第45話 ぶらぶら

「覚えられそうか?」




 声をかけると、数秒遅れてこちらを向いてくる。あるある、何か集中してると反応が遅れるんだよね。




「これはご主人、未知の料理なので少し手間取っているところです」


「いきなり何個も覚えるのは難しいと思うからゆっくり覚えて行けよ」




 バドロンはありがとうございますと言うとまたレシピとにらめっこを始めた。夕食作るのを忘れるなよと伝えて厨房を後にする。この時間帯だと特に何かする予定もないので外でもぶらつこうかなと思い外に出る。








「あいつらまだやってたのか......」




 敷地の周りをぶらぶらしていると昼間に組手をやっていたダン達がまだ倒しあっている。同じことを何時間やってるんだよと少し呆れながらダンたちに声をかける。






「まだやってたのか?」


「お疲れさまです! いやあ、あの技を自分のものにしたくて皆時間を忘れて倒し合ってしまいました」




 話しかけことで初めて暗くなってることに気づいたらしい。それは集中しすぎだろうと思いながら今日の成果を見せてもらう。空はもう暗いので光の魔法で周りを明るくする。




「さ、今日の成果を見してくれないか」


「おお、外がこんなに明るく......わかりました! おい、みんな今日の成果をタクミさんに成果を見せるんだ!」




 4人は1人3回ずつ実演してくれた。すごいな、まだ無駄な力が入っているがおおよそ成功しているし、全員1回は綺麗に技が決まっている。




「スゴイじゃないか、1日でここまでものにできるなんて」


「何を言いますか、お手本と教え方が良かったからみんなここまで上達で来たんですよ」




 ダンはさわやかな笑顔を浮かべる。これは女にもてそうだなあと思い、ダンには3回ほど別の技をかけておく。それを見た他の騎士たちはダンの事よりも新しい技を見れたことに感動していた。ダンよ、やっといてあれだが、可愛そうだな。








 俺はそのままみんなと技の錬度を上げる練習をしていた。幅広くやるのもいいけど技の1つづつを意識しないでも完璧にできるまでは他の技を覚える必要はないかなと思っている。ここはこう、それはこうなど、1時間ほど指導をしているとバトラが夕食ができたことを伝えに来た。ちょっと散歩に行くだけだったが、ガッツリ指導してたな。






 みんなで世間話をしながら家に戻る。どうやら騎士組の何人かは一緒に来た魔導士組の女の子に興味があるらしい。特にキーンはメルンに好意を抱いていて、お互いいい感じらしい。ほほう、これからキーンをいじるネタができた。みんなで茶化しながら歩けばすぐに家に着く。ダンたちには先に食事をしてほしいので俺が汚れと汗をパパッと綺麗にする。もうかなりお腹が減っているのだ。




「あ、タクミ君どこ行ってたの? ミラちゃんたちと待ってたけどお腹減ってたから先に食べてたよ」


「待たせちゃってたか、悪い悪い。指導に熱中しちゃってね」




 先にミューエルたちに謝罪を入れる。食べようか、と言い席に着く。ダンたちは一緒に食べるのかと驚いていたが、昼に座っていた椅子に腰を掛ける。戸惑ってはいたが食欲には勝てなかったのか黙々と食べ始める。今日はミートソーススパゲッティか。これは美味そうだ。ダンに食事を置いてもらい食べてみる。




「おお、肉もいい感じになってるし美味いな! 俺が作ったのとほとんど変わらないぞ」


「ありがとうございます」




 ミラ達と団欒をしながら食事を楽しむ。すごく美味しかったのでお代りもしてしまった。みんなも1回は必ずおかわりしていた。店を開くだけあるな、流石バドロン。これは給金も考え直さないとな。食事を終えて一息ついているとバドロンが自然な感じにお茶を出してくれた。食後は基本的にみんな紅茶なのだが、俺は緑茶を好んで飲む。あの苦味が好きなんだよね。




「はあ、やっぱり緑茶は美味いなあ」


「タクミさん良くそれを飲みますよね、私にはちょっと苦味が強くて苦手なんですけど」




 この苦味がいいんだよねとお茶の良さをみんなに伝える。バドロンはうんうんと分かってくれてるが、ミラたちは紅茶派なのであんまりわかってくれなかった。いつかこの緑茶の良さを分かってもらうぞ! と、どうでもいいことを心に決めながらお風呂に入りに行く。




 だが、自分たち用のお風呂を作るのを忘れていたのを思い出す。王都の自宅に転移してみんなでお風呂を楽しむ。やっぱりこの住みやすい家が一番だよなあと思いながら転移で戻って就寝する。明日には村の人たちに紹介しに行くかなあ、とぼんやりと考えながら夢の中に旅立つ。


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