第47話 帰還

 べスに作戦を伝えてから1ヶ月ほどが経った。俺はその間に神聖国の企みを滅茶苦茶にするには何が必要かを自分なりに考えていろいろな道具を買ったり自作したりして準備を整えていた。ミラ達には作戦を決行したその日になぜかばれたので作戦をすべて話している。何故ばれたのだろうか、いまだにわからん......。




 仕事部屋で道具の製作に取り掛かっていると、部屋の扉がノックされる。入っていいよと声をかけるとべスが入ってくる。




「おお、べス。何かわかった?」


「はい、神聖国は1年ほど先を目途に大規模な勇者召喚を行うという情報を入手しました」




 んー、1年後? バルディアが言うにはもうすぐだって聞いたんだけどなあ......。まあ、バルディアもおおよそこんなもんじゃない? くらいのノリだったしな。今から1年くらいか......。予想以上に準備期間が延びたな、道具作りはほとんど終わってしまったしやることが特にないなあ。




「べス、べス的に何か必要な物とかってある? 予算については特に考えなくていいからさ」


「でしたら配下が5人欲しいですね。前の部下は王都の任務をこなさなければいけないのでこちらに引っ張ることができないのです」




 なるほどな。確かに漫画とかで見る忍者とか陰で動く人ってグループ作ってるもんな。諜報活動するんだからそりゃ必要か。




「そうか、どうしよっか。村人にはこういう部隊には入ってほしくないしなあ。かと言って奴隷、だとミラに許可貰わないとなあ......。でも作戦遂行には必要だよな」


「厳しければ私一人で遂行しますが......」




 一人じゃ厳しいだろと言いミラに許可をもらいに行く。親におもちゃをねだりに行くような感じだ。変なドキドキがある。




 部屋を出て、寝室兼くつろぎ部屋に向かう。ドアを開けてミラがいるのを確認する。どうやら今は読書中だったようだ。よし、許可をもらえるように頑張ろう! ......まあ、ちゃんと言えばミラもわかってくれるんだけどね。勝手にドキドキして自分で冷静になる良く分からないことをしてミラに話しかける。




「ミラ、買い物に行くんだけど。ちょっと高額になるから先に言っとくね」


「そうですか、何を買ってくるんですか? 道具とかならタクミさん自作してませんでした?」


「べスの配下になる人を何人か......」




 ミラのミミがピクッとなる。うん、これはミラが何かを閃きこちらに聞いてくるときのサインだ。




「それって性別の指定はあるんですか?」


「え、ああ。どうなんだろ。べス、どうなんだ?」




 べスが扉の向こうから特に指定はありませんと声をかけてくる。らしいですよミラさん。ってか部屋の中に入ってくればいいのに。『教官のご家族のお部屋になんて入ることはできません』って、律儀だなあ。




 数秒の間にミラが黙り込んだ。ミミがヒョコヒョコ動いてたのがピン! と立ったので考えがまとまったのだろう。




「そうですね、ならば男性に――」


「いや、男はダメだ。ミラ達に邪な気持ちを考えるかもしれない」




 ミラがジト目で見てくる。うう、だって仕方ないじゃん。べス以外の男なんて絶対にミラたちの魅力に気づいてしまう。気づかないなら気づかないで許さんがな!




「初めから決まってるんなら言ってくださいよ......」


「あ、いやあ......ごめんな?」




 ミラはため息をついたが配下を増やすことをオッケーしてくれた。よし、これで問題なく配下を増やせるな。




「ありがとうミラ!」


「いいんですよ。もともとタクミさんのお金ですし。でもその代り......」




 今日の夜は楽しみにしてますと耳元で囁きキスをしてまた読書を始めてしまった。大胆になったなミラ......。






 部屋を出てベスと共に出かける。べスはかなり耳がいいので多分聞こえてるんだろうが聞こえてないふりをしてくれた。そんなことより! 今は買い物だ、買いもの。前に転移した場所に飛んで奴隷商に向かう。




「ええと、ここの角を曲がって......ああ、在った在った」




 メテスの経営する奴隷商に到着する。扉を開けるために入口の階段に足をかけたら扉が勝手に開いた......わけではなく、偶然かメテスが扉を開けて中に入れてくれる。




「いやあ、やはりタクミ様でしたか! つい数分前から商売の匂いが漂ってきたので外に出て探そうとしたところに偶然タクミ様がいるなんて。素晴らしい縁でございますね」


「本当に偶然だったのか。すごいな」




 その後も3分程雑談を入れ、一息ついたところで今回の用件をメテスに伝える。メテスは真剣に話を聞き。話し終わると、後ろの棚からファイルを取り出しめぼしい人間をいくつかピックアップしていく。




「そうですね。若い女性で精神的に強い人間との指定でしたので10人ほどに絞りました。今回は人数が多いので奴隷がいる部屋に案内いたします」




 付いてきてくださいとピックアップされた紙をこちらに渡し部屋を出る。扉を二つ渡り、5人1組の牢に入った部屋がずらっと並んだ広い空間に通された。意外だな、メテスさんも奴隷の管理は牢屋に入れて行うのか。




「タクミ様、今、私も牢屋で奴隷を管理するんだと考えましたね」


「おおう、良く分かりましたね」




 何でも、奴隷商の時点で裕福な居住を与えると、引き取ってもらった先で、奴隷が不満を言い出す可能性がありますからね。と奴隷商についての基礎知識を教えてくれた。なるほどなあと感心しながらお目当ての奴隷を探す。




「ええっと、この部屋はあの娘か。あ、そうだ。この紙はべスが持っときな」


「ありがとうございます」




 メテスが言うには、このルームには女性だけしかおらず、男性と一緒にするとたまに問題が起こるらしいから別々の部屋にしているそうだ。メテスとべスが奴隷の確認をしている間に俺は他にはどんな奴隷がいるのかとぶらぶらしていると、牢屋の中にえらくゴツイ兄ちゃんがいるなあと思うとメテスがこちらに来て声をかける。




「タクミ様も気になりますか?」


「え? 別にどうも思わないけど......」




 俺の言葉を聞くとメテスと牢屋の中の兄ちゃんが驚いている。なんでそんなに驚いてんだ?




「彼は外見は男性ですが、精神的には女性という珍しいタイプの人でして村の人間に売られてしまったのです」


「そうなんですか。それは大変ですねえ」




 まあ、ここにいるんならそういうことなんだろうなと考えていると、メテスが1枚の紙をそっと渡してくる。......なんですっとプロフィールが書いてある紙を渡してくるんですかね。




 どれどれ、......おお、レベルは88、ステータスは完全な格闘家タイプだな。スキル構成もそっちに偏ったものが多いしな。




「何々、趣味は花を愛でること。夢は自分の花畑を持つこと......」




 俺が、その部分を読み始めると兄ちゃんが何やら怯え始めた。ははあん、わかった。これはあれだなあ? かなり筋肉が発達していて、マッチョマンな気もするが女性的な感性を持っているから虐げられていたパターンだな。




「いいんじゃないの?」




 兄ちゃんは信じられないと言う顔で此方を見てくる。この世界の人間はこういうタイプの人間どれだけ嫌いだったんだよ......。




「なんでそんなに驚いてんだ? いいじゃないか花畑。全然変じゃないと思うぞ? 俺の嫁さんも花が好きだから気が合うかもな」




 あれ、この流れってあれやん。




「流石タクミ様です。私はタクミ様なら彼女の性格を知っても忌避感をださないと信じておりました! 先ほどのお話しに、タクミ様の家には花壇があるらしいですね......。そういえばタクミ様は旅行に出ることがあると思います。連泊が続いた時など花壇を管理する人間が1人位居てもいいのではないでしょうか?」




 あ、うん。そういう時もあるかもね。え、メテスはその紙に一体何を書いているんだい? そしてどうして俺を部屋に戻そうとするんだ? 




「べス、そっちはどうだった?」


「流石メテスさんの奴隷商です。どれもいい人材で選出するのに少し時間がかかりました」




 そうか、べスの部下が決まったのなら部屋に戻って会計するか。待てって、メテスさんや。そんな急かさなくったってちゃんと歩きますよ。




「こちらが今回の会計でございます」




・レーヌ料金金貨82枚


・ヴィトゥン料金金貨86枚


・クレア料金金貨89枚


・ルーネ料金金貨97枚


・シーナ料金金貨98枚


・ガッツ料金金貨43枚←出血大サービス! 金貨730枚の所大変お安くなっております!!


計金貨495枚


「あー、あのなあ......」


「彼女は10日で買い取り手が居なかったら闇市に流されてしまうのです。すでに正式な奴隷商で扱える期間の3年が迫っていまして、それを過ぎると買い取り手なしでほとんどただ同然で売られてしまいます」




 と、暗い顔をしている。う、そんな顔されちゃうとさあ......。




「ああ! わかりましたよ! こちらでしっかりと責任をもって雇いますよ。その代り、次にこんな強引な手を使ったら別の店に変えますからね」




 ええ、それはもちろんお約束させていただきます。とウキウキ顔で頷いてくる。この人俺の性格もわかってやってんな......。今度はミラ達も連れて来よ。




 料金ぴったり支払って店を出る。店を出ても問題ないような服をサービスしてもらったので、まあ今回の事の20%くらいは忘れてやってもいいかな。




 帰りに家具の店でベッドを人数ぶん買い、自宅に帰る。べスはすぐに訓練を始めるらしく3か月ほど訓練をつけたいのでグラウンドを作ってくれと頼まれたので、パパッと自宅紹介と家族の紹介をしてグラウンド作成に取り掛かる。ガッツにはミラ達の花壇を見てくれと頼み別行動をしてもらっている。






「グラウンドはここからここまででいいか?」


「もう少し向こう側に......そこらへんで大丈夫です」




 おっけー、ちょっと待っててねと伝えて魔法で木を引っこ抜き、整地をする。整地する速度がやる度に向上するので、前回整地したときの3倍のスピードでできた。




「よっし、完成っと。じゃあ、あとは任せたよ。ちゃんと夕飯までには帰って来いよ」


「了解しました!」




 訓練終わったら風呂に入れよと伝えて、家に戻る。ミラ達はどうしてるかなあ、ちゃんと受け入れてくれてるかなあと家の陰から花壇から覗いてみる。




「ガッちゃんすごい詳しいね! ここら辺のお花はタクミさんが植えたからどんなお花になるかわからなかったんだ!」


「タクミ君って花を選ぶセンスもあるのね。ちょっと驚きだわ」


「ねえ、ガッちゃん。あの花は何色になるの?」


「あの花は確か鮮やかな水色になるのよ。見とれちゃうくらい綺麗になるから私かなり好きよ」




 ふむふむ、この感じなら大丈夫だな。




 やることが無くなったので、風呂に入るかと風呂に向かう。あ、折角騎士たち用に風呂作ったのに意味無くなっちゃったな。可愛そうだし作ってやるか。






 風呂に入るのを後回しにして、家にあるのと同じ風呂場を男棟と女棟に作る。一仕事を終えたので家の風呂に入りに行く。風呂に入りながら自分の衣服の洗濯と乾燥をする。ああ、仕事の後の風呂は最高だなあ......。




 風呂から出てから、ミラとの約束を思い出したので先に睡眠をして体力を回復させておく。夕飯前には目覚ましをセットしているので、これでぐっすり寝ることができる。




 

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