第32話 孤児院案内

「おおう、これが孤児院か」


 そこには、老朽化が進んだ2階建ての教会があった。やっぱり教会が孤児院を兼ねるのは異世界であっても変わらないのかな。でも、孤児院をやるのはいいけどこの建物でやるのは少し危ないよな。




 窓にひびが入っていたり、壁に亀裂が入っていたりと下手したらすぐにでも壊れてしまいそうな建物だ。これじゃあ怪我しそうだなあと考えていると、ティトが俺の服を引っ張りながら話しかけてくる。




「ここが俺たちの住んでる孤児院さ! ちょっとボロボロだけどシスターは優しいし、みんなもいるから毎日楽しいんだ! でも最近は偉い人がお金を出さないって言ってきてご飯があんまり食べれてないんだ」


「それは大変だな......」


 これって国からの支援金が出てないってことだよな、それはまずいでしょ。そりゃ子供達も食べ物たかるようになるわ。んー、このままほっとくのもなんか嫌だしなあ......。助けるか迷っているとミラが小声で話しかけてくる。




「タクミさん、娘の孤児院の事お助けになるんですか? 何か迷っているように見えたので......」


「すごいなミラ、良く分かったね。個人的には助けてもいいと思ってるけど、面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だなあって思ってて」


「そうですねえ、とりあえず助けてから考えてみるのも手ですよ?」




 ミラは助けることに乗り気か、ルナは......うん、助ける気満々な顔してるね。ならちょっくら助けちゃいますかねえ。






 孤児院の入り口に近づくと庭で遊んでいたであろう子供たちが5人ほどティトの元に駆け寄ってくる。




「おかえりティト兄、フェー姉!」


「ティト兄この人たちだあれ?」


「ティト兄おかえり! お腹減ってきたからご飯頼みに行こ!」


「ティト兄あそぼ!」


「フェーお姉ちゃんお人形さん遊びしよ!」




 みんなが一斉に話しかけてくる。半分も聞き取れなかったが、ティトは慣れているのか一人一人に返答していく。ティトすごい、聖徳太子みたい。ティトの耳の良さに感心していると、教会のドアが開き、一人の女性が出てくる。




「こら、誰ですか入り口の前で騒いでいるのは」


 教会のドアを開け、出てきたのは地球の教科書で見たような教会のシスターの服を着た女性だった。髪は金色でおっとりとした顔をしている。初めてシスターを見た俺はちょっと興奮していた。だって日本にいた時はラノベで想像するしかなかったからね! 




「おや、こんな所までどうされましたか? ここはスラムの一部ですので表通りの方が入ると少し危ないですよ」


「心配してくれてありがとうございます。今回はこのティトにお願いしてここまで連れてきてもらったのです。私は孤児院というものを一度も見たことが無くて」


「そうなんですか。あ、すいません自己紹介もせずに。ここの孤児院をしておりますメイラと言います」


「メイラさんですね、私の名前はタクミと言います。こっちがミラでこっちがルナです」




 二人がよろしくお願いしますというと、シスターもこちらこそよろしくお願いしますと言う。自己紹介がひと段落済んだところでティトがすぐにでも案内したいのか、肉分の仕事がしたいのかわからなかったがシスターに話しかける。






「シスター! この兄ちゃんたちに孤児院の案内をしてもいい?」


「え、ええそれは問題ないですけどこんなにボロボロな建物を見ても面白くはないですよ?」




 問題ないですよと言おうとしたときに、後方から声がする。




「俺もそこの孤児院を案内してもらえないか?」


 声がした方を振り向くと、ボロくさいローブを身に着けている一人の男だった。身長は180後半くらいの慎重で声は20代くらいのしっかりした声だった。




「かまいませんが、あの方はタクミさんたちのお知合いですか?」


「いや、今初めて見たな。誰だ?」


「俺はべリントンだ。気軽にベンって呼んでくれ!」




 フードを外して自己紹介をする。明るい青髪短髪で人懐っこい顔をしている。やっぱり異世界の人間って顔面偏差値が高いよななどどうでもいいことを考えながらこちらも自己紹介をする。




「俺はタクミ、こっちがミラでこっちがルナ」


 二人ともペコッとおじぎする。ベンの顔が一瞬考えている顔になったが、すぐに二ッと笑いよろしくなお嬢ちゃんたち! と軽い感じで話す。少し雑談をしてからここの孤児院を案内してもらうことになった。















「で、最後がお祈りする場所!」


「おお、ステンドグラスもちゃんとあるし、こういうの見ると教会って感じするよな」


「何だタクミ、教会に入ったことなかったのか?」


「ああ、ここに来てから忙しくて町の中をあんまり見てないんだ」


 10人ほどがお祈りできる場所があり、ステンドグラスには何となくバルディアっぽい人が描かれていた。




「この国の教会ってどの神様を崇めてるんだ?」


「そうだな、教会によっては色々な神々を崇めているが、多いのはやっぱり創造神バルディア様じゃないか? やはり」


「バルディア様が一番か、この教会も?」


「ああ、ここの教会はバルディア様を崇めているな」


 バルディアって結構人気があったんだ。じゃあレギオンの教会とかもあるのかな? 多分魔術師くらいしか崇めないと思うけど。どこからか酷くないかい? と聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。




 全部の案内が終わってひと段落するとお腹が減ってくる。そういえば串焼き屋にいた時には夕方くらいだったよな。今から家に帰ると遅くなりそうだしな、ここで作って食べて行ってもいいかな。転移のことがすっかり頭から抜けていたのは内緒だ。




「ティト、シスターに聞いてここの厨房を使ってもいいか聞いてきてくれないか?」


「兄ちゃんここで料理するの? わかった! シスターに聞いてくる!」


 ティトはシスターに許可をもらいに駆け出して行った。少しした後に走ってはいけません! と怒られる声が聞こえた。






「タクミは料理できるのか?」


「結構料理はするよ? 多分美味しく作れてると思うけど」




 そういいながらミラとルナを見る。2人とも俺の料理の腕は知っているから口をそろえて世界一です! と言っている。結構恥ずかしいな。照れ笑いをしているとベンがニタニタしながらこちらを見てくる。




「な、なんだよ」


「いんや、愛されてるなあっと思ってな。そろそろ帰ろうかと思っていたがこれはぜひとも食べなければな」


「そうかい、......っとティトが帰ってきた」




 許可が下りた様なので早速料理に取り掛かる。孤児院とベン合わせて11人か、20人分くらい作ればいっか。んー、大人数で食べられて栄養満点でさらに翌日でも食べられる奴......よしシチューだな。




「よし、シチューにするか」


「しちゅー? それはどんな料理なんですかタクミさん!」


 あれ、この世界スープあるのにシチューないの? 俺結構好きだからこれはビックリ。




「シチューっていうのは牛乳と野菜や肉を煮込んだスープみたいなものだな」


「タクミ様の料理楽しみです!」


「だな、新しい料理っていうのはいつでも心躍るものだしな! それが上手いなら尚更だな」




 ミラ以外は料理ができるまで子供たちと遊ぶらしく、庭の方に向かって行った。よっしゃ料理開始だ!








「さてっと、ミラ、この野菜を輪切りに、こっちは4当分で切って」


「任せてください!」




 ミラは鼻歌を歌いながら野菜を切っていく。俺はその間に大なべを使い鶏がらスープを作る。この世界にはコンソメなんて便利なものはないからね。肉屋のおっちゃんに貰った骨を使ってだしを取る。アクが出るまで少しかかるから鶏肉を切っとくかな。5分くらいかけてすべての肉を切り終わる。20人分は結構大変だな。




「お、アクが出てきた」


 アクをさっさと取り鶏がらを完成させる。次は切った野菜達を炒める。調理時間の短縮だね! 炒め終わったら小麦粉を混ぜて鶏がら鍋にぶち込む。その次は昨日買ってきた牛乳を入れていく。とろみが出てきた辺りで味見をする。うん、いい感じ。




「ほら、ミラ味見してくれ」


「はい! ......美味しいです!」


あとは塩をちょびっと入れて完成だ。後はパンを一人二つずつでいいかな。いろいろな材料をまた買いに行かなくちゃ行けなくなったな。






 食堂に配膳してみんなを読んで食事にする。ベンと男の子供たちが泥だらけだったので洗いに行かせるハプニングもあったが無事に食事を始めることができた。 

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