第17話 Sランクになった!

「美味しかった?」


 甘味屋、『メロトの喫茶店』から出てミラに話しかける。




「はい! 特に赤い果実が乗ったマヌトゥ、あれがすごく美味しかったです!」


 マヌトゥとは要はイチゴショートケーキだ。確かに美味しかった。地球でお店を出しても人気店になるくらいだと思う。




「俺が頼んだアティカもなかなか美味しかったよね」


 アティカはチーズケーキだ。ミラと俺はケーキを半分こにしてお互いのを食べあっていた。前の世界では体験したことがなかったから正直ドキドキした。




「たしかにあれも美味しかったです!」


 宿に着くまで喫茶店で食べたスイーツの話をした。




 宿に着き、部屋の中に入るとミラが突然真面目な顔で話し始めた。




「タクミさん、あの子の事どうするかとか決めていますか?」


 ミラとスイーツ食べたってことが幸せ過ぎて忘れるとこだった。決して忘れてはいないからね?




「そうだねえ。まずは傷を治して体をきれいにするとこからかな......」


 ベッドに横になっている子を見る。身長はおおおそ150センチあるかないかで、碌な食事も与えてなかったのだろう。全体的にやせ細り、服の上からでもわかるくらい肋骨が浮き出ている。今気づいたが、この子もミラと同じ獣人なのか。




「ミラ、この子何族かわかる?」


 ミラは全身を観察するが、汚れ過ぎてて分からないとのこと。じゃあ鑑定使っちゃいますか。




「鑑定」




名前:ルナ・ラスフィー

種族:猫人族

性別:女

年齢:14

Lv:3


HP:14/43

MP:21/21

力 :38

防御:29

速さ:45

器用:35


状態:隷属


魔法

風魔法lv1


スキル

状態異常耐性lv3 HP回復率増加lv2 硬化lv2 剣術lv2


称号







 猫人族か、地球にいた時は猫も大好きだったな。それは今はいいか。




「まずは体をきれいにしないとな」


  洗剤球と、ボディーソープ球を作る。女の子にボディーソープ球を被せる。




「ミラ、ちょっと手を入れて服脱がして」


 任せてくださいと言ってちゃちゃっと脱がしてくれる。お湯球は真っ白に濁ってるから俺には見えてないよ! ......なんだろ目から水が流れてきそう。




 綺麗にするために球を回転させる。




「スゴイ汚れてるんだな」




「奴隷はほとんどがこんなものですよ」


 まじかよ。不衛生すぎる。汚れが完全に落ちきるまで、ミラとは先ほどのスイーツの話をする。また今度食べに行くか。




 10分ほどたつと、球が真っ白のままになった。よし綺麗になったな。麻の服も綺麗になった。




「さてと、ミラ服着せちゃって」


 後ろを向きミラに頼む。ささっと着替えさせてくれた。




 頭はまだ洗えてないから汚れてるけど、身体はすごくきれいになった。しっぽもふわふわになった。着せ終わって少しすると、ルナが目を開ける。




「お、起きたか。まだ怪我は治してないから横になっとけ」


 俺を見ずにいきなりベッドから降りて土下座しだした。




「すいませんすいませんちゃんとしますからぶたないでください」


 どうしたんだ急に。戸惑いながらミラに目を向けると、暴力を振るわれてる奴隷はこんな感じになってしまうらしい。




「落ち着け。俺は君に暴力は振るわないから」


 頭を撫でようとすると、身体の全身に力を入れて縮こまってしまう。仕方ない! 




 縮こまった体を持ち上げる。持ったままベッドに腰を掛け抱っこ状態にする。




「俺は痛いことしないぞ~」


 しばらくは全身に力を入れていたが、暴力は振られないと思ったのか、身体の力を緩める。緩まったのを確認して抱っこを解除してベッドの隣に移す。するとすぐにミラが俺に抱き着いてくる。




「ミ、ミラ?」


 ミラは何も言わずにギュっとしてきた。やきもちやいたのかな。ミラの態度が可愛くてほおが緩む。




「こんな格好で悪いけど自己紹介をするよ。俺はタクミ。冒険者で、こっちの俺に抱き着いているのがミラ」




「わ、私はル、ルナと申しますよろしくお願いします」


 ルナはベッドと平行になるくらい頭を下げる。頭を上げさせる。




「ルナ、君には三つの選択肢がある。一つ目は奴隷の身分から解放されて自分の好きにすること。二つ目は俺たちについてきて世界中を回るか、三つめは奴隷のまま自分のやりたいことを見つける」


 どれがいいかなと聞くと、選ぶ前に捨てないでください! と言われた。捨てるなんて言ってないのに......。




「ルナは何かやりたいことやしたいことない?」


 少し考えた後ルナが何でもいいのですか? と聞いてくる。




「構わないさ。なんでもいい言ってごらん」


 ルナが躊躇いながらも自分のやりたいことを伝えてくれる。




「な、なら冒険者になりたいです!」


 ふむ、冒険者か。たしか奴隷じゃ冒険者になれなかった気がするけど。




「奴隷だと冒険者にはなれないよ?」


 ルナに伝えると、しゅんとしてしまう。




「俺の力を誰にも話さないと約束するなら冒険者にしてあげられるよ」


 答えはすぐ出たようで、お願いします! と言われた。前ミラに聞いた時は、どんな子供も冒険者に強いあこがれを持つらしい。




「分かった」


 深呼吸しスキルを発動させる。




「『ルナの隷属は解かれる』」


 発動した瞬間にルナの身体がほのかに輝き数秒すると輝きが収まる。




「ステータスを見てみて」


 ルナはぽかんとしながらステータスを見ると目を見開いて驚く。そりゃ驚くよな。隷属の状態から解放されているんだから。




「す、すごいです!タクミ様」


 そうだろうそうだろう。褒められて鼻が高くなってしまう。




「これで冒険者になれるな」




「はい!」


 ルナの顔は先程のおびえた顔ではなく、これからの出来事にわくわくするような年相応の顔をしていた。






 冒険者登録をしに行こうとしたときに、頭を洗ってないことを思い出した俺は頭を丁寧に洗ってやった。この子も俺のテクに骨抜きになった。ふ、また骨抜きにしてしまったぜ。




「さてと、冒険者登録をしに行くかな」


 ミラを抱っこしながらギルドに向かう。行く途中にルナの服を買い、ギルドに向かう。道中、井戸端会議をしてた奥様方が、お兄さんやってて偉いわねと言って褒めてくれた。俺もミラも結構恥ずかしくなったのは秘密だ。




 ギルドに入ると、一斉に中にいる冒険者がこちらを向く。何人かは、前の町で見たことがある。そいつらはすぐに目を背ける。なぜだ! 話しかけてくれてもいいじゃないか。




「貴様、そこにいる女たちを私によこせ」


 はあ、何でどこに行ってもおバカな人ばっかなの?




 掲示板にいた冒険者がこちらに歩み寄り、見下した態度で言い放つ。身長は俺と同じくらいで、髪は金髪。態度的に貴族か。だからギルドに行くのはいやなんだ。




「嫌です。では」


 だるいのでスルーしていく。




「おい、俺がよこせと言っているのだ。素直に差し出せ」




「だから、嫌だって言ってんじゃん」


 横を通ろうとしたときに、肩をつかまれる。




「いくらだ」


 は? 何言ってんだこいつは。




「金貨100枚でどうだ」


 こいつは何言っているんだ。そんなに俺に喧嘩売って何がしたいんだよ......。




「おい、いい加減にしないと怒るぞ」


 最終警告はしたからな。これでも言ってくるなら容赦しない。




「貴様、この俺に向かってなめた口を......。おい、この男を始末しろ」


 貴族の後ろにいた騎士5人が抜剣をし襲い掛かる。見下しやがって......。






「『平伏しろ』」


 貴族と騎士合わせて六人が俺の目の前で平伏する。騎士たちや貴族は何が起きてるのかわからないようだ。




「『頭を地面につけろ』」


 地面にめり込むんじゃないかというくらい頭を地面にこすりつける。




「貴様! これはなんだ今すぐ解除しないと許さんぞ」


 土下座しながら言っても何も怖くない。




「『そのうるさい口を許可するまで開けるな』、よし行こうか」


 ミラとルナを連れて受付に向かう。ミラは受付に向かう途中に抱っこをやめ降りている。






「すみません。この子の冒険者登録と俺のランクアップの件で来ました」


 受付嬢は先程の事に驚いていたが問題なく登録してくれた。




「ランクアップの件ですがお名前を聞いてもよろしいですか」




「タクミです」


 名前を聞くと、すごく驚き、し、少々お待ちください! といい、奥の部屋に駆け込んでいった。






 10分たっても来ないので、食事できるところで3人で飲み物を飲んで待っていると、ようやく受付嬢が俺を呼びに来た。俺が飲んでいたのがぺカ、オレンジジュースでミラがマトゥ、ザクロみたいな果実のジュース、ルナはトゥラ、いちごオレみたいなものだ。




「タクミ様。ギルド長がお呼びです」


 飲み物を飲みながらついていく。受付の奥には階段があり、二階に上がり、ギルド室と表札がかかっている。失礼します。といい受付嬢が入っていくそれに着いて入っていく。




「よく来たな。ま、座れよ」


 言われた通りに座る。




「お前ギルド長室に飲み物呑みながら入ってくる奴なんて初めてだぞ」


 ガハハと笑いながら話しかけてくる。




「少々じゃなくて結構待ったから喉渇いちゃって」


 しっかしこのがたいの良いおじさんめちゃくちゃ強いだろ。オーガキングよりも強いんじゃないか......。鑑定をする。






名前:ダルニス・バルシル

種族:人族

性別:男

年齢:39

Lv:172


HP:38231/38231

MP:21553/21553

力 :13754

防御:15312

速さ:9258

器用:8891


魔法

火魔法lv8

水魔法lv6

土魔法lv4


スキル

剣術lv8 剛腕lv7 硬化lv7 直感lv8 看破 HP回復率上昇lv7 MP回復率上昇lv6 見切りlv7 体術lv6 


威圧lv7 弓術lv6 投擲lv5 気配感知lv6




称号

魔物の天敵

王殺し

ドラゴンスレイヤー

王都ギルドマスター

Sランク冒険者

覚醒者




 おいおい、マジかよめちゃくちゃ強いじゃん。なんだよlv172って!lv100が最高じゃないのかよ! 




「ほう、お前さん今俺のステータスを見たな」


 背筋がゾクッとする。予想が当たったと言わんばかりにニィッと口の端を釣り上げて不気味に笑う。




「何でわかったか教えてもらっても?」


 警戒しながら慎重に尋ねる。




「まあまあ、そう警戒すんなよ。なんでわかったか、だったな。それは何となくだ」


 直感のスキルが高くなると自分に害意があるようなことに感づきやすいんだと、直感にそんな効果があったとは。あとで俺の増えたスキルも確認しておこう。......なんだ? なんか嫌な感じがする。これはまさか......。




「しっかし、なかなか。お前さんも強いじゃないか」


 やっぱり、俺はステータスを見られたのか。




「どこまで見えました?」


 多分看破で俺のスキルを見たのだろう。鑑定の下位互換がどのくらい見れるか気になる。




「俺はレベルと一番高いステータス、何かのスキル一つだな」


 ほう、それだけしか見れないのか。ほぼ見られてないのに安心していると、ダルニスがランクアップの話をしようぜと話題を変える。




「さて、と。ランクアップの件だったな。先日議会にかけた。無事にランクアップを認められた。無事にSランク昇格だ!」


 Sランク昇格と聞いたとたんに、ルナがトゥラを吹き出す。




「うわ、ルナ汚いぞ!」


 す、すいません! と言いながら受付嬢が渡したタオルで机を拭く。




「なんだお前、ランクアップの事伝えてなかったのか?」


 呆れた口調で聞かれる。仕方ないじゃないか。救ったのが少し前なんだから。




「まぁ色々あるんですよ」


 そうかい、といいランクアップを進められる。




「Sランクのカードの話だが何色がいい?」


 カードの色を選べるらしい。なら、




「黒色で」


 ほう、黒かといい、部屋にある机の引き出しから透明のカードをとり、机にある水晶にカードをかざす。そうすると、透明な色から黒い色に早変わる。




「ほれ、これがお前のカードだ。無くすと金貨500枚だからな」




「は!? 500枚だって! なんでそんなに高いんですか」


 Sランク冒険者は全冒険者のあこがれの的、そんな冒険者がカードを無くすのは恥ずかしいからと、初代ギルドマスターがそう議会で言ったらしい。すごい迷惑なことを......。まぁ無くさないからいいか。




 Sランクカードは黒く、光に照らすと黒く輝く。そして右下にはダイヤモンドのような鉱石で、タクミと書かれている。




「この字の所の鉱石は何ですか?」


 おお、それはオリハルコンだという。オリハルコンだって!? あの異世界鉱石で有名な!。




 カードをもらい、部屋を出ようとする時にあることを思い出す。




「そういえばギルドの入り口に黙ったまま土下座してるやつがいるんだけど、どうすればいいですかね」


  どんな奴だ。と聞いてくる。金髪貴族で偉ぶった態度の、と伝えると、またあいつかとため息をつく。




「あいつは貴族の出で、しょっちゅう問題を起こすんだよ」


 やっぱりな、まぁそんなことは知ったこっちゃないけどな。




「なんとかしといてくださいね」


 と言い部屋を出ようとすると、俺も付いていくと、共に部屋を出る。受付の前に出ると、周りが騒がしくなる。あいつ何してたんだ? やら、何もんだよ、とか俺を誰だか気になるようだ。




「みんな、聞け! 今日新たにSランク冒険者が誕生した!」


 皆が一斉に驚く。




「それがこいつ、タクミだ!」


 な!? あの子供が! 皆が大声で驚くもんだからすごいうるさい。




「そして、今日はSランク冒険者に喧嘩を売ったバカ者がいるらしいな」


 入り口で今もなお土下座する貴族と騎士を見る。




「しかも、抜剣して襲い掛かったらしいじゃないか」


 貴族は何か言おうとしているが口は全く動かない。




「んー! んん!」


 なんといってるか全くわからない。どうしたんだこいつ。といって気味悪そうな顔をしている。




「ああ、すいません。俺がそうさせてるんです」


 貴族に近づき小声で口を開き話すことを許可した。




「は! ギルドマスター聞いてください。こいつが俺に喧嘩を売ってきたんだ!」


 本当なのか? とまったく信じてなさそうに聞く。




「いえ、こいつがいきなりミラとルナを俺に売れとか頭のネジが天空の遥か先まで飛んでることを言ってきたからこんなことになったんです! ああ、可哀想なミラとルナ。すごく怖かったのでしょう。ミラは俺に抱き着き、ルナは俺の後ろに隠れておびえていました!」




 物凄く大ごとのように言う。ミラは宿からずっと抱っこだったし、ルナが後ろにいるのはたまたまだったけど、そんなことは重要ではないのだ。俺がこう言い、ミラたちが合わせてくれればいいのだ。




 ミラたちに目配せをすると、何かを感じ取ったのか二人とも演技モードに入る。




「そうなんです! あの人が獣のように飢えた目をして私たちの身体を見てきて! 私は怖くて怖くてよよよ......」




「そうなのです! 私の身体も舌なめずりするように見てきて怖かったのです!」


 ミラはよよよ......。とか言って俺に抱き着き、ミラは俺の後ろにしがみつく。貴族はち、ちが! と声を出しているが周りの目は絶対零度よりも凍てつく目で見ている。




「そうか、ケルン貴様はギルドルールを破り、他人の女性に劣情する奴だ。よってギルドの資格をはく奪し、ギルドに依頼を出すことも禁止する! 証人は此処にいる人間すべてだ!」


 聞こえないように、『自由にしてよい』と発すると、貴族たちは足を小鹿のように震わせながら退散してゆく。正座、初めてだったんだね。




「タクミありがとうな。正式な理由がないと貴族をギルドカードはく奪なんてことできないんだ。これでもし貴族どもが言い寄ってきても、今の理由で追い返せる」


 ギルマスも喜んでいる。他の冒険者たちも、嫌なことをされたのだろう、口々に感謝される。




 ギルドを出て、宿に向かう。時刻は17時27分夕食を取るにはいい時間だ。




「Sランク昇格祝いに外食しようか!」


 ミラとルナが喜びながら食べたいものをリクエストしてくる。魚料理に肉料理とな。よっしゃどっちもそろっているところで飯にするか!




 食事はたいへん楽しかった。店に入り食事をすると、周りからSランク冒険者様だ! と声が上がって鼻が高かった。気分が良かったのでみんなに酒をふるまってやった。




 帰った後にミラに金遣いが荒いと怒られてしまったのは言うまでもない。

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