第39話 悩み事
村民に挨拶をした翌日、朝食を食べたタクミはベンと報酬の話をした部屋に転移する。久しぶりに転移を使ったけど問題なく使用できた。
「うーん、やっぱりこの部屋には誰もいないよね」
このまま部屋から出ると兵士たちに捕まりそうだから探知系の魔法でベンの居場所を探る。ダンジョンを攻略してからコツコツ魔法の研究と改良を重ねていたのだ! 特定の人間を探すことくらいお茶の子さいさいよお!
「まあ、まだ1ヶ月くらいしかやってないけどね......。お、いたいた! 今は一人のようだな」
よっしゃ、突撃隣のベンの部屋だ!
「よう! ちょっと前ぶり!」
「ブーッ!?」
部屋で茶を飲んでいたベンの目の前に転移したら顔面に吹きかけられちまった。
「なっ、タクミか!? いきなり出てくるなよ!」
「悪いと思ったが茶を吹きかけることもないだろう......」
魔法を使い綺麗にする。まったく、何がうれしくて男の吹きかけを浴びなきゃいけないんだ。若干気分が落ちたが気にせずに聞きたかったことを聞く。
「ベンよ、領地をもらったのはいいんだが俺って何すればいいんだ? 領地の経営なんてしたことないからあんまり詳しいことは良く分からんのだが」
「んー、そうだな。税免除もしてあるからこれと言って難しいことをする必要はあまりないぞ? タクミのやりたいことをやってみればいいんじゃないか?」
やってみたいことをベンに伝えてみる。
「なるほどなるほど、整備やなんやらは自由にやってくれて構わないぞ。森伐採の件に関しては少し話し合う必要があるけどな」
「ほうほう、じゃあ村人たち強化の方はどうかな? ベンの方から出せそうな人員ってある? 一応騎士と魔法使いが欲しいのだけど......」
ベンは腕を組み考えるようなしぐさをする。流石に無理があったか? 2分ほど無言の世界が続き、なんか緊張するなあとベンの方を見つめているとベンが一つ頷いて此方を見てくる。いきなり目が合ったからちょっとびっくりしたよ......。
「どう?」
「騎士については問題はないだろう。だが魔導士となるとちょっと厄介かなあ」
なんでも魔導士は魔法の才を持っている者たちばかりだから辺鄙な村に来いと言っても拒否されて終わりらしい。
「だが、多分数人は行ってくれるかもしれない奴がいるんだ。今から会いに行くか?」
「ああ、会いに行くのはいいんだけどベン、今日の仕事は?」
そんなもんは終わらせてると自慢気な顔で言ってくる。ベンは仕事はできるときに一気にやるタイプらしく、しばらくは暇らしい。なら案内をお願いして一緒に騎士団と魔導師団の所に向かう。騎士団と魔導士団、めちゃくちゃ異世界ファンタジーだよな。
10分程歩き、まずは騎士団の方に行くらしい。到着する前から剣がぶつかる音が響いている。やっぱ騎士たちはこうでないとな!
「カッツ! ちょっといいか?」
「おやおや陛下がここに来るなんて珍しいですね。今日はいったい何の用で?」
カッツに事情を話すと4人なら連れて行っていいと言ってくれた。ちょっと待ってろと言って騎士たちの方に行ったので待つ。5分ほど待つと、カッツが4人の男を連れてきた。流石騎士、一糸乱れぬ動きだ。
「タクミ、こいつらなら好きに連れて行ってくれ」
4人が一列に並んで左から1人づつ自己紹介をしていく。赤髪短髪のダン。青髪マッシュのローン。金髪短髪のキーン。金髪を肩まで伸ばしで後ろで一つにしているジョシュ。
キーン以外の3人は好意的に接してくれているがキーンはこいつの元に着くのか? みたいな顔をしている。上官と国王がいるから何も言わないだけだろう。
「そこの、キーン君だっけ? 文句があるなら納得させてあげるから言ってみ」
キーンは俺の実力がたいしてないと思っているらしい。だから上官になるのが気に食わないらしい。こいつもそんな感じかよ! 腐っても王国の騎士でしょうが、戦力の差くらいは感覚で感じ取ってほしいよ......。
「キーン。君で3人目だよ。相手の実力は感覚で読めるくらいには成長しような......。まあ、気に入らないなら納得してもらうしかない。模擬戦をしよう、それで俺が勝ったら俺の指示に従ってくれ。もし君が勝ったらここに残ってくれて構わない」
「舐めるなよ、楽には倒さんぞ」
訓練場を少し化してもらい模擬戦をする。キーンは剣を持ち俺は何も持たない。キーンは怒っていたが、剣同士で戦って勝っても従う気になれないだろと言って聞かせて。戦闘を開始する。キーンはかなりイラついているが意外に冷静で頭を狙ってるように見せてフェイントをかけるようだ。
「冷静なんだろうけど策が丸見えだぞ」
フェイントが乗る前に拳の間合いに入り振り下ろす剣を持ち手の部分を狙い、左腕でガード。この時に力が乗りきらないタイミングでガードしてダメージを減らす。相手の重心が崩れたので、顎に手をのせて一度上に気持ち持ち上げて円を描くように倒す。これをやられると何もできずに倒れてしまう。両手で剣を持ってたので受け身も取れない。まあ、鎧を着てるから大丈夫だろ。そのままキースの手を掴みうつ伏せにして、そのまま肩を固める。
「これで認めてくれるか?」
「......ああ、今ので実力の差は理解した。先ほどの言動は謝罪する」
流石体育会系。実力が分かると素直におとなしくなる。キースを立たせて4人に明日の集合場所を伝えてその場を後にする。
騎士団の訓練所から10分程歩き、魔導士団のいる場所に到着する。魔導士たちが一斉に魔法を放っているのが見える。おお、錬度もそこそこあるし、あのダンジョンなら40階層くらいなら攻略できそうだ。
ベンと共に訓練場に入る。こういう場所を村に作るのもいいかもなと思ってるとベンが一人の男性に声をかける。
「クラウス! 今時間はあるか」
「これは陛下。今日はどのようなご用件でしょうか?」
ベンが、先ほど俺が言ったことをクラウスさんに伝える。了解しましたとベンとの会話を終わらせると、クラウスさんがこちらを向き自己紹介を始める。
「初めまして。私は魔導士団団長のラーディン・クラウスと申します」
「どうも、タクミです」
クラウスさんと自己紹介をし、少しばかり雑談をする。クラウスさんは伯爵家の長男らしく、次期伯爵様らしい。伯爵という高位の地位にいるが俺みたいな一般人にも分け隔てなく接してくれる度量のある人だ。
「タクミ君が探している人に私は心当たりがある。だけど少し訳ありなのだが大丈夫だろうか?」
「訳あり、ですか。村の人たちにしっかり教えられるような人であればあまり気にしませんけど」
それなら問題ない。性格も穏やかなはずだとその人たちを押している。そんな優良物件ポイ人何で訳ありなんだろうと考えていると、クラウスさんがその訳ありな人たちを呼んできた。
「彼らならしっかり役目も果たしてくれるでしょう」
人数は全部で4人。全員女性だ。一人一人見ていく。最後の女性を見た時にちょっとドキッとしてしまった。身長は160センチほどで髪はクリーム色、そして何といっても胸がでかいし、太ももがむちっとしている! ちょっとエロ親父ぽくなってしまったが、要はめちゃくちゃ好みだなあと思ったのだ。
だが、なんだろう。この女性は何でこんなに怯えた目をしているのだろうか。差支えがなければあとで聞いてみようかな。
「クラウスさん。この方たちは村に来てもらえるということでよろしいですか?」
「ええ、呼びに行ったときに了承はとりましたので」
1人ずつ自己紹介をしてもらう。ピンク髪ミディアム位のメルン。水色髪のショートのレーナ。紫髪ロングで三つ編みのナーニャ。そしてクリーム色の髪のロングのミューエル。
「これから君たちには俺の村に暮らしてもらい村の人たちに魔法を教えてもらう」
さすが了承を取っただけのことはある。みんな嫌な顔一つしない。
「明日までに各自で荷物をまとめてもらいたい。集まるのは城門前で」
あとは何時にどことか質問に答えてすぐに解散にした。話をしている最中に訓練場にいる魔導士の何人かが此方を忌々しい目で見ていた。やっぱり訳ありなのか。だがミューエルに対するあの視線は何なんだろ。異物でも見るような......。んー気になるなあ。
やっぱりこの後ミューエルに話を聞かなくちゃな。
ベンとも伐採の話やらなんやらと色々と話して解散した。今は午後の3時ごろ。さてさてえ、暇人になってしまったから魔導士団の所にでも行きますかねえ。
訓練場の近くに転移して、気配をマックスで消してミューエルを探す。
「ん? どこかに連れてかれてるのか?」
4人の女性魔導士に腕を引っ張られて訓練場の物置の裏側あたりに連れて行かれる。あそこはまずみんなから見えないし、訓練所内はみんな魔法ぶっ放してるから音なんて聞こえないしで絶対何かあるな、と踏んで光魔法で全身を見えなくして付いて行く。
「アクアショット!」
水魔法がミューエルに容赦なく当てられる。倒れこんだミューエルに間髪入れずに複数人で土や水魔法で攻撃をしている。ミューエルはただただ体を丸めて攻撃がやむのを待っている。
「死ねこの呪い子!」
「お前がここにいるだけで回りが呪われるんだよ!」
「いつまで魔導士団に在籍するつもりなのよ!」
散々魔法をぶち当て、気が済んだのか今度は魔法攻撃をやめて直接蹴り始めた。
なんだよ、何でこの子がこんな事されなきゃいけないんだ! ミューエルが何やったって言うんだ。いじめがあるのは仕方ないし、される方にも理由があると思うけど、これはやりすぎだ。
完全にプッツンした俺は魔法を解いてミューエルを蹴っている女魔導士の胴体を蹴り飛ばす。4メートルほど地面をはねて蹲りながら倒れる。残りの女魔導士はかなり強めのビンタで地面に叩き付ける。確実に鼓膜は破けているだろうがそんなことは知った事ではない。
「恥を知れ!」
どうせ聞こえていないだろうが、声を出さずにはいられなかった。おばあちゃんが昔こう教えてくれたのだ、女の子には優しくするんだよ、でもね、弱い者いじめをする女には容赦するんじゃないよ! とな!
「大丈夫か?」
「え、あ、あの、......はい、大丈夫です」
魔導士団で支給されているローブの間からあざだらけの腕が見える。まったく。彼女が一体何をしたんだよ。
『治れ』
ミューエルに付いていたアザの全てがきれいに消えた。あとはローブを綺麗にしなくてはいけないが、そんなことよりもまずはミューエルを落ち着いたところに移動させなければ。
「ミューエル、少し落ち着けるところに移動するけどいいかな?」
ミューエルはまだ何かに怯えてるのか、俺の服にしがみ付いてコクコクと頷く。頭を撫でて俺の最初の家に転移する。ここにある家具はほとんど置きっぱなしなので元のままだ。ミューエルをソファーに座らせて落ち着いてもらう。
ローブは泥や水で汚れているので脱いでもらっている。ローブの中は半そでに短パンと健康的だった。うん、最高。
汚れたローブを魔法で綺麗にして畳んでおく。寝起きから思っていたが、今日の外は少し肌寒く、部屋の中も冷えていたので暖炉で部屋を暖める。燃やすための木材がないから魔法の火で代用する。
部屋を暖めたら次は体内を暖めるよな。
5分ほどたって落ち着いたのを見て口を開く。
「なあ、ミューエル。少し聞いてもいいかな?」
ミューエルはビクッとしながら恐る恐るこちらを見てくる。金色の瞳でこっちを見つめられた時はまたドキッとしてしまった。めちゃくちゃ綺麗でびっくりした。ティアちゃんはたしか青っぽかったよなあ。
「は、はい。私は呪い子なんです」
「んー、その呪い子ってのは」
ぽつぽつとその呪い子について話してくれた。
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