第27話 ダンジョン攻略

「忘れてください......」


「ま、まあ、ね? そういうことをする年齢でもあるわけですしだか――」


「忘れてください」




 ミラの後ろに般若が見えるよ......。お互い何も見なかったことにして夕食を食べる。今日の夕食は、オーガのステーキとサラダとパンだ。なんかオーガのステーキって聞くとなんか気持ち悪いのを想像してしまうが、これが案外美味いのだ。なんでも、魔力やレベルの高い魔物の肉はたいてい美味いらしい。




「タクミさん、今日は何階層まで行けたのですか?」


「今日はなんと99階層まで行ったんだ!」


「さすがタクミさん! 90階層のボスは何だったんですか?」


「レッドドラゴンだったよ」




 レッドドラゴンと言ったとたんにミラが咽る。ほら水飲んで。 背中をさすり、落ち着いたのを確認して話を続ける。




「レッドドラゴンのブレスってすごいね、もし威力の高い魔法が無かったら多分やられてたよ」


「やられたら困ります! ちゃんと生きて帰ってきてください!」


「分かってるよ」


 頭を撫でて生きて帰ることを約束する。生きて帰るとなると明日ミラは連れてかない方がいいかもしれないなあ。90階層であんな苦戦したんだ守り切れる自信がない。




「あのねミラ、明日のダンジョン攻略にミラは連れて行けないかもしれないんだ」


「な、何でですか?」


「これは俺の予想なんだけど、100階層のボスは90階層のボスのレッドドラゴンよりも強いと思う。そんなのを相手にするんだから俺も本気で戦わないといけないと思う。だから周りにまで気が回らないと思うんだ」




 数秒の間悩んだ素振りをしてミラが口を開く。




「分かりました。必ず生きて帰ってくること、これだけは約束してください。」


「分かった約束するよ」


「ならいいです。明日の夕食はお祝いしないとですね!」


 ニコッと笑ってミラは食事を続ける。必ず生きて帰らないと......。














 翌日、ミラの手作りサンドイッチを持ってダンジョンに向かう。今回は高品質MPポーションを買いまくる。だって途中で魔力枯渇なんて起こしたら100%死んじまうからね。昨日の夜はミラ成分を注入したのでやる気120%だ。万全の準備をして転移をする。




「あれ? このボス部屋こんなに悍ましい感じしたっけ......」


 ボス部屋の扉からは禍々しいオーラが漂っている。昨日はこんな感じじゃなかった気がするんだけど......。これは気合を入れないとマズいと判断して、柔軟をして気合を引き締める。




「よし、行くぞ」


 ボス部屋のドアを開ける。中に入ると人型の生物がこちらを見ている。え、ボスって近づいてから動き出すんじゃなかったっけ。その生物を見るていると声をかけられる。




「おや、人間がこの階層まで来れるとは思ってもみなかったよ」


 は!? え、会話すんの!? 今までの敵とは違い過ぎるでしょ!




 ボスの身長は180センチ前後、白髪で筋肉がしっかりついている壮年の男性だ。これだけなら人族と思えるかもしれないが、いくらこの階層まで来れるからと言ってこんなにも禍々しいオーラを出せる者だろうか。




「そ、そうか。お前がここのボス、でいいのか?」


「うーん、ではないかな」


「どういうことだ?」


「ここのボスは私が倒したのだ。で、倒した途端にダンジョンからボス認定されてしまってね......困ったものだよ」


 ん? ダンジョンって生きてるのか? 魔力の変質でできたのではないのか。




「ダンジョンにボス認定されるって、ダンジョンが生きてるっていうのか?」


 なんだ、そんなことも知らないのかと呆れられた。なんだこいつ......。まあいい、とりあえず鑑定をして相手の実力を見る。だが、表示されたのは、










『レベル差が開きすぎているため表示できません』












 何それ、そ、そんなことってあるの? てか、俺これに勝たなきゃいけないんだよね。勝てるの? まずダメージはいるの? 鑑定が表示されないことに動揺していると、魔物が話しかけてくる。




「今鑑定を使ったな? まあお前と私では実力に差が開いているから閲覧することはできないと思うがな」


 な!? 鑑定を使ったのがばれたか。ていうことは少なくとも直感のスキルがあるはず......。クソ! 情報が足りなすぎる。




 動揺をしている俺を気にせず人型の生物は話を続ける。




「では私も使うかな。......ふむ、人族にしてはなかなか強いではないか。だが、その程度では勝負にすらならんぞ?」


 俺のステータスを見られたか......。ますます倒せるかどうかわからなくなってきた。




「お前はいったい何の魔物なんだ?」


「この私を見てわからないのか......。これでも世界では知らない者がいないくらいには有名だったのだがね。いいだろう教えよう。私はかつて大陸を崩壊まで追い込んだ吸血鬼の始祖ヴェルドラだ」


 吸血鬼、それに始祖らしい。ラノベの感覚で言えば始祖クラスの敵は相当に強いはず。引き締めた気持ちをさらに引き締めなければ。




「1500年も経つと人間というものは退化し歴史は風化するのかね......。まあいい、雑談はこの辺にして始めようではないか」




 ヴェルドラのオーラが溢れ出すように噴き出す。なんだよこのオーラは!? 


溢れ出したオーラはタクミの全身を撫でる。撫でられた途端にレッドドラゴンの威圧を何倍にも濃縮してぶつけられたような感覚に陥る。




 これほどまでの威圧はもはや攻撃だ。全身がピリピリしてきて、立っているだけで生存本能が殺されると全力で警報を鳴らしてくる。たまらず転移で距離をとる。




「ほお、転移魔法まで使えるのか。君が特殊なのか今の世界基準が君なのか、まあどちらにせよ私にはかなわないな」


 転移で離れたはずなのに、離した距離を一歩で詰めてくる。ヴェルドラが拳を振り上げ顔面に振り下ろしてくる。クソこんなの食らったら絶対にダメージ負っちまうよ! 全神経を集中させてヴぇルドラの拳の軌道を見極める。よし、いける! ヴェルドラの腕を掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばす。




 少し驚いたような顔をしたが一回転して何事もなく着地する。




「今の攻撃はなかなかに良かった。次からはもっと速度を上げていくぞ」


 ヴぇルドラがぶれたように見えた瞬間に俺は後ろに吹き飛んだ。ドラゴンの攻撃よりも鋭く重い一撃。あまりの衝撃に意識が飛びそうになるが何とか堪えてヴェルドラに攻撃を仕掛けるために魔法を使う。




 風魔法の斬撃を20個ほど高速で飛ばす。どこにどう避けるかも考えたうえで放ったからかなり避けづらいはずだ。だが、ヴぇルドラは平然と斬撃を躱していく。マジかこれ避けるか。明らかに20個では足りないので、どんどん放っていく。




 どんどん数が増えているというのに軽々避けて、徐々にこちらに距離を詰めてきている。止まって放っていてもいずれ接近されると分かったので、ボス部屋の壁に沿うように回りながら風魔法を放っていく。途中から水魔法で作った先のとがった氷柱を回転させながら高速射出していく。








 5分ほど量を増やしたり追尾させたりとしてると、氷柱の一つがヴェルドラの膝に突き刺さる。




「チャンス!」


 膝がガクッと落ちたところで、転移を使い全力で殴りつける。




「グッ」


 今度はヴェルドラが壁にめり込む。その瞬間にレッドドラゴンを貫通した魔法、破壊光線をお見舞いする。




「グアァ!?」


 腹のど真ん中を破壊光線が貫いていく。ヴェルドラは体を黒い霧にして脱出する。破壊光線からは上手く逃げられたが、腹に空いたあなからは血液がドバドバ流れていく。一気に決めるために距離を詰める。ヴェルドラに向けて全力で殴ろうとした瞬間にヴェルドラの口がニヤリとした。




「!?」


 絶対に何かあると思って転移しようとするがギリギリ間に合わなかった。




「う、ガアアアア!?」


 転移し終えた時には、殴ろうと突き出した右腕が宙に舞っていた。




「貴様、だから未熟だと言ったのだ。戦いの最中にあんなに大ぶりな攻撃大きな隙になると考えなかったのか。やはり人間は退化したのだな」


 右肩を抑え蹲っているタクミを雑魚を見るようなつまらない目で見下してきた。だが、タクミにはそんなことにも気づかないくらいに痛みに悶えていた。






 イタイイタイイタイイタイ!? う、腕が無くなった!? どうしよう!? 血が、血が止まらない!? このままだと死んじゃう! 何とか血を止める方法は!?




 痛みで碌に働かない頭を回転させて、止血の方法を考える。わからない。わからない。わからない。縛る? でも1本じゃあ縛れない。どうすればいいんだよ!?




 ふと、ある漫画のワンシーンを思い出した。あふれる血を抑えるために肌を焼いて塞ぐ。なぜこの瞬間に思い出せたのかはよくわからない。だが死ぬよりはましだ。




「何だ、何かするのか? まあ、それで一命をとりとめてもあまり意味はないがな」


 興味を失ったのか、タクミに背を向けて歩き出す。




 タクミはすぐに無限収納インベントリから昨日の戦いでボロボロになった服を出し、震える左手で口までもっていく。服を口に詰めて噛みしめる。覚悟を決めろ。じゃないと痛みで死んでしまう。




 今から自分がやろうとするを考えると噛みしめている顎も震えてくる。布をかみちぎる勢いで噛み左手を右肩に持っていく。弱い火じゃあダメだ。一発で傷口全てを焼き切る。いくぞ、いくぞ、いくぞ!




「ふー!? フグゥ!? ヴヴゥ!?」


 発狂しそうになる痛みが全身を襲う。脳が痛みで爆発しそうだ。目も飛び出してしまいそう。噛みしめている服からは唾液だけではなく血液も混ざり始める。実際は2~3秒ほどの物だったかもしれない。だが俺にとっては何十時間にも長く感じられた。




「ふー! ふー!」


 自然と涙が零れ落ちる。まだ痛みで震える左手で布を口から外す。ちゃんと塞がったか目で確認する。ちゃ、ちゃんと塞がってる。






 10分程痛みと気持ちを落ち着かせて、起き上がる。クソ、上手くバランスが取れない。しばらく歩いているとだんだん慣れてきた。慣れてきたところで段々とヴェルドラがやったことに腹が立ってきた。あいつは絶対に殺す。生半可な殺し方なんて絶対しないぞ。




 俺があいつに勝つ方法を考える。......あ、『言霊』があるじゃないか。言霊のスキル説明を思い出す。






言霊…発した言葉が世界そのものに働きかける。内容によってMPの消費量が変わる。






 世界に影響を与えるんだ、一個人をどうにかするくらいはできるだろう。ヴェルドラを見ると、あいつは興味を失ったようにダンジョンの壁に寄りかかり目を閉じている。今に見てろよ......。




 MPポーションを一つ飲み干す。今回は2つの種類のポーションを買っている。まずはMPの半分を回復させるポーション。次に、10分で8割回復させるじわじわ効いてくるポーション。




 ひとまずどちらも飲む。これでスキルとポーションで回復力が一気に上がったはず。よし、本気であいつを殺す方法を考えよう。全神経を方法を考えるために使う。




「よし、やれる」


 ヴェルドラに殺気を放ちながら近づいていく。途中で気づいたのか此方を向いてくるがやはり興味を失っているようだ。




「まだやるのか? これ以上やっても貴様の死期を早めるだけだぞ?」


 まあいいさ、戦いの途中で気を抜いた時点でお前の負けは決まっているんだ。




『目の前まで来て跪け』


「なんだこれは!?」


 操られているように俺の目の前まで来て跪いた。ここからが本番だ。




『自分の腕で右脚を付け根から引きちぎれ』


「貴様ァ!? なんだこれは、おい、やめろ......アアアァ!?」


 自分の腕力で右足の付け根から千切れる。だが、十数秒で元の姿に戻る。




「馬鹿め! 私はどんなにダメージを受けても元に戻るスキルがあるのだ!」


「お前、それ敵の前では言っちゃダメでしょ」


『再生能力が尽きるまで両足を順番に引きちぎれ。あ、あと口を開くな。許可があるまで発声も禁止だ』




 ヴェルドラの顔が真っ青になる。それはそうだろう。これからスキルの効果がなくなるまで自分の脚をちぎらなきゃいけないんだ。ちぎった部位は片っ端から燃やしていく。






 20分程繰り返していると、再生スキルが消えたのか脚は再生しなくなった。会話できるようにするとすぐに命乞いを始めた。最初の威厳はどこに行ったのやら。




「頼む、もうやめてくれ。先ほどのは謝罪するから許してくれ!」


「無理だ、どのみちお前を倒さないと攻略したことにならないからな」


「な、なら! ダンジョンのボス資格を破棄する! これならこのボス部屋はクリアしたことになってこの先に進めるはずだ!」




 むむ、そうなのか。ならもうこいつを痛めつける理由の1割は消えてしまうな。え? 残りの9割? もちろんただの私怨だよ。




「いやでも、お前のせいで俺右腕無くしたし......。やっぱり殺さないと」


 ヴェルドラは真っ青になるがすぐにハッとした顔になり俺に提案をしてくる。




「な、なら今私が持っているエリクサーをやろう。それを振りかければ貴様の腕もすぐに治るだろう!」


「なんだ、そんなアイテムがあるのか」


「ああ、あるぞ! ほ、ほらこれだ!」


 丸底フラスコに入っているのは赤紫色の液体。本当にこれがエリクサーなのか?






エリクサー…回復ポーションの最高峰。飲めばあらゆる病を治し、あらゆる状態異常を治す。振りかければどんな欠損部位でさえたちまち治す。製法がほとんど知られていないので伝説のポーションと言われている。


製作法:超高純度魔力水300ml

    高濃度薬草100g

    高濃度魔力草00g

    解呪の花10輪




 1、超高純度魔力水を70℃の温度に温める。

 2、高濃度薬草、魔力草をすり潰しながら1を少しずつ加える。

 3、混ざった液体が冷めないうちに一度ろ過する。

 4、ろ過液を80℃に熱する

 5、解呪の花を手で触れないように絞る。

 6、10分程80℃を維持すると紫から赤紫色に変わる。器に移して完成。






 確かに本物らしいな。丁寧に制作方法まで教えてくれてる。ヴェルドラからエリクサーをもらい右腕に振りかける。断面がぼこぼこして段々元に戻っていく。すごいけどなんか気持ち悪いな。いや、治るだけありがたいものか。






「な、なあもういいだろだから俺を助けてくれよ!」

「ま、いいか、『自由にしろ』」


 ヴェルドラを気にも留めずにボス部屋のドアに向かう。ドアの前に来ても開かないな。




「は! 馬鹿め、ボス認定されたらこちらから破棄などできるわけないだろ! 死――」


「はあ、『這いつくばれ』」


 お前はフ○ーザかよ......。




『自分の腕で自分の核をゆっくり貫け』


「ひ、や、やめ、ヤメロォォォ!」


 自分の鋭利な腕で自分の核である心臓を貫いていく。10秒ほどで完全に核を貫き煙になって消えていく。ようやくお......わった、か。


 急激なレベルアップで意識をうまく保てずに倒れてしまう。今度はどれだけレベルが上がるんだろう......。






♢♦♢♦♢♦




「んん、今何時だ?」


 マップの時計を見ると16時を回ったところだった。この部屋だけで10時間以上いたのか......。立ち上がり周りを見ると先程空いていなかったドアが開いている。ようやく攻略か、すっごい長く感じたわ!




 階段を下りると一つの大きなドアがあり、それを開けるとそこは宝物庫になっていた。見渡す限りの金銀財宝。ここまで金貨や銀貨があれば男の永遠の夢、金貨プールができるんじゃないか!?




 先ほどのすさんだ心はどこに行ったのか、今は目の前のお金に夢中だ。




「よし! タクミ行っきま~す!」


 ル○ンダイブで金貨にダイブする。ジャラジャラと音を立てて中に嵌る。あ、これ飛び込めるけどそのあと行動ができないな。転移で元に戻り、金銀財宝片っ端から回収していく。




 1時間ほどですべてを回収し終えた。途中金貨に埋もれてた扉を見つけて中に入ると大量の鉱石がごろごろ転がっていたのでさらに時間がかかった。




「拾い残しはないな。あ、これどうやったら攻略完了になるんだろう?」


 先に進む部屋がないか宝物庫を探していると、鉱石類が入っていた部屋の壁に扉があった。あれ、こんなのあったかな。気にしないことにして扉を開けると、扉の先から光があふれてくる。




「まぶっ!」


 目を閉じて、明かりが落ち着くのを確認して目を開けると真っ白な空間にいた。なんだよここ。周りをきょろきょろしていると、後ろから声をかけられる。




「久しぶりだのタクミ」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る