二人の男
東京都内にある高層ビル。だだっ広い高級感溢れる一室に、二人の男がいた。
一面がガラス張りの窓から外の景色を眺めているのは四十代くらいの男。髪は長くパーマがかかっており、独特の雰囲気を醸し出している。一見するとホームレスのような風貌。
もう一人は髪をオールバックにしており、左目の上に傷がある強面の男。高そうなスーツを着ており、ゆったりとソファに腰掛けている。
「では『記憶喪失事件』は真田昌彦の娘が絡んでいると?」
「ああ」
髪の長い男が外の景色を見下ろしたまま尋ねると、強面の男は上着のポケットから煙草の箱を取り出しながら頷く。
「久しぶりにやってきて何を言い出すかと思えば」
髪の長い男は呆れたように小さく溜め息を吐いた。
「十三、四年程前、『
「……真田昌彦の娘をそばに置いた者は、世界を支配できる力を持つ、だったか?」
髪の長い男は窓から離れ、強面の男が座るソファへゆっくりと近付いていく。
「まだほんの幼い子供の言うことだ。当時は信じられなかった。しかしその後、『占術師』はことごとく事象を言い当てた」
強面の男は口に咥えた煙草にライターで火をつける。そして、ふうと煙を吐き出した。
「しかし、真田昌彦の娘は母親と一緒に失踪したのでは?」
髪の長い男は強面の男の向かいのソファに腰を下ろした。
二人の間のテーブルには、バーボンのボトルと氷が入ったアイスペール、そしてグラスが二つ置いてある。
「そう。完全に消息不明で死亡も確認されていない」
「だから彼女が生きていて『記憶喪失事件』を起こしていると?」
「その通りだ」
「飛躍し過ぎていると思うが」
髪の長い男はソファに深く座り直し、ゆったりと足を組んだ。
「そう考える根拠はある」
「ほう。どんな?」
「まず『占術師』が以前誘拐されそうになった際、犯人たちが突然意識を失ったために助かったのは知っているだろう。犯人たちは全員記憶喪失になっていたそうだ」
「それは聞いている。当然『救済者』の仕業だろうな」
髪の長い男はテーブルのグラスを手に取り、置いてあった氷をトングでいくつか入れてバーボンを注ぐ。
「その後『救済者』に対して興味を示した彼女はある学校へ編入した。編入先の学校を決めたのも彼女自身だそうだ」
「彼女が『救済者』の正体を知っていて、近付いたと?」
「もしくはその学校の誰かだと知って探し出そうとしている」
強面の男はふうっと煙を吐き出すと、また煙草を口元に持っていく。
「なるほどな。それについて『占術師』は何と言っている?」
「知らないと言っているそうだ。何となくその学校を選んだだけだと」
「あの秘密主義女め」
髪の長い男は表情なく呟き、グラスに入れたバーボンを口に含む。
「真田昌彦の娘が生きていれば現在十五、六歳。ちょうど高校生だ」
「だが、『救済者』が彼の娘だと言う根拠にはなっていないだろう」
「失踪した真田昌彦の娘とその母親は誰も見つけることが出来なかった。つまり異世界に身を隠していた可能性がある」
「そして帰ってきた、か?」
髪の長い男は少し考えるような表情で黙り込んだ。
「『救済者』本人か、もしくはその近くに彼女がいると俺は見ている」
「お前の勘を否定は出来ないが……もし仮にそうだとしたら何だと?」
「探し出して手に入れる」
「随分執着しているな。そんなに必要か? 正義感ぶっているだけの能力者など放っておけばいいだろう」
「ただ犯罪者の記憶を消すだけの能力者ならいらないが、それ以上の能力かもしれない」
強面の男は短くなった煙草をテーブルの上の灰皿へ押し付けた。
「だが『救済者』と真田昌彦の娘が関係していなかったらどうする? 下手に手を出すと『占術師』の機嫌を損ねる」
「そうだとしても、『救済者』を手に入れるメリットがもう一つある」
「何だ?」
髪の長い男はまたグラスの酒を口に運びながら尋ねた。
「『救済者』の近くに『
「何……?」
髪の長い男は飲みかけていたグラスを止めた。
「当然の推理だろう」
「なるほど。確かにな」
男はもう一度グラスを口へ運ぶ。
「興味が出てきたか?」
「ああ、この上なくな。力づくでも『救済者』を捕まえろ」
髪の長い男は小さく笑みを浮かべた。
「では奴隷を使いたい」
「好きなだけ使えばいい。集めておくからしばらく待て」
「ああ」
強面の男もグラスの酒を手に取り、一口飲む。
グラスを置くと、煙草をもう一本口にしてライターで火をつけた。
「で、それはどこの学校だ?」
髪の長い男が尋ねる。
「私立倉科学園」
「真田昌彦の娘の名前は?」
強面の男は煙草の煙を吐いてから言う。
「確か、真田美優」
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