第16話 ダンジョンに行く
「......八ッ!」
ダンジョンが楽しみ過ぎて太陽の光が部屋に差し込んだ瞬間に目が覚める。気分は遠足の日に早起きしちゃう小学生だ。目が覚めてすぐに身支度を済ませる。自分の準備が終わったからミラを起こす。
「ミラ! ほら、行くよ。今日はダンジョンに行く日だよ」
ミラをゆすりながら起こすが、なかなか起きない。
「ミラ、早くいかないと混んできちゃ―――」
う~んと言いながらミラが寝返りを打つ。その時に俺の腕まで巻き込んだのでミラの上にまたがるような格好になる。その状態でミラが目を覚ます。
「んん、?......!?」
そりゃそうなるは。起きたとたんに俺の顔が目の前にあるんだもん。
「タ、タクミさん? 朝からそんな積極的だと......」
「わー! 違う違う! 誤解だよ」
何とか誤解を解いてミラにもダンジョンに行く準備をしてもらう。
「びっくりしましたよ。目を覚ましたらタクミさんの顔が目の前にあるんですから」
微笑みながら今朝の事件を掘り返す。うう、これはしばらく弄られそうだな......。
「あはは、だから偶々なんだって。それより! ミラ、ダンジョンのことを教えてよ」
掘り返してほしくないので無理やり話題を変える。ミラはタクミさん可愛いですとからかってくる。顔を赤くなってるのが自分でもよくわかる。
「おほん、私たちがこれから行くのは王都にあるダンジョン『バルディア』全100階層で今は76階層まで攻略されています」
「ん? なんで攻略されてないのに何階層あるかがわかるの?」
それはですねとミラが疑問を解消してくれる。
「ダンジョンの入り口に何階層があるか確認できるんですよ。ダンジョンごとに階層が違うので、ダンジョンが誕生したときに必ず現れるのでみんなそういうものだと思っていますよ」
なるほど~。難しいことは研究者に任せればいいか。
「そうなのか。ちなみに一番階層が深いのはどこなんだ?」
そうですねえ......。といい少し考える。すぐに思い出したようで話し始める。
「たしかエルスト帝国の『カルサハ』の120階層ですかね。でもあそこは50階層までしかない不思議なダンジョンなんですよね」
エルスト帝国かあ......。世界中を観光したいしそのうち寄ることがあるだろうな。
ミラにこのダンジョンで主に出る魔物を聞くと、ラノベでよく聞く魔物ばっかりだ。俺が初めて戦ったゴブリンもいるらしい。魔物について聞いてるとダンジョンの目の前まで来た。
「はあ~、これがダンジョンかあ......」
王都には似合わないドーム状の洞窟がある。周りは土色で、中はありえないくらい真っ暗だ。入り口の壁にこの国の文字で100と書かれている。
「ミラ、ダンジョンの中ってこんなに暗いの? さすがにこの暗さで戦うのは......」
ミラに話しかけると、そういえば言い忘れてましたと補足説明をしてくれた。
ダンジョンは空間がゆがめられていて、洞窟に入るとちゃんと明かりがあるらしい。今見えてる洞窟の何十倍も広いらしい。
「なるほどね、よし! 行こうかミラ!」
ミラに手を差し伸べる。
「はい!」
手をつないで洞窟の中に入っていく。
洞窟に入ると先ほどの大きさからは考えられない広さと高さだ。外から見た時は高さ4メートルくらい、横幅は10メートルあるかないかくらいだったのに、今は高さは20メートルを優に超えていて、横幅は500メートルくらいあるんじゃないかって程広い。奥は入り組んでるからかはっきりは見えないが、たぶん相当広い。マップを開いてみる。
「これは......。すごい広いな」
1階層だけで王都分くらいの広さがある。分かれ道やセーフ部屋みたいな小型の部屋もある。
「そうですね......。私も初めて入りました」
一緒にダンジョンの広さに感激していると、ゴブリンがどこからともなく表れた。なんだ? 今どうやって出現したんだ?
疑問に思いながら風の魔法で一刀両断すると、外の魔物のように血が流れないで、黒い煙が出て消えて行った。
「ここの魔物は瘴気と呼ばれる魔素とダンジョンが出す魔素が混ざってできているので血は出ないんですよ」
だから、いきなり現れたり血が出なかったのか。
その後もゆっくりと観光気分でダンジョンを回る。途中何人も冒険者たちに会う。ほとんどの冒険者が魔物を戦っている。
マップを確認すると12時をを回っていた。
「ミラ、お腹すいたから食べながら歩こうか」
ミラには今朝ダンジョンに行く途中に買ったサンドイッチを渡す。俺はもちろん串焼きだ。食べながらも魔法でサクサク倒していくと、マップには壁の奥に表示されている部屋があるのに、見た感じは何もない普通の洞窟の壁がある。
「なんだ?」
壁に触れると手が壁に沈んでいく。
「おお! すごいなこれ」
「タクミさん! 何してるんですか!?」
体を半分ほど沈めたあたりでミラが驚きの声を上げる。問題ないと言い、顔を壁に沈ませると、中は6畳くらいの小部屋があった。中には全体的に赤で、ふちは純金の宝箱一個以外何もない。明らかに怪しいだろ......。
鑑定をかける。
カマトゥスの宝箱…無限の可能性を秘めた宝箱、開けた本人に何かを与える。スキルであったり物であったり災いであったりと、何を与えるかは完全にランダム。
レア度:迷宮ダンジョン級
おお、すごい宝箱を見つけちまった。何かもらえるらしいし開けますか! ドキドキしながら宝箱を開ける。
「うお! ま、まぶい......」
まぶしすぎて目をつむる。目を閉じているのにまぶたを貫通して光が差してくる。10秒ほどで光が収まる。目を開けてみるが特に何もない。ステータスか? 自分のステータスを確認する。
名前:佐々木タクミ
種族:人
性別:男
年齢:17
Lv:94
HP:17630/17630
MP:19884/19884
力 :2960
防御:2532
速さ:3152
器用:2983
魔法
火魔法lv8
水魔法lv7
土魔法lv6
風魔法lv8
光魔法lv6
闇魔法lv6
空間魔法lv7
スキル
HP回復上昇lv1 MP回復上昇lv7 格闘技lv8
称号
バルディアの加護
ゴブリンの天敵
王殺し
お、言霊ってスキルが出てる。調べてみるか。
言霊…発した言葉が世界そのものに働きかける。内容によってMPの消費量が変わる。(例)その者が晴れていると言ったらたとえ嵐が来ても晴れる。
Oh......。素晴らしくチートなものが来たよ......。俺こんなにチートになってどうするんだよ。バルディアが言うには俺は平凡だったらしいんだけどな。何かで試したいな。
小部屋から出るとミラがプンプン顔で待っていた。
「遅いですよ! こんなところに私だけ残してひどいですよ!」
確かにミラは世界で一番可愛いからどこの誰が狙うかわからない。くそ! 油断してたぜ......。この世界の女神ミラは俺が守る!
「タクミさんなんか変なこと考えてます?」
何故に分かったし。ミラすごいな。図星をつかれてびっくりしたがギリギリ顔には出てなかったと思う。
「き、気のせいだよ。こんなとこで待たせてごめんな。今日はもう帰ろ。ミラに甘いものごちそうするから許してな?」
甘いものの言葉を聞くと、耳がピクッと動く。顔にはあまり出てないがしっぽがうれしさを物語っている。ゆ~らゆ~らと揺れている。
「な、なら仕方ないですね。さ、早く帰りましょ。早く帰らないとお店が閉まっちゃいますから」
ミラはもう甘いもので頭がいっぱいのようだ。俺も久しぶりに甘いの食べたいから早く帰るか。
「ミラ、手を取って。早く帰ろうか」
ミラと手をつなぐ。二人転移は初めてだけど大丈夫でしょ。
「ミラ、今から起こることは誰にも言っちゃだめだよ?」
「? はい、わかりました......」
ミラは頭に疑問符を浮かべながらも約束してくれた。
「じゃあ行こうか、目標はとりあえず宿の部屋に飛ぶか。よし、転移!」
周りの景色が一瞬で変わる。先ほどまでは土色しかなかった景色が、昨日取った宿の景色になっている。うまくいったな。
「ひゃっ!」
ミラは転移が初めてのようで驚いてしまった。その気持ちわかるぞ。気持ち的には家で寝てたのにいつの間にか学校に転移したような......なんだろう、あんまりいい例が浮かばなかった。
「驚いた? これは秘密だよ?」
そういいながらお湯球を三つ作る。一つに今着ていた衣服を放る。 ミラも慣れたのかすぐに服を脱ぐ。こらこら、せめて俺がミラを見てないときに脱ぎなさいな。
そっと自分の目を隠す。お湯球に入ったようなので、目を暗闇から解放する。
「タクミさんは相変らずすごい魔法を同時発動しますよね」
感心した声でミラが話し出す。
「同時発動ってそんなにすごいの?」
この世界の魔法事情を何も知らないから知るチャンスだね。
「スゴイですよ。まず魔法は詠唱が必要ですし、無詠唱ができる人なんてそうそういませんよ」
だからダンジョンで出会った冒険者の何人かに一人が俺を見てギョッとしてたのか。
「魔法を維持するだけなら詠唱はいらないんですけど、複数の魔法を一気に発現させるのは魔道学園に行くような優秀な方たちくらいですし」
「魔法の同時発動ってこの世界じゃあそんなに難しいことなんだね。ほら、俺は結構簡単にできるんだけど」
空間以外の全属性を自分の周りに浮かばせる。ミラはさすがタクミさんです! と褒めてくれた。
「魔法ってイメージだと思うんだよね、ミラも無詠唱で魔法使えると思うよ?」
ミラは本当ですか!? と驚いている。だって魔法知識0の俺が無詠唱で扱ってるんだから、ミラならできるだろ。
「あ、あのタクミさん。魔法の使い方を教えてもらえませんか?」
ミラが顔をキッとしてお願いしてくる。
「いいよ、ミラのお願いなら何でも聞くし」
ミラが大輪の花が咲いたような笑顔を見せる。ミラの笑顔はいつ見ても幸せになるな。お風呂を終わらせて、着替える。
「じゃあ、甘いものを食べてから魔法の練習しようか」
「はい!」
マップで探した甘いものが食べられるお店を探しそこへ向かう。ミラは楽しみなのかしっぽをゆらゆら揺らし俺を引っ張るように歩く。
「ミラ、焦らなくてもお店は逃げないから大丈夫だよ」
ミラは少し顔が赤くなり、歩くペースが落ちる。照れるミラも可愛いな。もう少しでお店に着くというときに、誰かの怒り声が聞こえる。
「このクソ奴隷! まともに働けないのか!」
なんだなんだ、ミラとの時間を邪魔するおバカは。人だかりができているが、気にせずに歩こうとすると、ミラが立ち止まる。
「ミラ? どうしたの?」
少し考えていたが、ミラが俺に話しかける。
「タクミさんは何でもお願いを聞いてくれるんですよね」
「そうだね。ミラのお願いならなんでもね」
お願いの内容は予想できるが、最後まで聞こうか。
「なら、その、あの子を助けてあげてくれませんか?」
やっぱりね。俺も助けたかったし、
「いいよ、じゃあお店はちょっと待ってね」
ミラの頭を撫でて、怒声のする場所に向かう。
「あの、どうしたんですか?」
奴隷の子を蹴り飛ばしているおっさんに尋ねる。回りに騎士っぽいのがいるな。あれ、これ厄介なことになる気が......。
「何だ貴様は、この私に何の用だ」
蹴り続けていた足を止め此方を向く。
「いや、すごい怒声が聞こえたのでどうしたのかと」
貴様何者だと尋ねられたので、冒険者ですとだけ答える。
「ほう、冒険者風情が私の行動にどうこう文句を言われる筋合いはないわ」
かなり高圧的だなあ。昔の俺ならこのレベルで少しビビってしまうが、こいつ程度ならどうにでもできると考えると、ただうるさいだけになる。
「その子は使い物にならないんですか?」
「ああ、こんな使えないクソ奴隷もう処分する」
顔面を踏みながら俺に答える。
「なら、それ俺に売ってみませんか?」
おっさんは踏んでいる足を止め俺の方を向く。
「ほう、なら金貨100枚で売ってやろう」
そういうと、周りがどよめきだした。あの奴隷にそんな額......や、いくらなんでも払えないだろう......など様々なことを言っている。ふむ、100枚くらい・・・なら今すぐで払えるな。
「そうですか。ではこれを」
金貨100枚を
「......ふん、これが奴隷の契約書だ」
騎士の一人が俺に契約書を渡してくる。騎士が俺の目の前まで来ると、
「貴様のような低俗な人間がベタトリ様にお声をかけられるだけでありがたいのだ。感謝しろ」
「あっそ、渡したんならさっさとどっか言ってくれない?」
あ、さすがに今のはむかつくわ。相手を煽る様に声をかけると、貴様! といい剣を抜き襲い掛かってくる。周りは悲鳴が聞こえ、人だかりが20メートルほど後ろに下がった。いい機会だし言霊の威力を確かめるか。
振り下ろした剣をバックステップでかわし、言霊を発動する意識で言葉を紡ぐ。
「『跪け』」
MPがほんのちょっと減った気がするが自動回復があるから問題なし。
スキルを発動したとたんに、騎士の男が、強制的に跪く。
「な、なんだこれは!?」
騎士は立ち上がろうとしているが、何かに押さえつけられるように跪いたままだ。
「『抵抗せずにここから立ち去れ』」
今度はそれなりに減ったが、まだ回復の方が上回っている。おっさんと騎士たちは何も言わずに撤退していった。面倒ごとに巻き込まれたくないので最後にもうひと押し。
「『今あったっことは一切合切忘れろ』」
うお!今度は半分以上減ったな......。奴隷の子を持ち上げて転移しベッドに寝かせる。もう一度転移してミラの元に飛ぶ。
「さ、行こうか」
はい! といい手をつないで甘味屋を目指す。
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