異世界。襲撃(3)
カレンと美優に手伝って貰いつつ、幸介はヘンゼルを背負う。
まずは彼を治療しなければならない。
リアは学校周辺では姿を見なかった。
彼女は王女なので、教師や兵士たちが優先して守るだろう。すでにどこかにあるらしい避難所へ向かっているはずだ。
「カレン、避難所はどこだ?」
「北西の城壁を出て西だと聞いた」
「遠過ぎる! 近くにいる味方の兵士を探せ! 回復魔術を使える奴がいるかもしれない」
「わかった」
「なるべく敵を避けて進むぞ」
現在地は南北に通る大通りの東にある住宅地エリア。
幸介たちは壊れた建物の間を、大通りの方へと向かう。
その間、カレンは索敵能力を使用。
「近くに味方が六人いる。ただし二十人以上の敵と交戦中!」
カレンが示す方向からは銃撃音や爆撃音が聞こえる。大通りの方だ。
「見つからないように敵の背後へ回るんだ」
「北側から回れば背後に出られる」
「行こう」
「お兄ちゃん、私も戦います!」
美優が真剣な表情でそう言った。
「よし。美優にも銃を一つ渡せ」
カレンは拳銃を一つ召喚し、美優に手渡す。
「美優、敵を目にしたら躊躇わずに撃て」
「わかりました」
建物の陰に隠れながら銃撃音の北側へ移動。敵の後方へと回った。
すぐにカレンは能力で見える範囲の敵兵の拳銃を奪っていく。
そして敵兵へ向けて連射。
三人を射殺した。
残りの敵兵はこちらに気付き、戸惑っている。
「美優、当たらなくてもいいから撃ちまくれ! 足留めにもなる!」
「はい!」
美優は敵兵へ拳銃を向けて連射し始めた。
カレンも弾切れの銃を捨て、別の拳銃を拾って撃つ。
さらに四人を射殺。
残りの敵兵が戸惑っているところへ、味方の魔術師たちが攻撃する。
敵兵数人が氷漬けになり、数人が焼死した。
カレンと美優も拳銃を撃ち続け、そこにいた全ての敵兵を倒した。
「誰だ!? 助かったぞ!」
一人の兵士がこちらへ駆け寄ってきた。
「ジークさん!」
ジークは中年の剣士隊の兵士で、幸介やカレンは何度も会ったことがある。
「コウスケ! 生きてたか! それにカレンも!」
「ああ!」
「ったく、銃ってやつは厄介過ぎるぜ」
ジークはうんざりしたように言う。
ヘンゼルの両親を助けた戦いの後、幸介は銃の存在を王や兵士たちに伝え、カレンが訓練の過程で召喚した銃を軍の施設へ納め続けていた。しかし彼らが実際にその攻撃を受けるのは初めてだ。
「ジークさん! 誰か回復魔術を使える人はいないか!? ヘンゼルが死にそうなんだ!」
「エイミーを呼んでくる!」
ジークは走っていき、仲間の兵士に合流。入れ替わりに一人の女性がこちらへ走ってきた。
「エイミーさん、頼む! すぐにヘンゼルを治してくれ!」
「わかったわ!」
建物の陰の狭い路地にヘンゼルを寝かせると、エイミーは治療し始めた。
「治せそうか?」
「大丈夫。数分で治せるわ」
「そうか。良かった」
エイミーの言葉を聞いてほっと安心した。
カレンと美優も同じように安心したような表情になった。
「エイミーさん、敵は何者だ?」
「わかるでしょう。エルドラードよ」
幸介が尋ねると、エイミーはヘンゼルを治療しながら答える。
「国境の兵士たちはどうしたんだ」
「わからない。全滅した可能性が高いわ」
直後、機関銃の連射音が鳴った。
そして大通りにいるジークと味方の兵士たちが倒れた。
「くそっ……ジークさんたちが撃たれた!」
「なっ……!?」
エイミーが手を止めて顔を上げる。
「助けないと!」
「駄目だ! 今出て行けばあんたも撃たれる!」
再度機関銃の連射音が鳴り、幸介たちのそばの壁が撃たれた。どうやら居場所が敵にバレているらしい。
「コウスケ、まずい! 敵の数が増えてきてる! このままじゃ囲まれる!」
「くっ……」
カレンが周囲の敵を察知して言うと、幸介は顔を歪める。
「どうするの!?」
「とにかくエイミーさんはヘンゼルを頼む!」
「コウスケ! 敵が三人こっちに接近してる!」
「俺たちで倒すぞ!」
「了解!」
幸介とカレンは壁から半身を出してすぐに銃を連射。近付いてきた三人の敵を射殺した。
しかしすぐに離れた場所から機関銃の連射音が鳴り響く。
思わず壁に隠れた。
「カレン、あいつらの銃を奪えないか!?」
「連射され過ぎてて無理! 武器を目視出来ない!」
「くそっ……!」
隙を見て壁際から銃を撃つが、機関銃の連射音が鳴り、再び隠れる。
連射音は鳴り止まない。
「このままじゃそのうちやられるわよ!」
「わかってる! とにかく早くヘンゼルを治してくれ!」
エイミーの言う通りだ。
敵の機関銃を何とかしなければこの場を乗り切れない。
カレンによると後方にも敵がいるらしく、徐々にこちらへ迫って来ているらしい。
「お兄ちゃん」
「どうした!?」
「私が何とか出来るかもしれないです」
「どうやって!」
美優はカレンに近付くと、彼女の手を握った。
「カレン、目を閉じてください」
「何故?」
「お願いします」
カレンは少し戸惑うような表情になったが、美優の言う通りに目を閉じた。
「……!? ミユ、これは……!?」
「ジークさんの視界です。ジークさんはまだ生きています」
「……!」
カレンは驚いて目を開けた。
幸介と、ヘンゼルを治療していたエイミーも同様に美優を見る。
ジークは大通りの斜め向こう側辺りで撃たれ、敵の近くで倒れている。
どうやら美優は辛うじて生きているジークの視界をカレンに見せているらしい。
「じゃあ母さんの視界は見えないのか!?」
「今は、見えません……」
「くっ……」
美優が悲しげな表情で答えると、幸介は顔を歪める。
「カレン、敵の銃が見えたらすぐに奪ってください。ジークさんもいつまで目を開けていられるか……」
「わかった」
美優は能力を使い、ジークの視界をカレンに見せた。
その間、幸介は連射音の合間に銃を撃ち続ける。
数秒後、二人は敵の姿を確認したらしく、カレンは能力で機関銃を一つ奪った。
機関銃の連射音が少なくなった。
「よし! 寄越せ!」
「私も撃つ!」
一つ奪ってしまえば、カレンは実物がどんなものかを知ることになり、ランダムの場所から同じものを召喚出来る。
カレンはもう一つ機関銃を召喚し、二人で撃ち始めた。
「コウスケ! ヘンゼルの怪我は治ったわ! もう大丈夫!」
「よし! 美優! ヘンゼルを叩き起こしてジークさんと母さんを呼び出すように言え!」
幸介が機関銃を撃つのを一旦止めて言う。
「え? 呼び出す? どういうこと?」
エイミーはヘンゼルの能力を知らないため、顔を顰めた。
「ヘンゼルさん! 起きてください!」
「ぅ……」
美優がヘンゼルの体を揺さぶっていると、ヘンゼルは薄っすらと目を覚ました。
直後、幸介が持っていた機関銃からカチッと音が鳴った。
「くそっ、弾切れだ。カレン、同じものを出せ!」
「先に安全な場所へ逃げた方がいい!」
「母さんを助けるのが先だ!」
幸介たちの後方では、上体を起こしたヘンゼルが美優を見て驚く。
「あれっ!? ミユ、目が……!?」
「その話は後でします!」
美優がヘンゼルに手短に事情を話した。
「ユキノさんが!?」
「はい! 瓦礫の下敷きになってるんです! とにかくお願いします!」
「わ、わかった」
必死で言う美優を見てヘンゼルはそう答えた。
「コウスケ! 四方八方から敵が……これじゃ逃げられない!」
カレンはまた索敵能力で察知し、焦ったように言う。
「数は!?」
「正確にはわからないけど、まだ少し距離があるのを含めれば百以上はいる!」
「くそっ……エイミーさん! ヘンゼルと美優を連れてそこの建物に入れ!」
「え? で、でも……」
「いいから早く!」
「……わかった」
そばの建物はまだ壁や天井が残っている。しばらくは身を隠せるだろう。
ヘンゼルは雪乃とジークを召喚し、エイミーも二人を呼び出した後は、彼らを治療しなければならない。
「お兄ちゃんは!?」
美優が不安げな表情で尋ねてきた。
幸介は近くにあった拳銃を二つ美優へ手渡しながら言う。
「頼む。今は言うことを聞いてくれ……!」
美優は何かを思い出したような表情になり、拳銃を受け取って「わかりました」と答えた。
「ヘンゼル、頼んだぞ!」
「ああ、わかった!」
三人は近くにあった入り口からそばの建物内へと入っていった。
幸介は残ったカレンに言う。
「カレン、刀を出してくれ」
「うん」
カレンが刀を召喚し、幸介はそれを受け取る。
「どうするの?」
「ここへ近付く敵を全て倒す」
「私も戦う」
カレンはそう言って刀をもう一本右手に召喚した。
「ああ。この場を乗り切るにはお前の力が必要だ」
「うん。任せて」
「いいか。なるべく見つからないように敵の数を減らすんだ。行くぞ」
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