第33話 教会補修

「美味しい!」


 孤児院の子供たちが口々に料理をほめる。美味しいと言ってもらえると作った甲斐があるってものだ。ミラとルナも美味しそうに食べている。ベンはというと、




「うっそだろ......。こんなの王宮の料理長の食事より美味いんじゃないか?」




 此方に聞こえない声でぶつぶつ言いながらシチューを食っている。多分美味しいんだろう、そう思いながら自分でもシチューを食べてみる。おお、結構うまく作れたんじゃないかな。




 食事も終わり使った食器を洗っていると、シスターがお手伝いしますと隣で洗い物を手伝ってくれる。いつもならミラとルナが手伝ってくれるのだが、2人はベンと横になっていた。3人とも食い過ぎでダウンしている。




「ありがとうシスター。いつもは二人が手伝ってくれるんですがね、あいにく食べ過ぎで横になってまして......」


「いえいえ、子供たちと遊んでいただいてさらに夕食まで作っていただいたのです。気にしないでください」




 ああ、いい人だなあと心の中で思いながらお皿を洗っている。雑談をしながらお皿を洗っていると、教会の金銭面の話になる。




「――ということなのです。このままではあの子たちを育てることはおろか、教会の補修もできなくて困っているのです。このままでは冬の期間に亡くなってしまう子たちが出てしまいます」




 シスターが話し終えた途端にベンが飲んでた紅茶を吐き出しやがった。まったく汚いやつだ




「それは大変だな、文句の一つでも言ってやりたいですね」




 私だけならいくらでも苦行を行ってもよいのですが......。と悲しそうな顔をしてしまった。空気がどんよりしてしまった。あー、っと言いながらこのどんよりした空気を無くすための言葉を考える。




「そうだ! こう見えても私結構魔法が使えまして、もしよろしかったら教会の方を補強してもよろしいですか?」




 皿を洗い終え、魔法で食器の水を飛ばしながら一つ提案してみる。すると、悲しそうにしていた顔が、大輪が咲いたような笑顔に変わる。俺の手を両手で包み喜んでいる。




「まあ! それは本当ですか! それなら寒さに凍えなくても良くなるかもしれません!」


「そ、そうですね。子供たちを元気に成長させるのが第一ですからね。でも、シスターも自分の体を大事にしてくださいね? せっかくの美人が台無しですよ」




 シスターは最初ポカンとしていたが段々顔が赤くなってくる。今のセリフは変だったかなあと思いながら食器を片していく。そろそろいい感じの時間だし、教会を補修して家に帰るかな。













教会をしっかり補修すると孤児院の子たちがスゲー! と騒ぐので寒さ対策もしてあげると今度はシスターもはしゃぎ出してしまった。孤児院総出でお見送りをしてくれたのはうれしかったな。また遊びに来るかな。




「なあ、タクミよ。お前さんの魔法はすごいな! こう、ピカッ! となったら協会がめちゃくちゃ綺麗になってるんだもんな」


「そんなことないよ、頑張って練習すれば皆これくらいはできるさ」




 いや、それ結構難しいと思うぞ? と呆れ顔で言われてしまった。むむ、結構難しいのか。




 ベンと雑談しながら元来た道を戻っていると、串焼き屋の前の通りに出た。俺たちが左に行こうとすると、ベンが住んでるところは右らしく、また会おうぜ! と手を振って歩いて行った。あっちは結構貴族が住んでるゾーンだったかな? 




 ベンは結構お偉いさんだったかもしれないな。でも、ベン位の気楽さで話せるお偉いさんなら仲良くなれそうだな。と頭の片隅で考えながらミラとルナと手をつないで家に帰る。






















♢♦♢♦♢♦


sideベン




 いやあ、あのタクミというやつは結構面白いやつだったな。ダンジョン攻略者っていうから前にあった冒険者パーティみたいに高圧的な奴だと思ったんだが意外に気さくで話しやすくて、俺に敬語を使わないっていうのが言うのがいいよな。それに料理が美味い! 




 あのシチューというやつは絶品だった。あいつの作る飯をもっと食いたくなるな。他の飯も絶対にうまいに違いない!




 タクミの料理を思い出しながら帰っていると、いつの間にか自宅の近くまで来てしまったようだ。門番がこちらを見てため息をついている。むむ、これはいかんな。門番というのはいつでも堂々としていないとな。そっちの方がなんかかっこいいしな!




 門番の一人が屋敷の中に入っていく。するとすぐに執事服を着た初老の男性がこちらに向かって走ってくる。




「こんな時間までどこほっつき歩いているのですか!」


「まあまあ、落ち着けドラン。あんまり興奮すると血管が切れてしまうぞ?」




 誰がそうさせてると思っているのですか! と怒られてしまった。




「いいですか、流石にもう自分の身分を理解してください。護衛もつけずにどこかに行かれるとどんな事件に巻き込まれるのか分からないのですよ!」


「わかったわかった。だが私にも急速が欲しいのだ。働き過ぎは体に良くないぞ!」




 はあ、とドランはため息をつき屋敷に戻るために体を反転させる。




「それはちょくちょく抜け出す陛下がいけないんですよ......。サボらなければすぐに終わる量の公務しかないではないですか。この後は滞ってる分を徹夜でやってもらいますからね!」


「そ、そんなあ! それはないんじゃないか? 人間にとって睡眠がどれだけ重要かわかっているだろう?」


「たかが1日寝ないくらいならなんてことはありません」




 ぴしゃりと言い斬られる。こうなったらてこでも意見を覆さないからな。はあ、徹夜かあ......。




 今からやらなければいけない仕事を思うとため息しか出てこない。そういえば近いうちにタクミが王城に遊びに来るんだよな! それに教会の剣もあるしな。まったく教会に払う金を横領するクソバカはどいつなんだよ。




 まあとにかくやることがいっぱいってことだな!




 ドランの後をとぼとぼ付いて行く。......がんばろ。

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