28 愛とはつまりあなたのことです。
愛とはつまりあなたのことです。
二人は手をつないで天の川銀河の街にある銀河ステーションの中から出た。(みちびきが『ジラ。あなたの手が凍傷を起こしています』と指摘したけど、「……うるさいな。ちょっと黙ってて」と小声で言って、ジラはみちびきの言葉を遮った)
「ねえかげろう。私たち友達になろうか?」とにっこりと笑ってジラは言った。
するとかげろうはえ? という顔をしてから、すぐにみるみるとその顔を笑顔にさせて「はい。よろしくお願いします。ジラさん」とまるで太陽のような笑顔をして、ジラに言った。
「こちらこそよろしく。かげろう」そう言ってジラは子供っぽい表情で笑った。
それから二人は銀河ステーションの間で手をふって『さよなら』をした。
ジラが銀河ステーションの前でかげろうを見送り、かげろうはばいばいと言いたげに、ジラにずっと手を振りながら、幽霊の街の中心にある大きな中世のお城のような建物(あれがきっと幽霊の学校なのだろう。ひまわりの本拠地であり、幽霊の実験場だ)に向かって、足早に移動していった。(後ろを振り向いたまま、走っていたので、かげろうは一回、ジラの見えるところで、転んだりしていた)
かげろうの姿はそのまま闇の中に消えるようにして、見えなくなった。
かげろうの姿が見えなくなると、ジラは目を閉じて、初めて出会った幽霊(ホロウ)である竹田かげろうについて考えてみた。
幽霊。
……ホロウ、か。
幽霊(ホロウ)とはあれほど、柔軟に物事を理解し、行動できる命なのか。ひまわりのことだから、もっともっとぎちぎちに、それこそ、自由意思などないように、……実験動物のように、あるいはロボットのように、幽霊を育てているのだと思っていたのだけど、どうやらそれは違ったようだ。
少なくともかげろうには自由があった。
意思があった。
……それと、私の思い違いでなければ、確かにかげろうには『心』があった。しかし、それは本当に心なのか? もしかげろうが、『つまり幽霊(ホロウ)が心を持っていたとしたら、ひまわりの実験はすでに完成しているということになる』。(あるいはかげろうがひまわりの実験の中でも完成にもっとも近い場所にいる実験体の一人なのだろうか? 情報が、おそらくは意図的に外部にリークされたことを考えると、もしかしたら、そうなのかもしれない。でもいったいなぜそんなことをするのか。その意味が理解できない。幽霊には心がある。あるいは、心に近いものがあるが、まだ、心になっていない? その足りないなにかを求めて、あなたは情報を外部にリークした。そのことで、その足りないなにかを手に入れようとしてる。あるいは、私がこうして、この砂漠の地下にある幽霊の街に侵入すること自体が、あるいはあなたの最終実験の一環なのかもしれない。私はずっと、昔から、そして今も、あなたの手のひらの上で踊っているだけの人形なのかもしれない……。考えすぎかな?)
ジラは目を開けて、それから大きな中世のお城のような建物を見上げる。……そこには、あの天才科学者であり、世紀のマッドサイエンティストである浮雲ひまわりがいる。
ひまわり。……あなたはそこでなにをしているの?
心を生み出すことで、あなたは世界にどんな変化を望んでいるの?
心を生み出す実験とは、それほど重要なことなの?
……わからない。昔から、あなたのことはわからないことばっかりだった。
『ジラ。このままあのかげろうくんを誘拐(あるいは、保護)してしまっても良かったのではないですか? かげろうくんをひまわり博士のもとに帰すことは危険すぎると思いますが……』みちびきが言った。
「……そうかもしれない。でも、……かげろうには友達がいるんだよ。その友達が、かげろうの帰りを待っているんだ。邪魔することはできないだろ」ジラは言う。
みちびきは無言。(あるいはジラの言っている言葉の意味が、みちびきにはよく理解できないのかもしれない)
「それに今は、まだこちらの情報収集と準備が不足しすぎている。かげろう(幽霊 ホロウ)にあったのは、本当に偶然だったからね」ジラは言う。
『……そうですね。確かにまだ準備不足ですね。かげろうくんを保護することも、私たちがこの地下から脱出する通路も、UFOの修理も、なにもかも終わっていませんからね』
「まあ、そういうこと」明るい声でジラは言った。
幽霊の街の中に冷たい冬の風が吹き抜ける。
その風がジラのマゼンタ色のポニーテールの髪を揺らした。
ジラは、その風の中でもう一度、目を閉じて意識を集中させて、それから目を開いたジラは、後ろを振り向いて、銀河ステーションの中の探索を始めることにした。
すると瞬間、まるで最初からその場所には誰もいなかったかのように、あっという間にジラの姿はその場所から消えた。
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