エピローグ

 久しぶりに手紙を書くよ。アヤノへ。

 この手紙が届くことは、たぶん一生ないのだろう。この古びたハードカバーに挟まり続けているだけなんだろう。それで構わないと思う。


 僕はまだ、生きているよ。今年で二十五になる。あれから色々なことがあって、死にたくなったこともあったけれど、終ぞ僕が死ぬことはなかった。それは、君と、それからもう一人の僕のおかげだ。

 生きていくことは虚しくて、だからみんな、生きる意味なんて下らないことを考え始める。そんなものが与えられているのは限られた天才だけで、大抵の人間には分かりやすい意味や価値は与えられない。だから必死になって探すけれど、そう簡単に見つかるものでもない。結局、どこかで妥協して生きていかなければならない。死ぬのが嫌ならね。

 僕は、一と零の境界にいた。僕が僕自身を見つめ直すことによってのみ、そこから逃れることができた。それは困難な事だったけれど、君たちのおかげで、どうにかなった。いまでも感謝してるよ。

 そうそう、文乃と結婚したんだ。子供はまだ出来てないけど、文乃が張り切ってるから、僕も頑張らないといけない。梨子や悠人とも、未だに連絡を取り合ってる。彼らは素晴らしい友人だ。

 君は、もう一人の僕のことを忘れられたかな?もう、寂しくないかな?きっと好きな人を見つけて、幸せになってくれよ。それが僕と、それから彼の願いだから。でも君は強い人だから、きっと大丈夫だと信じている。へんだな、一度も会ってないのに、それだけは自信をもって言えるんだ。だって、君は文乃だから。


 ずっと雨が降っているのだと思っていた。けれど、それは仕方の無いことではなかった。僕が、僕自身を閉じ込めるために降らせた雨だった。母の死はただのきっかけで、それをいいことに、僕は塞ぎ込んでいただけだ。


 また、どこかで会えたら。もちろん、そんなことは千番に一番でも在りえないと思うけれど、もし、そんなことがあったなら。

 今度は、直接お礼が言いたいな。

 またね。

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一と零の境界で 不朽林檎 @forget_me_not

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