これから_6

 総司令が部屋を出て、次にカコ博士がいそいそと研究室へと戻っていった。


「落ち着いたら、すぐに色々なデータを取らせてね!」


 最後にそう念を押された。


「それでは、私達もこれで失礼しますね。必要な書類をまとめてお渡ししますので、ジャパリフォースの皆様が滞在されている間は、自由にお過ごしください」

「あ、ミライさん。少しいいですか?」

「はい、何でしょうか」

「これからサーバルと面会をしたいのですが」


 日記はポケットに入れて持ってきた。いい機会だろう。


「…わかりました。私達もこれから様子を見に行こうと思っていたんです。一緒に行きましょう」


 2人について、サーバルの病室へ移動する。


「これを、サーバルに渡そうと思っていたんです」

「これは…!」


 歩きながら、オレはセーバルの日記を園長とミライさんに見せた。


「何か気になることは書いてありましたか?」

「中はまだ見ていません。きっとこれは、セーバルがサーバルに残したものだから」

「そうですか。お気遣い、ありがとうございます」


 そうして、病室の前まで来た。

扉の横にあるベンチに座って、カラカルが何か考え込んでいる様子だ。


「あ、トワ!ミライさんと、キョウも来てくれたのね」

「こんにちわ、カラカル。サーバルの様子は?」


 カラカルは悲しそうな顔で首を横に振る。


「今日もダメみたい。どうしたらいいのかしら…」

「そうか…いつもありがとう」

「別にお礼を言われることじゃないわ。親友だもの、当然よ。でも早く元気になってほしいわね。こっちまで調子狂っちゃうわ…」


 カラカルがわしゃわしゃと頭をかく。


「では、いきましょう。サーバル、入るよ?」


 園長が優しい声で扉を開ける。

サーバルは暗い顔で下を向いたまま、耳だけを動かした。

いつものサーバルとは、まるで別人のようだ。


「トワ…」


 園長を見て、サーバルは消え入りそうな声で呟いた。


「サーバル、こんにちわ。今日はね、キョウさんも来てくれたんだ」

「やあ、サーバル」

「ぁ…」


 サーバルはオレの顔を見て俯いてしまった。


「……ごめんね…ごめんなさい…!ワタシのせいでキョウにもいっぱい迷惑かけちゃった…っ……」


 サーバルが弱弱しい涙声で言う。


「何言ってるんだ、迷惑だなんて思ってないぞ。サーバルのせいでもないしな。この姿だって、コヨミと一緒なんだから全然嫌じゃないんだ。むしろ嬉しいくらいだ」

「でも…」

「今日はこれをサーバルに渡しに来たんだ」

「…?」


 サーバルの言葉を遮り、日記を差し出す。

サーバルはまだ包帯の巻かれた手でこれを受け取ると、目を丸くした。


「これ、セーバルの!?」

「あの山を下りるとき、山小屋で見つけたんだ。たぶん、セーバルがサーバルに、置いていったんだと思う」

「そう…なんだ」


 サーバルは包帯の手で苦戦しながらも日記を開き、ゆっくりをページをめくっていく。

目から涙をぼろぼろとこぼしてはそれを拭い、ゆっくり、ゆっくりと読み進めた。

そして、ページをめくる手が止まった。


「セーバル…セーバルぅぅぅ……」


 園長が静かにサーバルを抱きしめ、頭を撫でる。


「…最後の、最後のページにね。『サーバル、いままでありがとう。セーバルをトモダチにしてくれてありがとう』って、書いて、あったの……でもやっぱり、こんなのやだ…ワタシも、ありがとうって言いたいよ…!また一緒にいたいよ!」


 涙と一緒に、サーバルの気持ちがあふれ出す。


「サーバル。オレはな、セーバルを諦めないぞ。コヨミに頼まれたんだ。セーバルを助けてくれってな。すぐには無理かもしれないとは言われたが、確かにセーバルを助けてと言われた。それは、あの結晶が現れた後だ。コヨミはきっと、できないことは頼まない。きっと、いや、絶対に、まだ間に合うはずだ」

「キョウ…」

「サーバル、手伝ってくれないか?オレだけじゃダメなんだ」


「私も手伝いますよ、キョウさん」

「トワ…」

「私も、セーバルと約束してますし。お守り、返してもらわないと。ね、ミライさん」

「はい!私だって、できることならなんでもしますよ!」

「私もよ!!」


 ドアを開け、カラカルが入ってくる。

カコ博士も一緒だ。


「それに、私達だけじゃないわ!でしょ?カコ博士!」

「ええ。ラボも総力を挙げてセーバルの救出に協力させてもらいます」

「サーバル、こんなもんじゃないわよ。あの子はみんなのフレンズだもの。パークのみんな、全員があの子の味方よ!さあ、あんたはどうするの?」


 カラカルの言葉で、サーバルの目に光が灯った。


「…ワタシも。ワタシだって!セーバルを助けたい!助けりゅっ!!」

「よく言ったわ!本当は噛まずにビシッと決めてほしかったけど、それがサーバルよね!」

「ち、違うよ!?だって…その…の、のど渇いてたし!なんかお腹もす、空いて…あ、あれ?あれれ??みんなが回って…?ふにゃあ」

「「サーバル!?」」


 サーバルがぐったりと園長にもたれかかる。


「め、目が回るよ、トワ…」

「サーバルさんはここ数日、ほとんどごはんを食べてなかったですから…」

「ミライ、おかゆを作ってあげて」

「おまかせください!サーバルさん、もう少しだけ待っていてくださいね!」


 ミライさんがダッシュで部屋から出ていく。


「やっぱり、サーバルはこうじゃないとね。元の調子が出てきたみたいでよかったわ。本当に、よかった…」

「カラカル、泣いてるの?」

「な、泣いてないわよ!」

「えへへ、ごめーん。でも、心配してくれて、ありがとね」

「い、いきなりなによ、もう!後で、アードウルフ達にもちゃんとお礼言いなさいよ!ミライさんを手伝ってくるわ!」


 カラカルは顔を真っ赤にして部屋を出ていった。

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