第31話 孤児院に行こう

「もうこんな時間か。ミラ、本片してギルドに行こうか」


「ふぇ、もうそんな時間ですか?」




 時刻は15時半を回ったところで入館してから3時間以上たっていた。本をもとあった場所に片して図書館を出る。10分ほど歩きギルドの前に着くと何かもめているのか怒声が響いてくる。




「ギルドに行くのはまた今度にしようかな」


 なんか嫌な予感がしたので引き返そうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。




「タクミ様! いらしてたのですね!」


「何!? タクミだと、そいつはどこの誰だ!」




 何で俺を探してるんだよ。ここ最近は問題も起こしていないし割と冒険者とも仲良くしてただろうよ......。ため息をつきながらギルドの中に入る、そうするとほとんどの冒険者が俺に称賛の声を上げてくれているのだが、受付辺りにいる一つのグループがこちらに向かってくる。ミラを俺の背後に移動させると同時にブチ切れモードの一人が話しかけてくる。




「お前がタクミか! ダンジョンで生意気な口をたたいていたガキだな!」


 え、こんな奴に会った事あったっけ。記憶にないよこんなにうるさい人......。




「あの人違いでは? 俺はダンジョンで誰かに合った記憶は特にないですし」


「何言ってるんだ! あんなに舐めた口をきいていたくせにそんなのも覚えていないのか!?」




 顔を真っ赤にして大声で俺に怒鳴りつける。うっさいなあと思っていると、バストンが近づいてきて耳打ちしてくる。




「おい、タクミ。忘れたっていうのは可哀想じゃねえか。ほら金の鳳凰だよ、お前に喧嘩吹っかけてきた」


「……あ、あいつらか。3流だったから完全に忘れ去ってたわ」


 完全記憶にさえ残らないなんて金の鳳凰、悲しい子......。バストンと会話をしていると無視されたのが気に食わないのか大声でわめき始める。うっるせえなと思っているとミラが服をちょんちょんしてくる。




「ミラ、どうした? 帰りたくなったか?」


「いえ、耳が痛くなっちゃって......」


 ペタッとなったミミの上にさらに手をのせてミミを塞いでいる。え、ミラがダメージを......。




 すぐに言霊を使って治す。それでもなお騒いでる鳳凰さんへの怒りゲージメーターが10週くらい振り切れてぶっ壊れた。一瞬本気の殺意が出てしまった。ギルド内にいた冒険者が冷や汗をかきながら一斉に武器に手をかけて、




「おい!貴様俺の話をき―――」


「ミラが痛がってんだろうがぶん殴るぞ!」




 全身の筋肉をフルに使い騒いでいた奴の顎を的確にとらえたアッパーカットで天井をぶち抜く。それでも威力が収まらなかったのか3階もぶち抜いて空に舞った。10秒ほどたった後で先ほどいた場所に落ちてきた。多分あいつの顎は粉々になっているかもしれないが仕方ないことだ。




「ったくよ......。俺の前で騒ぐのはいいけどミラとルナの前で騒いだらぶん殴るぞ!」


「いや、もうぶん殴ってんだろうが......」


 受付の奥からギルマアスが歩いてきた。おお、久しぶりにおっさんの顔を見たな。相変らず怖い顔してるな。




「久しぶりですダルニスさん」


「おう、随分強くなったな。もう俺じゃあ敵いそうにないな」


 俺を一目見て実力を理解したようだ。流石ギルマス。Sランクならこれくらい出来てくれないと困るわ。




 ダルニスが頭をかきながら状況を確認する。状況の理解ができるとまたため息をつく。なんか悪いことしたなあ。今度なんかお詫びでもするかな。




「なあタクミよ、一応聞くがお前は自分に非があると思うか?」


「え? あるわけないじゃないですか、ギルマスもみんなも知ってるでしょ、俺がミラとルナをどれだけ大事にしてるかを」




 俺がみんなに問いただすと、周りは納得したそうだ。訓練期間中にミラとルナにちょっかいかけようとする奴らと物理的にО☆HA☆NA☆SI♡しているのをちょくちょく見ていた奴らは突っかかってきた鳳凰の男を哀れなものを見る目で見る。




「こいつも哀れな人間の一人だったか......」


「いやいや、ミラとルナに害が及んだので排除しただけですよ。ダルニスさんだって愛する人が害されるときは同じ行動をとるでしょ? 俺は偶々ギルドの中で害されただけなんです」


「それならギルドの外に轢き釣り出してからやってくれよ! ああ、修繕費が......」




 さすがに可哀想になったので魔法で直してあげる。言霊も使う。ついでにギルドの中全部を綺麗にする。




「こんなもんで大丈夫ですか?」




 周りの冒険者と受付嬢が辺りを見回す。所々が新築同様に変わっていて、綺麗になっている。ワックス的なのもかかっているようで、床が輝いている。冒険者や受付嬢が自分たちが使う場所がきれいになってうれしいようだ。




「あ、ああ。こんなに綺麗にしてくれてありがたいぜ」


「かまいませんよ。こんなに綺麗ならしばらくは綺麗なままを保てますよ。普段使用する場所が清潔だと、それを大切に扱う気持ちが出ますからね」




 たしかにそうだなとダルニスやほかの冒険者も納得している。さてっとギルドに顔も出したしそろそろ帰るかな。箸も作りたいし。ルナとミラを連れて帰ろうとするとダルニスが一声かけてくる。




「おいタクミ! 近いうちに王からの使者が来るらしいから覚えとけよ!」


「え、なにそれ。それって断ることは?」


「できるわけねえだろ......。ダンジョン攻略の報酬についてだと思うからよほどの物じゃない限り願った褒美がもらえるらしいぞ」




 褒美、褒美かあ。金はいっぱいあるし、魔法も神様公認で使えてる。土地くらいか? 人がいなくて広いとこがいいな、実験やらなんやらで使えそうだし。よし、土地にしよう。もしだめならなんでもいいや。




 ギルドから出て箸に使う材料を買い、帰宅する。そういえばそろそろ串焼きが切れるな、買ってから帰ろうか。










「お! 久しぶりだねえ兄ちゃん!」


「お久しぶりです。今日は100本ほどお願いします」


「100本か! そりゃ大変だ、10分ほど待ってくれな!」


 串焼き屋のおやじさんが大変大変言いながら楽しそうに肉を焼いていく。5分ほど待っていると後ろから視線を感じる。




 振り返ると、路地裏から2人の子供がこちらを見ている。服装からするにスラムの子か孤児だろうか。俺がその子たちを見ていると串焼き屋のおっちゃんがまたか......。とため息をついている。




「おやっさんあの子たちのこと知ってるの?」


「知ってるっていうかよ、スラムの場所にある孤児院のガキたちさ。こっちも商売だからホイホイ食事はやれないんだが、たまに売れ残った肉を焼いて渡してやってるんだよ」




 ほほう、おやっさんいいやつだな。おやっさんの話を聞いていると何となくだがあの子供たちが気になってくる。串焼きが焼き終わり、大袋5つに分けて渡してくれる。




「おやっさんいつも大量に頼んで悪いね」


「気にすんなよ、お前さんがいつも大量に買ってくれるから財布が潤って家族に美味い飯を食わせられるから何も問題話ないさ」


 ハハハと笑いながら話す。俺はもうこの串焼きが無いとダメな人だからな、定期的に買いに来るか。おやっさんにお礼を言い熱い視線を向けてきた子供たちの方に歩いていく。ミラとルナは俺が何をしたいのが分かってるようで何も言ってこない。




「おい、ガキンチョ。俺に何か用かい?」


「俺たちにその肉を分けてくれ!」


 2人いる中の1人、赤髪の短髪の男の子が声を出す。もう一人の子は女の子で茶髪の髪の毛を後ろで一纏めにしている子だ。人見知りなのか男の子の後ろに隠れている。




「ふむ、やってもいいが頼みかたがだめだ。孤児院ではそうやってものを頼むのか?」


「う、串焼きを分けてください」


 自分の言い方が悪かったのに気づいたのか、ちゃんと言い直す。自分が間違ってることを素直に認められるのはいいことだな。串焼きを渡して頭を撫でる。




「ちゃんと言い直せて偉いぞ、ほら、そこのお嬢ちゃんもどうぞ」


「あ、ありがとう、ございます......」


 顔は嬉しそうだが会話するのは恥ずかしいようだ。孤児院ってここから近いのかな? ラノベでしか見たことないからちょっと見てみたい。




「ガキんちょ、お前たちが住んでる孤児院ってどこら辺にあるんだ? ちょっと行ってみたいんだけど」


「ガキんちょじゃないよ! ティトって名前があるんだ! こっちの子はフェーリンて言うんだよ」


 ガキ扱いが気に食わなかったのか自己紹介をしてくれる。俺たちの自己紹介も終えたところで孤児院に連れて行ってくれるらしい。さてさて、どんな建物が出てくるか楽しみだな。





























♢♦♢♦♢♦


side???




「だあ! もう仕事なんてうんざりだ! 少し息抜きをしなくては」


 お昼過ぎ、目の前にある机には大量の紙束、持っている紙を叩きつけてクローゼットに向かう。クローゼットを開けると、煌びやかな服が所狭しと並んでいる。男は、その服たちの中に手を突っ込んで目的の衣服を探していく。




「これじゃない......。あ、あった。これだこれ!」


 取り出したのは一般的な市民服とぼろぼろのローブ。慣れた手つきで着替えていき来ていた服をそこらへんに投げ捨てておく。扉から出たらすぐにバレそうだな、よし窓から出るか。




「おっと、書置きもサラサラっと書いてっと......よし行くかな!」


 窓を開け放ち飛び降りる。かなり鍛えているのか3階から飛び降りてもピンピンしている。庭の塀をよじ登って敷地の外から出る。さてっと、今日はスラムの方でもぶらつくかなあ。


 鼻歌を奏でながらスラム街の中に消えていく。この男とタクミが出合うのは割とすぐのこと。  

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