異世界。襲撃(2)
「うえぇぇぇん……」
泣き続ける美優の手を引いて、必死に走った。
入ってきた校舎の裏側は建物が崩れ、外へ出る通路が塞がっていた。
「くそっ……こっちだ……!」
「うぅ……」
仕方なく別の出口を探す。
廊下を塞ぐ瓦礫を避けながら走った。
がむしゃらに走ると、外へ出られる壊れた壁があった。
すぐに二人でその壁を潜り抜け、外へ出た。
直後、校舎がガラガラと崩れ落ちた。
「くっ……母さん……!」
「うえぇぇぇん……」
校舎がこの状態では雪乃が無事である可能性はほとんどないかもしれない。それでも希望は捨て切れない。
周囲では銃撃音が鳴っている。
瓦礫に体を隠しながら、校舎正面の辺りを窺う。
うろうろしている武装した敵が数十人、そして撃たれて倒れている味方の兵士たちや魔術学校の教師らしい大人たちの姿も目に入った。
幸介は美優の手を掴んだまま、半壊した建物に身を隠しながら走った。
学校の敷地を出ると、そばの住宅地へ出た。
そこは地獄のように思えた。
辺りの爆破された建物は崩れ、煙がそこら中から立ち昇っており、ところどころに銃で撃たれたらしい血塗れの死体が転がっている。
近くから悲鳴や銃撃音、爆発音が聞こえてくる。
「コウスケ! ミユ!」
声の聞こえた方を見ると、こちらへ向かって走ってくるカレンの姿があった。
「カレン! よく来てくれた! ヘンゼルは!?」
「今は私一人。土手下で銃の訓練をしていたから」
「くそっ……」
出来れば一緒にヘンゼルも居て欲しかった。
彼女は土手下から街の方へ来てうろうろしている途中に幸介と美優の気配を察知し、ここへ来たらしい。
カレンは索敵能力も開花し、ここ数カ月間である程度は使いこなせるようになっている。
「うぅ……カレン……」
「……! ミユ!? 目が見えるの!?」
「……うん」
カレンが驚いて目を見開くと、美優は泣きながら答えた。
「話は後だ。とにかくヘンゼルを探さないと! 母さんがまだ学校の中にいるんだ!」
「……! 何故!?」
「瓦礫に埋もれて動けなくなってる。俺たちだけじゃどうにもならない!」
校舎はすでにほぼ全壊。数人の大人たちを呼んだとしても手作業では助け出すのに何日も掛かるだろう。
それに、一般人は逃げるのに必死、兵士たちは恐らく銃を持った敵の軍隊と戦闘中。今は瓦礫をどかして人一人を助けている余裕はない。
「ここに来る途中会った兵士に、安全な避難所があるって聞いた。兄さんはそこにいるかもしれない!」
「いや違う! そんなところにいるならお前はとっくに能力で呼び出されてる! まだ危険な場所にいるか何かあったかだ!」
カレンの表情が歪んだ。
「兄さんが……?」
「ヘンゼルは今日どこかへ行くって言ってたか!?」
「今日はステラと出掛けるから、家に迎えに行くって……」
カレンは不安げな表情で答える。
「よし。ステラの家へ向かうぞ」
「わかった」
ステラの家は街の中心部から東の住宅地にある。
現在地からだと中央の大通りを渡り、北東の方向だ。
「うぅ……」
美優はまだ泣き続けている。
「美優、ヘンゼルを見つけ出せば母さんは助かる」
「……本当、ですか?」
「ああ。気持ちはわかるけど、頼むから今は声を抑えてくれ」
「わかりました……!」
美優はキッと真剣な表情を向けた。
三人で建物に隠れながら、大通りへ向かって走った。
大通りへ出る直前、銃撃戦が目に入った。
味方の兵士、魔術師たちが交戦しているが、銃で武装した敵兵の数が圧倒的に多く、不利な状況だ。
「カレン、敵の銃が見えたら片っ端から奪え!」
「了解!」
すぐにカレンは拳銃を召喚。
敵兵の一人が持っていた拳銃が消えた。
「よし。貸せ!」
幸介はカレンから拳銃を奪う。
まずは大通りに見える敵兵に向けて連続で撃つ。六人程を射殺した。
その間、カレンは次々と拳銃を召喚する。
敵兵たちが持っていた拳銃が消えていく。
「カレン! お前も撃て!」
カレンも無力化した敵兵たちへ拳銃を向け、すぐに撃ち始めた。
幸介とカレンは建物の陰から撃ち続け、味方の兵士達と挟み撃ちにした。
そして大通りにいた見える範囲の敵の部隊約二十人を射殺。敵は全員倒れた。
「こちらは制圧した。次に行くぞ」
味方の兵士たちは足早に去って行く。
幸介たちは大通りを渡り、東側エリアへと抜けた。そして裏通りを北へ走り、ステラの家へと向かった。
「コウスケ、敵が近付いてきてる。1ブロック先の建物の裏から出てくる。四人よ」
「そこに隠れろ!」
幸介たちは近くの建物の陰に隠れ、息を潜める。
銃を持った敵兵が四人、建物の裏から出てきた。
直後、幸介とカレンは建物の陰から上半身だけ出し、銃を連射。
敵兵四人はその場に倒れた。
少し違和感を感じつつ、銃を下ろした。
「おかしい」
「何が?」
幸介が呟くと、カレンが訊き返す。
「敵兵の動きが素人だ」
「どういうこと?」
「敵の軍隊の一部かもしくは全部が、銃を持っただけの一般人ってことだ」
戦況は圧倒的に敵が優勢。
街はほぼ壊滅している。
今だけでなく先程大通りで倒した敵兵の動きも、精錬された部隊のものではなかった。
学校の敷地内でうろうろしていた数十人の武装した敵も、恐らく精鋭ではなかったように思う。
幸介はしょっちゅう城の兵士たちとの訓練にも参加しているので、何となくわかる。
どうやら敵が優勢なのは兵の数が圧倒的に多いことや、単純に拳銃や機関銃、爆発物による戦闘力向上の為のようだ。
「とにかく行こう」
そう言って倒れた敵兵のそばを通り過ぎようとしたときだ。
「……!」
目を開いたまま絶命している敵兵を見て、また違和感を感じた。
(目が、赤い……!?)
充血しているのか、開いたままの敵兵の目が異常に赤いのだ。
思わずそばに倒れている別の敵兵に目を移す。
彼の目も異常に赤い。
得体の知れない悪寒が走った。
「お兄ちゃん……?」
「コウスケ、早く!」
「……ああ」
ステラの家へ向かう途中、何度か現れた敵兵を倒した。
敵兵は拳銃で武装していたが、やはり動きが素人だった。
幸介はその度に彼らの目に注意を向けた。
やはり彼らの目は充血しており、異常に赤かった。
ステラの家は半壊。近くで爆発物が使われたらしく、周辺一帯の建物が破壊されていた。
「ヘンゼル! ステラ!」
「兄さん! どこ!?」
瓦礫や倒れた家具を避けつつ、誰か居ないか探す。
倒れている大人の男女を発見した。ステラの両親だ。
幸介は二人の首元に順に手を当て、脈を測る。
「駄目だ。死んでる」
「……!」
カレンは不安げな表情になり、再び兄を探し始めた。
「兄さん!」
幸介と美優も瓦礫を退けながら二人の姿を探す。
「カレン! お前の能力で探せないのか!?」
「わからない……! 少し気配を感じるような気もするけど、はっきりしないの……!」
カレンは焦ったような表情でそう言った。
ふと割れた窓の外を見ると、倒れている銀髪の少年の姿が目に入った。
「カレン! 居たぞ!」
「どこ!?」
壊れた壁から外へ出て、ヘンゼルに駆け寄る。
「兄さん!」
「ヘンゼル! 生きてるか……!?」
「ヘンゼルさん!」
うつ伏せになっていたヘンゼルの体をカレンが抱き起こし、三人で呼び掛ける。
「……ぅ…………」
ヘンゼルが微かに声を発し、それを聞いたカレンはほっと安心したような表情になった。
「兄さん……良かった……まだ生きてる」
「お兄ちゃん、そこにも一人倒れてます!」
美優が指差した方を見ると、瓦礫の陰に少女が倒れていた。
「ステラ!」
幸介が駆け寄り、目を閉じたままのステラの首元に触れる。
「死んでる……くそっ……!」
「そんな……」
美優が口に手を当て、悲しげに涙を浮かべる。
「ステラ……」
カレンも言葉を失っている。
辺りからは銃撃音や爆発音がまだ鳴り続けている。ここに長居することは出来ない。
その上ヘンゼルも重傷だ。
「とにかくここから離れよう」
カレンと美優は静かに頷いた。
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