第43話 お買い物

「よっし到着っと」




 人通りが少ない場所を選び転移する。王都をうろちょろしたときにこういう場所も見つけていたのだ。大通りのお目当ての店へ向かう。




「ここの店なら期待に添えるような商品が見つかると思います!」


「こんな所にあったのかあ」




 この店は王城から20分程の所にあり、ここら辺は何回通ったことがある。知らなかったなあと思いながら店内に入る。




 店の中はソファーやベッドなど大きめの商品が並んでいる。ベッドは色々な大きさのものがあるな。子供サイズから大男も余裕で寝れる大きさのベッドなど、選び甲斐がある。




「いらっしゃいませ、本日はどのような商品をお探しですか?」




 初老の店員が俺たちに話しかけてくる。必要な物を頼み、会計を済ます。買い物する度に金貨が吹っ飛ぶってすごいよな。地球にいた時には考えられないわ。毎回10万以上がぶっ飛ぶってことだしな。




 買い物をした後は商店街をうろつく。食材や調味料を大量に買ったり、露店で食事したり、掘り出し物がないかいろいろな店をのぞいたりしている。30分程ぶらついてそろそろ帰ろうかなあと思ったときに、一人の男性に声をかけられる。




「そこのお兄さん」




 初めは誰のこと言ってるのか分からずに素通りしていたが、もう一度、今度は俺の目の前で声をかけられたのでようやく俺に言っているのだと理解して立ち止まる。






「何? もう家に帰ろうと思ってたんだけど」




 声をかけた人間を見ると、灰色の髪の短髪の男性が話しかけてきた。見た感じはチャラさなどなく、清楚感のあるしっかり者のような印象を受ける。こんな男性が何の用だろうと思うと、自己紹介をしてくる。






「お止めして申し訳ありません。私、この近くで奴隷館を営んでいるメテスと申します。先ほど少しお兄さんを見かけた時にもしかしたら奴隷が必要になることがあるかもしれないと思い声をかけさしてもらいました」




 びっくりしたな、いつから俺の事みてたんだ? 全然気づかなかったわ。それにしても奴隷かあ。




「ああ、俺はタクミだよろ――」


「やはりタクミ様でしたか、もしかしたらそうなのではないかと思っておりました!」




 手を出しながら名前を名乗ったとたんにメテスが興奮しだして俺の手を両手で握ってぶんぶんと振る。振りながらメテスは俺の話を始める。初めて顔を見たのはどこだとか、王とかなり親しいなど良く知ってるなあと恐怖を通り越して感心してしまった。




「......っと、申し訳ありません、私としたことが興奮して取り乱してしまいました」




 ふと我に返ったのか、すぐに手を離し軽く謝罪する。普通ならこいつやべえ奴だなと思いダッシュで逃げるのだが、なんか悪いやつに見えないし話をするだけならいいかなと思ってしまう。でも奴隷商だろ? とちらっと考えた瞬間にメテスが真面目な顔をして一言申す。




「タクミ様、私をそこらへんの違法奴隷商と一緒にしていませんか? 私は奴隷と主人がともに幸せになれるように商売をするのがモットーなのです」


「そうなのか?」




 はい、もちろんですと笑みを浮かべる。メテスが自分の商館に案内すると言うので付いて行く。話くらいならいいかなと思ってしまったのだ。召喚に向かう途中にべスが小声で話しかけてくる。




「教官、すごいですね。まさかメテスさんに直々に招待されるなんて滅多にないですよ!」




 メテスは王都で仕事をするものなら知らないものがいないくらいに有名で、国内で正式に許可をもらっている4つの奴隷商のうちの1つらしい。その4つの中でも断トツで人気があり、信頼されているのがメテスの奴隷商で彼のモットー通りに奴隷が不遇な扱いを受けたことが無く、返品もされたことが無いらしい。




 さらに、メテスの奴隷商は従業員がほとんどおらず、客の目利きに交渉などほとんど一人でやっているらしい。従業員は主に部屋の掃除などをしているらしい。それはラッキーだったなと思いながらべスに情報を聞きながらメテスに付いて行く。












「此方が私の商館でございます」




 15分ほど歩き、商店街通りを抜けてメテスの奴隷商に到着する。かなりの規模らしく冒険者ギルド並みに大きい。流石国から認可を受けているだけある。




「ささ、こちらにどうぞタクミ様」




 扉を開けて中にいざなってくる。見た感じかなり清掃が行き届いていて感心する。掃除の行き届きに感動しながら1つの部屋に入る。










「さて、誰にも聞かれることが無いので少し真面目な話をしましょう。私の見立てならば今タクミ様は奴隷を必要としてると考えております」


「そうか? 確かに人が増えたと思うけど奴隷を買うほどではないと思うけどな」




 ミラ達も、いるかな? などと話している。だがべスはそう思っていたのか頷いている。




「べスは必要だと思ってたのか?」


「はい、館の管理や教官の嫁さんたちが育てている花壇の管理など教官がいない時に維持してくれる人がいると楽かもしれません。それにそれが必要なくても食事を人数分くらい作る料理人を買うのも必要だと考えてました」




 おお、べスはしっかり考えているんだな。花壇と家の管理は付与魔法で何とでもなりそうだが料理に関しては確かに考えてなかったな。今日から10人以上の飯作るんだからそろそろ新しい人員が欲しいな。




「料理人は確かに必要かもな。ミラはどう思う?」


「そうですね、料理人は確かに欲しいかもです」




 ミラの許可も出たので料理人を買う事にする。ミラは我が家のお財布管理をしてもらっている。俺の貰ったお金の8割を食材や物品、ミラたちが欲しいものを買うお金にして、残りの2割は俺が自由に使えるお金としている。今回の買物は8割の方に入るので俺は何か買う度にミラに聞くのだ。




「ではメテスさん料理ができるものをお願いしてもらっていいですか?」


「料理人ですね......。ええ、タクミ様にお勧めできるものがございます」




 部屋にあったファイルをパラパラとめくり探してくれた。今から連れてくるらしくメテスが部屋を出て行った。出ていくときにお勧めの料理人の情報ですと2枚の紙を渡してくれた。連れてくる間に読み通しておけということだろう。紙に目を通す。








「失礼します、タクミ様、奴隷を連れてきました」




 入って来たのは2人で情報通りの感じだ。180センチの男と160センチくらいの男の子だ。親子で料理屋をやっていたのだが貴族に目を付けられて店に多大の借金ができて1か月前に奴隷落ちしたらしい。




「こちらがおすすめしたい2人です。料理人として雇うなら不足はないだろうと確信しています」




「ああ、俺はタクミだよろしく」


「バドロンでございます。こちらは息子のバトラです」


「バ、バトラです」




 言葉遣いも問題なさそうだし俺はこの二人でいいかなあと思っていると、ミラたちが何か質問している。何が作れるなど料理の再現はできるかなどだ。そんなもん聞かなくても大丈夫じゃないか? と思ったが、




「タクミさんの料理と同じような物を食べないとダメなんです!」




 と力強く言われてしまったのでそ、そうかと言って静かにしている。別にミラたちの料理位なら俺が作ってもいいと思うけどな。




 数分間質問をしまくってミラ達も満足したらしく購入してもオーケーとお許しが出た。




「俺はバドロンたちを買おうと思う。もちろん料理を作ってもらうからだ。そこで、君たちの能力を最大限に引き出すために俺は何でもするつもりだけど、何か願いなどはある?」




 俺が何か願い事はあるかと答えると、バドロンがでは、と1つのお願い事をしてくる。




「ならば、ここの奴隷館にいる妻を共に勝手はもらえないでしょうか。かなりの負担になるのはわかっております、妻の代金分は私が支払います。食事も1日1食で構いません。皆様が寝ている間に清掃や草むしりなど何でもやります。ですからどうか妻を......」




 妻、妻なあ。嫁さんは大事だもんな。わかる、その気持ち痛いほど良く分かるよ。嫁さんのためなら何でもできるよな。地球にいた時はそういうやつの気持ちがいまいちよく分からなかったが、この世界で嫁さん(未来の)が出来てこの気持ちがようやく分かった。俺も嫁のためならレベル1の状態ですべてのスキルを使わず、武器防具を装備しないで裸でダンジョンを攻略をして見せるくらいの覚悟はある。




「バドロン、お前は妻のためならどんなに辛い事でもできるか?」


「たとえ血反吐を吐いたとしても必ずやり遂げます」




 バドロンの目は本当に何でもやると言う覚悟が見て取れる。俺はこの世界に来てから人を見る目というのがかなり鍛えられた気がする。ちゃんと相手を見ればどういうことを考えてるかなどが分かるようになった。




「......わかった。メテスさんバドロンの奥さんも追加で買います。3人でいくらになりますか?」




 メテスは微笑みながら3人の料金を計算して伝えてくれる。




「......はい、3人分の料金ともろもろの手続きをしまして金貨740枚ですね」




 ブー! なんでそんなにするの!? え、高くない? これが普通なのか?? べスにこっそり聞いてみるが3人でもこの金額はかなり高い方らしい。




「あー、あの、メテスさん。内訳を聞いてもいいですか?」




 ええ、構いませんよと内訳を教えてくれる。




・バドロン料金金貨30枚


・バトラ料金金貨13枚


・メイファ料金金貨690枚


・奴隷紋、契約書、所有者の証明書などの料金金貨7枚


計金貨740枚






 バドロンの奥さんの料金が異様に高いのか......。まあ、いっか、奥さんの方は俺の方で出そう。王都にいる間に稼ぎまくってて良かったなと思った。






「あなた!」


「メイファ!」


「ママ!」




 3人とも久しぶりに再会して涙を流して喜んでいる。3人が落ち着くまで待つ。感動的な再開に水を差すほどここにいる人間は野暮ではないのだ。








 3人が落ち着いたのを見て即金で金貨を払い会計を済ませる。すぐに出てくると思ってなかったのかメテスは少し驚いていた。もろもろの作業が終わりメテスが入り口まで見送ってくれる。




「タクミ様、今回は誠にありがとうございました。また何かご入り用でしたら何なりと当館にいらしてください」




 綺麗にお辞儀をして俺たちが見えなくなるまで頭を下げてくれる。この後は買う物はほとんどないので転移してきた路地の方に行く。




「あの、ご主人様これからどこへ向かうのでしょうか」


「ん? 今から俺の家に行くの。すぐにつくからちょい待って」




 路地に到着してみんなで転移する。いきなり景色が変わったのに驚いている。やっぱり初めての転移はみんな驚くよな。




 驚いている3人に向かって俺とミラ達で声を揃えて出迎える。




「「ようこそ! わが家へ!!」」


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