る台詞が多い。

 逆に言えば、B級アクション映画には、かっこいい台詞が必須である。なぜならば、ストーリーで差別化出来ないから。


 敵が攻めてきて、やっつける。要約すると全て同じだ。ド派手なアクションシーンも、そんなにはバリエーションはつけられない。そうすると、必然的に台詞回しが差別化要因になる。


 そんなB級アクション映画から、私の印象に残っている台詞を、いくつかピックアップします。なお、全て日本語版の台詞です。


■コマンドー

 1985年公開の、アーノルド・シュワルツェネッガー扮する元凄腕軍人(役名ジョン・メイトリックス)が、誘拐された娘を取り戻すために、一人でテロリスト集団に立ち向かうという、典型的B級アクション映画ですが、この映画は、特に名台詞がたくさんあります。


 まず、1つ目。


 メイトリックスが悪人集団の中の一人の小悪人と戦い、こう言う。

「面白いやつだ。お前は最後に殺してやる」

と。当然、視聴者は、こいつは最後に殺されると思うだろう。たいして存在感のない悪役なので、ラスボスを殺した直後にでも、エンドロール前に、ついでに殺されるのだろうと。


 しかし、この小悪人、物語中盤で再登場し、メイトリックスと戦う。そして、メイトリックスは、

「お前は最後に殺すと約束したな」

と、記憶力の良さを見せつける。さすが、シュワルツェネッガー。将来、知事になるだけのことはある。


 しかし、この直後、

「あれは、嘘だ」

と開き直って殺してしまうのだ!


 なんという大うそつき! いかに政治家の言葉はあてにならないか、これほど説得力ある事例はあるだろうか!



 そして、2つ目。


 メイトリックスが娘を取り戻す途中で、なんだかんだあって、街であった女性と行動をともにすることになる。そして、二人で武器庫を襲い、武器を強奪して逃げる途中、悪人集団に襲撃される。

 女性をかばい、一人で勇敢に悪人に立ち向かうメイトリックス。ヒーローはこうでなくてはならない。女性はか弱いのだ。

 しかし、悪人も強い。これまでに何人も仲間を殺されているのだから、メイトリックスの強さを学習したのだろう。ある程度被害が大きくならないと、人は本気で対策を立てないという、B級アクション映画でありながらも、現実の厳しさを描く、素晴らしいリアリティ。

 そして、メイトリックスが絶体絶命になり、この物語は主人公が死んで終わりか、なんて斬新な映画なんだと思った瞬間、女性がバズーカをぶっ放して、メイトリックスを救うのである!


 視聴者だけでなく、メイトリックスも疑問に思ったのだろう。なんで一般女性がバズーカなんか撃てたのかと。なので、尋ねる。

「どこで、バズーカの撃ち方をならったんだ?」

と。


 そして、女性は、さも当然と言った口調で答える。

「説明書を読んだのよ」

と。


 説明書を読むだけでバズーカが撃てる! さすが、マクドナルドを世界展開させたアメリカ合衆国である。誰が作っても同じ味となるよう優れたマニュアルを作ることで、マクドナルドは成功した。バズーカだって、誰でも使えるようにマニュアルを作る。そして、女性も、マニュアルを一読しただけで理解してしまう。これが、アメリカの凄さである。


 他にも、この作品は名台詞が盛り沢山なので、古い作品ですが、未見の方は一度視聴されることをおすすめします。



■世界侵略: ロサンゼルス決戦

 2011年公開の、ロサンゼルスを占領した宇宙人を、アメリカ海兵隊がやっつけるという典型的B級アクション映画である。しかも、同時期に「スカイライン -征服- 」というロサンゼルスに宇宙人が攻めてくるという、ほぼ同設定の映画が公開されるという曰く付き。でも、こちらの方が面白いです。コマンドーが、漫才的な台詞回しの面白さだとすると、この作品は、ウィットにとんだ受け答えがうまく、シリアスからシモネタまでカバーするという幅広さが特徴です。


 まずは1つ目。


 海兵隊の隊長が途中で死に、ベテランの軍曹が代わりに指揮をとることになる。しかし、この軍曹の下で戦死した兄を持つ伍長は納得が行かない。そこで、軍曹が言う。


「ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(ここの兄貴に名前が入る)」

と。そして、さらに続ける。

「ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者A)

 ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者B)

 ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者C)

 ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者D)

 ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者E)

 ID✕✕✕✕✕✕✕✕ △年△月△日 〇〇〇〇(死者F)

 …。

 自分の部隊で戦死したもののことは全て覚えている」


 なんと、この軍曹は、自分の部隊で戦死したメンバーのIDとフルネームを全て覚えているのだ! なんという記憶力の良さ! 海兵隊の軍曹になるには身体能力だけでなく、優れた記憶力が必要なのだ。

 この事に感動して伍長が軍曹を認めるようになるのだが、冷静に考えると、この軍曹の部隊、戦死者が多すぎなんじゃないかという疑問もある。



 2つめはシモネタ。


 反撃をする海兵隊。車両の一つがエイリアンに襲われ、なんとか撃退する。

「気持ち悪い、なんか口に入った」

と言った女性兵士に、同乗していた男性兵士が一言。

「おいおい、ファーストデートでいきなりかよ」


 これは、完全にセクハラですね。エイリアンを撃退した後、きっと処分されるでしょう。



 3つ目。これは本作だけでなく、全てのB級映画の中で最も優れた台詞だと、個人的には思っています。


 エイリアンに襲われたロサンゼルスの被害状況を偵察する海兵隊。そして、ただ一人生き残った女性兵士(上述に出てくる兵士です)を救出する。


 しかし、海兵隊の人員には限りがある。仮にも軍人であれば、自分の身は自分で守ってもらわなければならない。そこで、念の為、軍曹が尋ねる。


「銃は撃てるか?」

と。


 そして、女性兵士は答える。

「お言葉ですが、二等軍曹。私が生き残ったのは、美人だからではありません」

と。


 これだよ! こういう台詞を書きたいんだよ! 

 『銃は撃てるか』という質問に、『私が生き残ったのは、美人だからではありません』と答える。

 この台詞を考えついた瞬間、脚本家は自分が天才だと思ったに違いない。自分なら、絶対に有頂天になります。


 『銃を撃てるか』というYes、Noクエスチョンに、『私が生き残ったのは、美人だからではありません』という、YesでもNoでもない文章で答える。しかし、『もちろん、銃は撃てます。それも、凄腕です。なめないで下さい』という意味が伝わってくる。


 こういう台詞回しが、一つ二つではなく、全編に渡って散りばめられる。これが、B級アクション映画の素晴らしさである。


 自分もこういう台詞を書けるようになりたい。

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