第35話 唐突な提案

「......ああ、若干アクシデントがあったが褒美の話に入ろう」




 ソファーによっこらせと座り話し始める。ここのソファーはかなり柔らかく身体が沈み込む。これ欲しいなあと思いながら話を聞く。




「タクミは何かいい案はあるか? ダンジョン攻略者だと大体貴族位か領地なんだけどよ」


「え、貴族位なんていらなくない? 面倒くさいだけじゃん」




 俺もそう思うけどな、と頷きながら理由を教えてくれた。どうやら貴族位になると国から給付金がもらえるらしい。公務員みたいなものかと考えて話を戻す。




「んー、これと言って欲しい物もないしなあ」

「何だっていいんだぜ? 宝でも金でも」

「金も宝もダンジョンに腐るほどあったしなあ」




 そう伝えるとベンが考え込んでしまう。何でも用意するって言ったのに何でもいいって言われたらそうなるよね。なんだったらこのソファーとキングサイズのベッドくらいでも全然いいな。てか、それでいいかもしれないな。




「なあ、褒美ならこのソファーで―――」

「よし! なら領地をやろう! 特別に納税義務免除のな!」




 ......なにそれ? 土地なんてもらってどうすんのよ、え、その領地には村があるの? さらに自分専用の大きな花壇がある? いらなくない? ね、ミラ、ルナ......ってなんでそんなに嬉しそうなのよ。そんなに嬉しそうな顔したらもらうしかないじゃない。ベンがニヤニヤしてんな。こいつ俺の攻略法をよく理解してやがる......!




「んー、じゃあそれでいいや。あとこのソファーとキングサイズのベッドで」






 緊張感のない褒美話は流された感じで決まった。その後雑談しながら紅茶やお菓子をつまんでいるとベンが唐突に一つの提案をしてくる。




「そうだ、タクミよさっきぶっ倒した男いただろ?」

「ああ、あの短気な人ね」




 短気ってと苦笑いしながら話を続ける。どうやらそこの部隊の訓練をしてほしいとのこと。別にするのは構わないけど部隊を指揮する知識なんてこれっぽっちないよ?




「そういうのはその専門家に任せとけばいいんだよ! タクミにはな、戦闘技術やらなんやらをこうサラッと教えてほしいわけよ!」




 ベンよ、そんなテストの勉強教えるみたいな感覚で言うなよ......。




「俺はこうするってことくらいしか教えられないよ?」

「おお! いいぞいいぞ、それで行こう!」




 酔っぱらったおっさんみたいな感じで俺の特別講習が始まった。ミラとルナは俺の教えてる姿が見たいと即オッケーをだした。


















「集合!」




 ベンが一声かけると部屋にさっきの男もいれた6人が音もなく表れた。おお、 団体行動を極めてやがる。思わずおお、と声が漏れる。




「陛下、何か御用でしょうか」




 黒装束で顔を隠した男が方膝をつき用件を問う。




「先程の一件を見ているだろうが、一応説明しておく。今回このタクミにお前たちの技術指導をしてもらう。期間は......ええっとな」




 ベンがちらっと俺の方を見てくる。そういえばノリで決めたばっかりだから特に決めてなかったな。ベンの隣に立ち話し始める。




「あー、えー、その、あれだ、今日から技術指導をするタクミだ。何を教えるかは特に何も決めてないが、気配の消し方や歩き方、その他もとりあえず意識せずにできるようになるまではおしえるつもりだ」




 若干上から目線なのは、一応俺がアメリカの上官な気分だからだ! 説明を終えると半数の奴らが納得いっていないようだ。納得している半数は先ほどのボコされた男とそれを回収しに来た奴だ。生意気な新兵を従順な兵士にするのも上官の務めだな。




「なんだ? 文句があるのか、そこのお前とお前とお前。文句があるなら言ってみろ」


「逆に文句が無い方が不思議なんだがな。正直君を指導者にしようなんて私には思えない。実力だって生で見ていない。陛下の前だから大それたことを言ってるようにしか思えない」




 ふっふっふ、俺だって成長したんだ、こんなことで怒るなんて......怒るなんて......お、お前なんかに怒ってねえ! 野郎ぶっ○してやらぁ!




「早速授業だ、まず1、まず至近距離に対象がいて刃物が抜けない時」


 文句を言ったやつの目の前までツカツカと歩いて行き、20センチくらいまで近づいた瞬間に死角になりがちな斜め下から高速で肘を打ち出す。




「グッ!?」




 完全に舐めていた人間の肘打ちに対応できず、視界がグニャリと歪んでいるのか頭が揺れている。だが流石は王国直属の戦士だ、視界が定まらずともすぐに殺意をだしナイフを出そうとする。




「その2、敵がナイフを出した時、相手が手練れなら必ず心臓か首元を一突きする」


 予言の通りに心臓にナイフが吸い込まれる。突き出した手を掴み下に落とす。体制が前にずれたら右手にナイフを持っていたので手首を自分の体の外側に曲げて、膝蹴りでナイフを落とす。そのままの勢いで一本背負いをする。




「その3、投げ倒した時に逃げられる可能性があるから肩、肘、手首を固める」




 そのままテレビで見た関節技で3つの関節を締め上げる。折れるギリギリまで締め上げると呻き声をあげる。




「っとまあ、こんな感じで俺の授業は展開していく。お前らには怪我を覚悟して受けてもらう。受ける受けないはお前ら次第だ」




 関節技を解いて立たせる。ベンの方まで下がると、耳打ちで流石だなとニコニコしながら伝えてくる。数分の間はミラとルナを撫でて待っていると。急に俺の方に向かって方膝をつく。




「ご指導のほどよろしくお願いします!」


 ちょっとビクッとなったが全員やる気のようで少しほっとした。ミラとルナに少し豹変するから少し耳を押さえててねと伝えベンより少し前に出る。




 鼻から息を吸い声を出す。




「全員起立!!」




 声を出した瞬間に全員が立ち上がる。無駄のない動きだ。




「これから貴様らの指導をすることになったタクミだ! まず最初に返事はサーイエッサー! 以外認めん。分かったか!」




「「「サーイエッサー!」」」




 やばい、なんか楽しくなってきた!




「いいか! 貴様らは今からゴミクズだ! 一国の最高部隊のくせにこの俺一人にやられるのだからな。だから自分はエリートだという意識を捨てろ! 貴様らはどいつもこいつもゴミゴミゴミだ!」




「だが安心しろ! 俺が貴様らを鍛えれば、マシなゴミになることを約束してやる。その代り貴様らには血反吐を吐くのが生易しいくらいの訓練を受けてもらう。情けなんてかけてもらえると思うな、わかったか!」




「「「サーイエッサー!」」」




「貴様に問うぞ、お前は何だ!」




 適当に一人の男を指さす。男は内容を理解しているようで、しっかり受け答えをする。英語の概念でもあるのかね? それとも称号の影響かな?




「私はゴミクズでありますサー!」




「そうだ! 貴様はゴミクズだ。だが自分がゴミクズだと理解した人間はゴミクズから抜け出す一歩を踏み出す! それを心に刻み込め!」






「「「サーイエッサー!」」」








 こうして、アメリカン映画のような軍隊訓練が始まる......? 

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