第24話 勇気 の 在処 / 覚醒 の 愛
「レフ…………」
プラミアはペンダントを握りしめて、か細く呟いた。
齢一八、かの勇者と出会ってから八年。
もっと、もっと彼と過ごせる筈だった。
「我は生き残る、生き残るのだ――」
王家の言い伝えでは、始祖が残した仕掛けを発動した場合。
発動した者は犠牲になって死ぬとされていた。
絶対の守りを持つメディスの欠片、裏切った持ち主を殺すためには、それをもつもう一人が犠牲にならないといけない。
今の状況では、真偽不明な言い伝えに縋る他なかった。
そして、その言い伝えは真であった。
だが。
「他の女に、レフは渡さん。あの魔族達を殺し必ずや貴方の下に戻ろうぞ」
プラミアは慢心も油断もしていなかった。
彼女が愛する勇者とて、その力を持ってしても何度も敗退を経験している。
そして、かの魔族の力は目の前で見たのだ。
「我に力を貸してくれ、レフ。愛しいレフよ」
魔の王子達は絶対に来る、プラミアを殺しに、始祖の仕掛けを破壊しに来るだろう。
息を整えたプラミアはゆっくりと立ち上がり、堅くペンダントを握りしめ。
「何処から来る、我と同じ所からか? 否、そうではあるまい。来るならば…………」
プラミアは天井を睨んだ、そして次の瞬間。
ギィン、と大きな鈍い音と共に天が裂けて。
舞い降りたるは四人。
魔なる王子、夫の仲間だった女、獣の様なメイド、そして少し遅れて――蛮族。
(――――はいっ!? え、誰だっ!? 奴らの増援かっ!! …………いや、しかしあの腰巻きは学院のスカートではないのか? え、あんな奴居たか? というか、どっかで見た顔――……)
新たな敵の戦力に動揺するも、思考を最大限巡らせるプラミア。
リヒト達が近づく中、屋上と違う所を発見した。
(ルクレツィアが居ない? そしてあの剣、メノウが持っていた物ではないか? 我の推測では女が男になる力も――――――う、ん?)
繋がった、繋がってしまった。
よくよくリヒト達を観察してみれば、決意に満ちた顔が、どこかひきつってないだろうか。
妙に後ろを、蛮族を気にしていないだろうか。
その蛮族も、歩き方が妙に女々しくて――。
「………………おい」
「ん、なんだプラミア」
「アレは何だ?」
「ああ、アレだな? ――――……言わなくちゃ駄目か?」
「言ってくれ、言え、言いなさい。諸共に殺す気だが、気になって眠れなくなりそうだ」
物騒な単語はさておき、リヒトとしても彼女の気持ちは痛いほど分かる。
こうなるなど、誰が予想しただろうか。
「紹介しよう。この蛮族戦士が――――ルクレツィアだ」
「やっぱりかっ!! その剣の所為か!! しかしどうしてこうなるっ!!」
「まだ不確定だが、男に変化した事で、どうも勇者の血が目覚めたらしくてな…………」
「戻るのか? ――いや、今の我がそのような心配をする身でもないか」
「ああ、それはコッチが何とかするさ」
「ほざけ、貴様等はここで死ぬのだ。無論我は生き残るがな」
ペンダントを握りしめ、突き出すプラミア。
その視線は戦意に満ちて。
リヒト達も自然と、戦闘へと意識が意向した。
「念のために聞きましょう、この船の自爆を止める気はありますか?」
カラードの言葉に、プラミアはふん、と鼻を鳴らして答える。
「船? ああ、貴様等はこの空間を知っているのか。――知らないぞ我は、もっとも知っていても止める気など無いがな」
「止めなければ、この星全てが消滅するとしても?」
「どうだかな、恐らく出現した壁はそういった被害を防ぐモノだろう? 我は始祖を信じるまでだ」
「プラミア義姉様……」
悲しそうな野太い声が響く、ルクレツィア本人を除いた全ての者が微妙な顔をしたが、それはそれ、これはこれ。
気を取り直してプラミアは言い放った。
「高位も魔族が複数でよってたかって――とは言わぬ。我とて一人で戦う訳ではないからな!」
そして、リヒトが疑問を口に出す前に。
「『勇者よ、妻の助けとならん』」
彼女の手の中、メディスの欠片が輝いて。
次の瞬間、膨大な魔力がプラミアを包み込む。
「勇者ッ!! ――いや、その力を得たのかッ!?」
「――知っていましたか、最悪のパターンを引きましたね」
膨大な魔力は勇者レフの姿を模したかと思えば、そのままプラミアと一体化し。
王女の周りには四本の剣が浮かび、右手にも一本の剣が出現する。
「どうやらメイドは知っている様だな。これこそがメディスの欠片の力、――遠く離れた妻の危機を救う勇者の写し身」
「全員散開ッ!!」
「ハハハっ、相手にとって不足無し! 滾るなぁ!!」
「バカオンナ! 仲間だったのなら対処法は知っていませんかッ!」
「い、今のわたしなら――、うう、やっぱり怖いですっ!」
「魔王を殺した力、存分に味わうがよい――――!」
プラミアによる一方的な蹂躙が始まった。
然もあらん。
本人はメディスの欠片により強固な防御、そして勇者による圧倒的な火力。
「――『雷の壁』『炎の渦』『氷の槍』!! ああもうっ! 時間がないっていうのにっ!!」
「ははははっ! なんだこりゃあ! 剣の腕も勇者の同じじゃないかっ! 殺しがいがあるってもんだ!」
「ひええええっ!? あふううんっ! 熱っ、冷たっ、ひぃんビリビリしますぅっ!!」
「圧倒的ではないかっ!! そのまま嬲り殺しにしてくれようぞぉおおおおおおお!!」
「クソッ!! 反則じゃねぇのかよッ! 何か弱点は無いのかっ!!」
リヒトを背に、カラードは四本の魔法剣の内、炎と雷を防ぐので手一杯。
オニキスの拳はメディスの欠片で完全防がれ、プラミアの剣を回避するしか出来ない。――否、彼女をその場に止まらせているだけ健闘といえよう。
蛮族ルクレツィアといえば、戦闘経験などある訳がなく地と風の魔法剣から逃げ回って、挙げ句、炎と雷の魔法を何度か掠める始末。
(プラミアにカラードの魔法は利かないッ、オニキス姉ぇもだッ! ルクレツィアは妙に頑丈な気がするが――使えるか?)
今の状況で魔眼が使える筈もなく、リヒトに出来るのは考える事だけ。
(このままじゃあ、親父達が死んだときと同じだッ!! ――……同じ? いや、そうじゃないッ!)
勇者の蹂躙を直に目にしたから判る。
今のプラミアは。
(あのクソ男より弱いッ!)
だが、あくまで比較してだ。
あの殺戮の場でリヒトを身を挺して隠し、その場からの脱出を訴えていたカラードが。
「オニキス! せめて間接を極めるとか出来ないのですかっ!!」
「無茶言うな! メディスの欠片の守護を破ってから言ってくれっ!!」
こうして、姉と会話を交わす余裕がある。
そして、この施設に被害が出ている訳ではない。
あの理不尽な威力を、振り回している訳ではないのだ。
(どうにかしてルクレツィアの剣で、この施設を破壊――いや駄目だ、間に合うかも分からんし。下手を打って爆発が速まったら何もかもおしまいだッ)
リヒト達の目的は爆発の阻止、プラミアの撃破は絶対ではない。
こちらの手にメディスの欠片が複数ある以上、王女の後ろの端末にたどり着きさえすれば、止められる可能性が出てくる。
(オニキス姉はプラミアと渡り合えてるッ! カラードとルクレツィアが剣を分散させているのも一因だろうが――)
先ほど姉が叫んだ通り、メディスの欠片を無効にすれば勝ち目が出てくるという事であり。
(――――これは賭けだな)
何もかもが不確定な予想に基づいた、もはや願望と言ってもいい妄想。
それを、やってみるしかない。
リヒトが思考を巡らせている横で、カラードは躊躇している事があった。
(……手はあります)
たった一つ、何もかも解決するかもしれない方法。
それを実行するのに、――少しだけ、勇気が足りない。
(もし、もし――繋がっていないのなら)
カラードとリヒトの心が、繋がっていないのなら。
(もしも、力の先が私の想像通りでないとしたら)
リヒトと長年側に居た、自身の想像が間違っていたら。
(――怖い、怖いです)
共に死ぬ事よりも、どちらかが生き残るよりも。
想いが届いていなかった事が、何より怖い。
(二百年以上生きてて、これが私ですか。嗚呼、なんと弱いことか)
いくら長生きしても、魔法の腕を磨いても、知識を蓄えても。
勇者という圧倒的な暴力の前には、為す術がなかった。
たった一人。運命の者に対し、自らの想いを証拠を出すのが怖い。
カラードの戦意が諦観に染まっていく寸前。
オニキスがプラミアの攻撃を捌けなくなっていく寸前。
ルクレツィアが初めての戦闘に心折れる寸前。
(――――皆、聞いてくれ。策がある)
リヒトはカラードの魔法を通じて、確かな声を。
俺は諦めていないと、まだ諦めるには早いと鼓舞する様に。
(よし! 良く言ったリヒトっ! それでこそワタシの弟っ! さ、何でも言え! この姉が見事成し遂げてやろう!)
(はわっ、あうっ、ひぃっ!! な、何でもいいので早く実行してくださいっ!! お肌が焦げて、お風呂に入れなくなっちゃいますっ!)
(――ご命令を。ええ、もし失敗しても次の博打のアテがありますわ)
カラードは静かに決意し、そして感謝を捧げた。
もしリヒト二人だけであったら、ぬるま湯に使った終わりを選んでいたかもしれない。
だが、もし死ぬとしてもこの二人が一緒なのだ。
リヒトと二人だけで死ねない。
それは、とても。
カラードにとって非常に、面白くなかった。
恋敵二人の存在が、カラードに必要だった少しの勇気を、嫉妬という形で補完する。
(カラード、学院でオニキス姉ぇと戦った時を思い出せ。オニキス姉ぇとルクは、プラミアにそれを悟らせるな)
(つまり、わたしはどうすれば?)
(こっちに突撃して王女を二人でボコるって事だっ! さあ来い愛人ちゃんっ!)
次の瞬間、カラードは首から下げていたメディスの欠片。
二つを組み合わせていた物を、再び二つに戻しオニキスへ投げ。
同時にリヒトも己のメディスの欠片をルクレツィアに。
「ぶちかませルクレツィア! オマエの蛮族っぷりを見せてやれェ!!」
「わたしは蛮族じゃありませんっ! ――これでもう攻撃は怖くありません! いざプラミア義姉様覚悟ぉ! 豪腕! 粉砕! ア゛ーーーーイ! ア゛ーーーーーーイ! ア゛ーーーーーーーイ!」
「ぬおおおおおっ!? ルクレツィアが身も心も蛮族になっているだとっ! おのれ魔族めっ! 許さないぞっ! というかそのスカート破れて何か見えてるんだけどっ! レフより大きいのだがっ!?」
「はっはーーっ!! これでオマエの攻撃は効かないっ! 組み伏せて蛮族に犯されるがいいっ!! ていうか駄犬ぅっ!! もっと早くペンダント渡せってぇのっ!!」
「ごめんなさいねオニキス、リヒト様と一緒に死ねるなら、渡さなくてもいいかな、と」
「カラード様っ、色ボケし過ぎですっ!! うらぁっ! 掴まえましたっ!!」
「うーん愛が重い。……つーか、緊張感さんは何処に行ったのだか?」
最初からこうしていれば、絶望的な状況とか策を立てる必要があったのだろうか。
などと頭にチラつくリヒトであったが、ともあれ結果が出れば良いのである。
(押さえ込むまでは良いが、メディスの欠片は外せないだろうし。その間に施設の制御――いや、駄目だ。浮遊魔剣の防御にカラードが当たるとしても、施設の制御…………一か八かやってみるか?)
爆発までの残り時間は、後十分も無いだろう。
「王女捕らえたりぃいいいいいいい!!」
「プラミア義姉様! 観念して自爆を止めるのですっ!」
プラミアが組み伏せられた瞬間、人工知能の放送が。
『――権限者の行動不能を確認、戦況の不利を確認、当施設の機密保持及び、対象の粛正の為。自爆シークエンスを早めます、……爆発まで後五分』
となると、慌てふためくはリヒト陣営。
対して、プラミアは勝ち誇り。
「聞いてねぇぞっ!? 半分になってるじゃねぇかっ!!」
「うむ、良きに計らえっ! はぁーーはっはっはぁっ!! 最後に正義が勝つのであるっ!!」
「カラードっ! リヒトっ! どうすんだよコレっ!! いっその事壊してしまうかっ!!」
「予定では、水攻めにしてメディスの欠片外させる筈でしたが、悠長にしていられませんね」
「――はっ! そうですっ! この剣の力で何もかも壊してしまえばっ!」
蛮族ルクレツィアが剣を振り上げた瞬間、再び人工知能の放送が入る。
『脅威判定更新、第一種敵性存在を確認。――我々宇宙軍は「滅び」の手に落ちる訳には行きません。これより制御盤をロック。また、攻撃が確認された場合。カウントを中断し自爆を行います』
「ド畜生っ!! なんか状況が悪化したァ!! つーか第一種敵性存在って何だよッ! 何故今更そんなよく分からんもんが確認されたんだッ! 何処に居るんだよソイツ!?」
「ルク! ステイですっ! 直ちに剣を下ろしなさいっ!」
「は、はい~~っ!!」
「ああ、これが死に場所かぁ。親父様、貴方の愛娘オニキスが今、お側に参ります……――――」
一か八かの手段が全て封じられ、文字通り風前の灯火。
そんな中、カラードだけが闘志に燃えていた。
今だ、今なのだ、愛を証明するのは。
「リヒト様、――今度は私の博打に乗ってくださいませんか?」
「おおッ! 何か手があるのかカラードッ! 俺は信じていたぞカラードッ!!」
「どうなるかは未知数、成功しても状況は解決しない可能性だってあります。……個人的には、分の良い賭けだと思うのですが」
「御託は良いっ! とっとと始めろ駄犬っ! 失敗でも死ぬだけだ!」
「が、頑張ってくださいっ! わたしはまだ人生を謳歌していないんですからねっ!!」
「貴様等の悪足掻き、特等席で眺めてやろうぞ! 今際の際に我を楽しませるが良いっ」
「――まったく、もう少し風情を理解して欲しいものです。さ、リヒト様。貴男は私の心と、貴男自身の可能性を信じますか?」
麗しい銀髪の少女の茶化すような声色、しかして真っ直ぐな瞳。
リヒトは自信満々に頷いて。
「愚問だなカラードッ! 俺はオマエを信じているし、――勇者を殺し世界を征服して、魔族を率いる男になるのだからッ!!」
「ふふっ、そう言って貰えて嬉しいですわ。――では、始めましょう」
美しき狼の女は、メディスの欠片を首から外し。
慈しむ様に両手で握って。
魔力を込めた声で、祈るように一言。
「――――『貴男に全てを捧げます』」
その瞬間であった。
カラードの体が揺らめくように光ったかと思うと、その光はリヒトに注がれて。
「ッ!? カハッ! ギギギッ。アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ドクン、ドクンとリヒトの心臓が痛いほど大きく鳴って。
ガチン、ガチンと此処ではない何処かへ繋がって、何かの経路が無理矢理開かれていく感覚。
――虹色の瞳、突き刺すような激しい痛みと共に輝いて。
リヒトは立っていられず膝をつく。
時を同じくして、カラードもよろめき片膝をつく。
「お、おいっ! 何をしたんだっ!?」
「リヒト様……」
「はははっ! 何だ自決か? そんなに死が待ちきれなかったかっ!」
彼女たちの声を余所に、カラードはリヒトだけを見つめる。
銀の雌巨狼は今、彼女達と違う物が見えていた。
己から抜けゆく力、――否、力という生易しいモノではない。
(そうですっ、リヒト様っ! 見せてください貴男という存在を――――!)
魂、存在そのものがリヒトという男に融和していく悦楽。
感じるのだ、愛おしい男が更なる進化の道を急速に歩んでいくのを。
脳髄を犯す愛という快楽、献身という愉悦に浮かされカラードは譫言の様に口走る。
「嗚呼、嗚呼、嗚呼……。これこそがメディスの欠片の本当の力っ!! なんと素晴らしい! 愛しい存在に自らの全てを重ね併せて――――本当のっ! 本物のっ! 世界を統べる魔王を作り出すっ!!」
そして。
「感謝します先祖メディスカラードっ! 偉大なる二代目魔王の妻よっ! 貴女の残した夫への大いなる愛! 大いなる献身っ! 夫を支えるは唯一の妻っ! 夫の覇道を支えるは唯一の妻っ! 愛の証っ! 私のっ! 嗚呼っ、私の、本物の魔王リヒト様――――っ!!」
狂気すら感じられるその叫びに、オニキスもルクレツィアも、そしてプラミアも圧倒されて何も言えない。
自分達は、何に立ち会ってるのだろうか。
自分達は、何を呼び覚ましてしまったのだろうか。
本物の魔王とは、いったい何なのだ。
狂気と恐怖が支配し、爆発までの時間が迫る中。
リヒトは、流れ込む情報の津波に襲われていた。
(何だ、何だこれはッ! ――何もかもが見えるッ!?)
己の構成する細胞、分子、魂の在処、生誕の時、見知らぬ父の顔に、見知らぬ母の顔、愛、愛、愛、そして魔王ナハトヴェール。
(小さいオニキス姉ぇ? いや違う、これは親父の奥さんだ、……俺は今、何を見ているっ!?)
カラード、カラード、カラード、彼女を構成する分子、細胞、魂は今リヒトと重なって。
彼方へ、彼方へと誘うように手を引き。
(日の光が注ぐと木々が成長する、落ちたリンゴは引力に引かれ地面に落ちる、しかしそのリンゴも実は引力を持って)
蝶の羽ばたきで、遠くの大陸に嵐が巻き起こる。
小石一つ、池に投げ込んだだけで未来の生きるはず魚が生まれない、因果消滅を起こしたのだ。
(道筋? ――いや、理。この世界の理、それを知って何が出来るってんだ、…………繋がって、手足の様に?)
時の流れは一定ではないし、時間そのものは一つではない。
しかして世界を犯す滅びがあって、願いが祈りが切望が絶望と希望の狭間で。
(そう、か――――)
リヒトは唐突に理解した。
恐らく、繋がっている今だけで直ぐに理解不能になるのだろうが。
(親父達の、勇者達の、連なった力はこの為に)
森羅万象、その一切を改竄せん。
――虹の瞳、淡く揺らめいて。
「カカカッ! 嗚呼ッ! 待たせたなカラード!!」
「ご帰還、お祝い申し上げます愛しい人よ」
「愛、感謝する。熱く熱く抱いてやろう、――さて、その前に」
リヒトは掌をプラミア達に向ける、すると三人のメディスの欠片は宙に浮きカラードの手へ。
「馬鹿なっ!? 何をしたのだっ!」
「知らないのか? ――真の魔王には逆らえない」
続いてリヒトは、天を見上げ地を見下ろし。
「――ふぅむ、エネルギーの総量は単体では下げられないか。なら」
パチンと指を鳴らし、直後リヒト達はまったく別の場所へと。
「ふぁっ!? リ、リヒト様ぁっ!? いったい何時この場所にっ!?」
次の瞬間、誰かの声が聞こえた。
プラミアが視線を動かせば、壮年の魔族が驚きに目を見開き、見渡せばやはり魔族、魔族、魔族。
それに加えて材質の分からない床、壁、窓のようなモノには地図や謎の模様が浮かび。
彼女の答えは、オニキスによってもたらされた。
「ここは――、航宙戦艦『テラ』!? 骨董品の中にっ!? お、おい、どうなってるっ!?」
困惑の声を上げるオニキスに、カラードもリヒトに問う。
「空間転移、――リヒト様、援軍として呼んでいたテラの中で何を?」
「ああ、学院の縮退炉のエネルギーをテラに移して、相転移砲で消滅させようかなって」
しかし、彼の答えにブリッジクルーが声を上げる。
「はぁっ!? そりゃ無理ですぜリヒト様、もうとっくの昔にお釈迦になってますよ?」
リヒトはまたも指をならし、彼らに笑顔を向ける。
「ほれ、全盛期の性能に戻した。――言ってなかったな、一時的に魔王の力に目覚めたんだ、俺を信じろ」
それは彼らにとって良く知る口調であった。
いつもなら、何をしたのかと頭を抱える所だったであろう。
だが、今のリヒトからは不思議と信じさせる、そして畏れ敬いたくなる何かがあって。
訓練された魔族の兵らは、魔王の勅命を受けたが如く各自の役目に戻る。
「何処かからテラへのエネルギー供給を確認っ!」
「相転移砲、その他各種兵装全て稼働っ!」
「重力フィールド展開可能っ!」
「標準、カリエンテ王国デフェール女学院! 設定完了! いつでも行けますっ!」
「おっと、ちょい待ち。地下施設のデータと生徒達を転移させる。――ん、終わった。何時でもいいぞ!」
リヒトはカラードを見る、彼女は頷いてテラの艦長に視線を。
そして。
「相転移砲、撃てぇえええええええ!!」
その日、大陸から一つの学び舎が跡形もなく消え去った。
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