第3話〜友と学習室
冬馬は隣に座る純が主催した、クラスの中で仲の良い友人たちを集めたお菓子パーティに参加させられていた。
お菓子パーティに集った冬馬と純を除いた他三人は、一応クラスメイトなので面識はあったが、会話をするというレベルの親しい関係ではなかった。だが、さすが純の友達という事で、オタク知識を前面に出した個性的なキャラが多く、以外にも話しやすかったのですぐに友達になれた。
他の場所を見てみても、自分達と同じように大部屋のあちこちでお菓子パーティやカードゲーム、携帯などの電子機器で通信対戦を繰り広げる小規模な集落が存在していたが、そこには明らかなスクールカーストの上下という仕切りはなく、勉強合宿に参加した男子生徒たちは皆で謎の連帯感を築き上げていた。
「冬馬、どうかした?」
「あ、いや、あんまり喋んないやつでもちょっと一緒に居て話しただけでこんなに仲良くなれるんだなって」
「見た目が苦手でも、話してみれば優しかったり面白かったりする人って結構いるよね」
冬馬は他のクラスメイトとコミュニケーションの壁を感じて、今まで一番仲が良かった純としか話してこなかったが、まだ一日も経っていないこの勉強合宿を通して、以前まで苦手意識があった見た目がヤンキー風の強面な人や、自分が勝手に壁を作っていたスポーツ万能でモテモテな人と関わっていくうちに、自然と話ができるまで知らない内に仲良くなっていた。
確かに純の言う通り、偏見で物事を判断するのは良くないみたいだ。第一に勉強しに来たつもりだったが、他に人間としての大事な何かを学んだ気がした。
「よし、お菓子も少なくなってきたし、そろそろ地獄のババ抜き大会でもしますかぁ!」
床に散乱したお菓子を見ると、あれだけ大量にあった菓子類の
「俺、今から学習室行って課題解いてくるね」
「えー、ババ抜きしようぜー」
「ごめん、ちょっと今日の数学の講習で分からないところがあったから。皆はババ抜き続けてて」
「そっかぁー、それなら仕方ないなー」
冬馬は肩を落として落ち込む純に「帰ってきたらやってもいいよ」と言い残すと、勉強道具と携帯を持って大部屋をあとにした。
等間隔に設置されている照明の明かりに照らされた長廊下を進むと、「学習室」と書かれた看板とともに大きい扉が目についた。
学習室の中の音は静かで、紙をなぞるシャープペンシルの音だけが何重奏にもなって音色を奏でている。どうやら冬馬の他にも学習室で勉強をしている生徒がいたようだ。
空いている席を見つけるために部屋の端から端まで視線をずらすと、席のあちらこちらに男女のカップルが一緒になって座っているのが見える。
(……まあ、何となくそんなんだと思ってたけども)
この合宿中、講義中はもちろん私語が禁止され、昼休みも時間が少なく自由な時間が限られているため、男女が自由に交流する事ができるのは学習室での自習時間だけだ。なのでその時間帯を見計らって、多くのカップルたちは「自習」と称して楽しく勉学に励む事ができる。
彼女ができたこともない冬馬にとって、仲睦まじげに勉強しているカップルたちは不快以外の何でもなかったが、自分の関係のない世界だと心に言い気かせて、部屋の隅の空いている席に着いた。
「ね、明日の肝試し一緒にペアになろうよー」
「当たり前だろ、変な奴が出たら俺がぶっ飛ばしてやんよ」
部屋に入った時はシャープペンシルの音しか聞こえなかったが、それは気のせいだったようで、この部屋にいた多くのカップルたちは明日の肝試しの話題で盛り上がっていた。
(……少し問題解いたら帰ろう)
幸せなオーラ全開な桃色の空間に居づらいと感じた冬馬は、あらかじめ用意しておいたイヤホンを耳に装着し、数学の教科書を開いた。
シャカシャカと心地の良いHIPHOP系の曲を聴きながら、今日の講習で
だが開始早々、どう思考を曲げても答えに辿り着かず、少し頭の中を整理しようと顔を上げると、遠くにいたカップルが人目を気にしながら唇を合わせているのが視界に映った。
慌てて顔を伏せたが、集中力が一気に削がれた冬馬にはもう手遅れだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます