検査前日_3

 椅子に座り、レバーを握る。随分と懐かしい感覚だ。

大きく隙を作らない程度にキャラを動かして、昔の感覚を思い出す。

実はこのバーチャルバトラー、子供の頃にかなりやり込んだゲームなのだ。


 様子を見ていたキタキツネが攻めに転じる。

どこかで調べたのか、独学かはわからないが、観戦中に見たキタキツネの動きはこのキャラクターを使う大抵のプレイヤーと一致していた。


「キタキツネちゃん、激しい連続攻撃だ!しかしキョウの体力は減っていないぞ!?」


 キタキツネの攻撃に合わせて、落ち着いてガードを入力していく。


「くっ、ジャストガード…」


 相手の攻撃が当たる瞬間にガードをすると、ノーダメージで攻撃を防ぐことができる。それに加え、必殺技ゲージが多く増えるというメリットもある。

増えたゲージを使い、強化技で反撃。


「キョウの攻撃がヒットォ!この男、セーバルちゃん以上の強さなのではないか!?」

「これは本気を出さないと負けちゃうかも…」


 キタキツネの動きが少し変わり、ガードのできない投げ技など、セオリーから外れた攻撃を織り交ぜてきた。

反応できない攻撃が増え始め、徐々に押される。


「両者はまさに互角!凄まじい戦いだァァァッ!!」


 実況が互角と言うが、実際はキタキツネの方が押している。

体力ゲージは同じくらいだが、キタキツネの方は必殺技ゲージがほぼ満タンなのに対して、こちらは強化技にゲージを使っているため空っぽに近い。

それに加えて必殺技でガードされても倒し切れる体力なのだ。


「ここで決めるよ!」


 やはり、キタキツネが必殺技を発動。

スーパーガードを使うゲージはない。生き残る手段はたった1つ。


「うおおおお!」

「うっそぉ!?」


 このキャラの必殺技は猛烈な連打。それを全てジャストガードする。

昔、これを滅茶苦茶練習したので、タイミングは体が覚えていた。


「キョウ、キタキツネちゃんの必殺技をジャストガードで耐えたぁーッ!?何なんだこの男!?」


 必殺技を撃つにはゲージが足りないので、コンボでキタキツネを倒しにかかる。

順調にコンボを繋げ、体力を減らしていく。

これは勝った…そう思った瞬間、ガキィンというジャストガードの効果音が鳴る。


「何だとッ!?」

「キョウ、ボクの勝ちだよ!」


 ジャストガード後の反撃でこちらの体力が持っていかれた。

あの状態のキタキツネの体力を削り切れるコンボには、ほんの一瞬だけガードができるタイミングがあるのだが、あまりにシビアすぎてプレイヤーの間ではない物とされていた。キタキツネはそれをやってのけたのだ。


「決まったぁぁぁッッ!!ギリギリの戦いを制したのはキタキツネちゃんッ!!10連勝おめでとう!」


 ギャラリーから特大の歓声。


「キョウ!すっごく楽しかったよ!」

 

 キタキツネが駆け寄り、オレの手を握って尻尾をブンブンと振る。

ちょっと近すぎるぞ…照れたのを悟られないよう、目を逸らす。


「こちらこそ。あのガードを成功させたの、初めて見たよ」

「ボクも必殺技のジャストガードなんて初めて見た!よかったら後でまた遊んでね!」

「ああ、是非とも、よろしく頼むよ」


 ギャラリーの視線が痛くなってきたので、席を離れてセーバルのところに戻った。



「キョウ、ゲーム得意だったんだね。びっくりしたよ」

「あのゲームだけはやり込んだんだ」


 そんな会話をしながら、他のゲームを物色する。



「おっ、これ、セーバルじゃないか」


 目に止まったのはクレーンゲーム。

セーバルとサーバル、カラカルのぬいぐるみが景品になっていた。


「キョウ、ほしいの?」

「いや、まあ、本人が目の前にいるしなぁ」

「取ってあげる!クレーンゲーム得意なんだよ!」

 

 実際ちょっと欲しかったのを見透かしたように、セーバルがクレーンゲームに向かう。


「へえ、本当に上手いな」

「でしょ?」


 セーバルはいとも簡単に3種類のぬいぐるみを取ってみせた。


「はい、どうぞ!…これがあれば、帰っちゃってもわたしたちのこと、思い出せるでしょ?」

「ありがとう。みんなのことを忘れたりなんかしないさ。でも、大事にするよ」

「…うん!」


 きっとジャパリパークでの思い出を忘れる方が難しいだろう。

その後もゲームコーナーを見て回っていると、ピンポンパンポーンと館内放送が流れてきた。


<まもなく夕食の準備ができますので、食堂にお集まりください>


「なんだ、もうそんな時間か」

「ごはんだって!キョウ、行こう!」

「わかったわかった」


 目を輝かせるセーバルに引っ張られ、食堂へ向かう。

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