第33話~冬馬と二人
自動販売機で清涼飲料を買った冬馬は、「私たちの模擬店にも遊びに来るように」という刹那社長の命令を受けて、三年生のフロアへと階段を上っていた。
(てか、人多いな)
今日は一般公開の日程で、地域の人たちを筆頭にしたこの高校の生徒の友達や親、他にも様々な人たちが来ていて、いかにも大賑わいといった様子だ。
純はと言うと、彼女の秋野が学校祭に遊びに来ているとのことで、一時間くらい一緒に行動することになっているらしい。まあ、何分か前に遠くで二人を見かけたが、明らかな幸せな雰囲気が漂って見えたので、なんだかんだで上手くいっているらしい。
(はぁ……。純の奴、羨ましいなぁ)
ごく普通の一般男子高校生ならば、人生で一度は学校祭で彼女と一緒に模擬店を回ってみたいと思うだろう。
もし自分に彼女がいたら、多分隣を歩いている姿を見るだけでにやついちゃうんだろうな……と頭の中の邪な想像の中に、ある女の子と手をつないで歩いている自分の姿が思い浮かぶ。
(……なんで想像の中にも出てくるんだよ)
慌てて脳内で再生されたビジョンを振り払う。
もしそれが叶わないとしても仲の良い友だちと行動が出来たらきっと楽しいと思う。
(まあ、俺は一人なんだけどなぁ……)
そう考えるも、あまりナイーブにならないように別の事に思考を凝らす。刹那社長のクラスは、この階段を上りきって真っ直ぐの突き当りにあるはずだ。
出来るだけ人にぶつからないように、壁際に沿って目的地へと向かう。と、そこで背後から突然自分の名前を呼ぶ女の子の声が聞こえた。
「あれ、水城? 水城じゃん! なんでここに?」
あまり聞き覚えのない声に、誰だろう……と振り向く。だが目の前の女子は他の高校の制服を着ていたので誰だか理解が出来ない。
けれどもどこかで会ったような……と思い、顔をよく見てみる。
「あ……」
すらっと伸びた高い鼻に長いまつげ、一瞬とはいえ髪色が明るくなっていて気が付かなかったが、冬馬の瞳孔が昔の面影と照らし合わせるごとに、目元のほくろがより一層と信憑性を高める。
何で……。何故お前がここにいるんだ。
「忘れたの? 中学の時の同級生の
背筋に悪寒が電撃のように迸る。
忘れたのって、忘れられるわけがない。何故ならこの前原こそ冬馬を人間不信にし、中学時代のいじめの元凶と言っても過言ではない人物なのだから。
「忘れてないよ……」
こんな所で前原に遭遇してしまうだなんて、完全に油断していた。冬馬が少し離れた土地に引っ越したのでもう顔なんて見なくて済むと思っていたが、どうやらそれは大間違いだったようだ。
「あっれー、藍那こんなカスと知り合いなの?」
「まー中学の時のね」
前原の影から冬馬カス呼ばわりした伊達が顔を出す。またもや冬馬が今一番会いたくない人物が出てきて、遂に自分のこれまでの人生の中で大嫌いとも言えるツートップが揃ってしまった。
「……何で二人が一緒に?」
「んー、元はネットで知り合って、たまたまこっち来る予定あったから学祭に寄るついでに挨拶でもしてこうかなって」
よく耳にする話だが、今の時代はインターネットが発達しすぎて、お互いの情報が皆無の人同士と簡単にコンタクトが取れてしまうようになってしまった。ただそれは「誰とでも」連絡を繋ぐことが出来る分、このように性格が最悪な人同士を引き寄せる事も可能にしてしまう。
現に一人でも相手にするのが厄介な人が、冬馬の目の前に二人も揃ってしまっている。
一刻も早くこの場から立ち去りたい冬馬は一歩下がって「それじゃまた」と言ってこの場から居なくなろうとしたが、それを前原が遮った。
「水城最近学校生活どーなん?」
「どうって……」
お前の隣にいる変な奴のせいで静かに学校生活を過ごしているよ、と言えるわけもなくどういう風に言い訳をしようと考えていたが、にやついた表情で伊達が口を出した。
「どうもこうも、こいつ球技大会で調子こいてから皆に虐められてるよ」
「えーマジ? 中学の時と何も変わってねーじゃん!」
相変わらず散々な言われようだ。本当はこいつらの顔を見るだけで腸が煮えくり返ってくるが、もし暴力沙汰などを起こしてしまったらまた家族に迷惑をかけてしまう。
冬馬は何を言われてもグッと堪えることに専念してこの場をやり過ごすことにした。
「中学の時ってこいつなんかやったん?」
純粋な伊達の言葉に、ここで一つの疑問が蘇る。
端的に考えるとなれば、自分は中学生の時に彼女に告白をした。それで次の日から虐められた。詳しく言うとなれば告白をした次の日に黒板に書かれた文字を見たクラスメイトたちに虐められた。だがよく考えてみるとそれだけの理由で虐められるなんておかしすぎる。
「水城、私のこと好きでさー。無理だったから振ったけど、水城が私にちょっかいかけたって知ったクラスメイトが私の為にめっちゃ怒ってそれから虐められてたんだよ」
前原から事の端末を聞いた伊達は「なにそれめっちゃウケんだけど!」と馬鹿にしたような笑いを溢し始めた。
だが全然面白くないのは明らかで、冬馬が前原に聞いてみたいのはもっと別の事だった。
「……何で黒板にあんなことを書いたんだ?」
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