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ジラが銀河ステーションの路線を調べると、それは円環構造になっていた。
つまり、この列車は動く、動かないはともかくとして、初めからこの幽霊の街の外には線路が続いていないということになる。(線路は幽霊の街の中を抜けて、それから外周付近を一周ぐるりと回っているだけだった)
最初は外にまで線路は通じていたのかもしれない。(橋かなにかで外側に線路が続いていたのかもしれない)
でも、今はそれはない。念のため地下も調べてみたけれど、秘密の地下構造なども、少なくともこの銀河ステーションにはないようだった。
列車も、やはり立派だけど、古く、もう長く使われている形跡はなくて、動いたりもしていないようだった。(この列車は幽霊の街の列車らしく、どうやらやはり、もう年老いて、死んでいる列車のようだった)
それからジラは列車の中に入ってみようと思ったのだけど、列車のドアは硬く施錠されていて、ドアを開けることはできなかった。(無理やり道具を使って、開けたりすることもできたけど、警報などがなるかもしれないのでやめておいた)
ジラはとりあえず、自分の活動の拠点をこの銀河ステーションの中に定めることにした。(かげろうとの約束もあることだし)
それからジラは銀河ステーションの屋根の上に移動をして、そこに体育座りをして座って、ぼんやりと幽霊の街の姿を眺めていた。
どこにも辿り着かない円環の列車、……か。(まるで宇宙を孤独に流れる、……一つの彗星の軌道のようだった)
あるいは、天の川銀河の街の周りをぐるぐると回っている古風な作りの列車。それはまるでおもちゃのようで、と言うかこの銀河の街自体が、まるで巨大なテーマパーク、つまり遊園地のようだとジラは思った。(実際に、本当にテーマパークのようなつもりでひまわりはこの街を建設したのかもしれない。確かにそう思ってみると、どことなくこの街は作り物っぽい感じがした。世界のどこかにあるようで、実はどこにもない場所のようだった)
死者の国、……か。
幽霊(ホロウ)たちが暮らしているのだから、きっとこの街は死者の国、あるいは死者の街と呼ぶのが、本来正しいのだろう。
この街は大きな墓標だ。(きっと人類の墓標なのだ。この街は……)
首都機能のある都市にあるような霊園のような場所。
死者の国と、そこで暮らしている幽霊(ホロウ)たち。
彼ら(彼女ら)はどこから来て、またどこに行くのか……。あるはどこにもいかないのか? (円環構造の列車のように、同じ場所をぐるぐると回り続けるのか)
遊園地のメリーゴーランドのように。
機械仕掛けの馬のように。
ユニコーン。
ペガサス。
競争がない世界。
誰にも追い抜かれることもなく、誰も追い越すこともない、ユートピア。
幻想の国。
作り物のアトラクション。
……それを作り出したのは、誰? ……もしかして、神様?
この世界の神様は、浮雲ひまわり。
あなたなの?
幽霊(ホロウ)を生み、命を誕生させ、それだって、本当にすごいことなのに(あるいは、人類の倫理に反していることなのに)それだけに止まらず、あなたは世界中の人たちを敵に回しても、こんなくらい、誰も訪ねる者もいない地下にこもってまで、ここで『心を生み出す実験』をしているの?
心ってなに?
それはあなたの輝かしい天才の(人々の祝福に満ちた)人生を棒に振ってまでして、手に入れなければいけない、成し遂げなければいけないものなの?
ひまわり。
答えて。
……笑ってばかりいないで、ちゃんと私の質問に、……いつものように私に正しい答えを与えて。
「地上では、また戦争が起こるかもしれないって、情報があったね」
時計が真夜中の十二時の時間で止まったままの、永遠の夜の中に閉じ込められた幽霊の街を見ながら、ジラが言った。
「はい。またたくさんの人たちの命が、その戦争で失われてしまうでしょう。私の計算では、現在のところ、おそらくその数は一千万人ではすまないと予測できます。それだけではなく、戦争の被害を受ける人たちの数は数億を超えるでしょう』
「それがわかっていても、人類は戦争をする。戦争を選択するんだね」
『戦争を阻止しようとしている人たちもいますが、おそらくは無理でしょう。物事には加速度があります。今、戦争を止めることは走り出した運命の列車の前に体一つで立ちふさがるようなものです。それで誰かがブレーキをかけたとしても、その人はその列車に引かれてばらばらになってしまうでしょう。……その事故によって、列車は一時的には停止するかもしれませんが、やがて再び同じ方向に向かって、走り出します。時間という線路は一方にしか伸びていないからです』
「一時的でも、止められれば立派なもんだよ」ジラは言う。
『命は一つしかありません。私はそういったやりたかには、あまり賛成することはできません』みちびきは言う。
「あんまり人工知能っぽくないことをいうね」
『私は、……あなたに死んでほしくないと思っているだけですよ。ジラ』優しい声でみちびきが言う。
「……うん。ありがとう。みちびき」ジラは言う。
それからジラは銀河ステーションの中にある比較的冷たい風を防げる場所を探して、そこで(まるで猫が丸くなるように)丸くなって、目を閉じて眠りについた。
幽霊の街で眠りつく、か。あんまり縁起の良い行為ではないな。そんなことをジラは思った。
『御休みなさい。ジラ』
眠りを必要としないみちびきが言った。
「御休み。みちびき」
ジラはそういって眠った。
『……良い夢を』眠りにつく瞬間、みちびきが右の耳元でジラにそういった気がした。
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