第31話 令和元年5月1日(水)「令和最初の日」
令和最初の一日。予報では雨は午後からとあったのに、曇り空からポツポツと雨が落ちている。4月はなにかと休むことの多かった朝のジョギング。北関東の”じいじ”の家に来てからようやく再開したのに、昨日も雨で走れなかった。
このくらいなら平気かな。折角の新元号一日目だ。「行けるよね?」とお姉ちゃんに問い掛けると、「大丈夫でしょ」と返事があった。自宅にいる時は純ちゃんと一緒に走るけど、こちらではお姉ちゃんが付き合って走ってくれる。早起きするのが辛いと愚痴を零すものの、普段運動をしていないと言う割に息も上がらずに走る。わたしの走るペースが遅いせいもあるんだろうけど、わたしと違い体力があって羨ましい。
「令和かあ……」
新元号の発表を聞いた時も”じいじ”の家でだった。あの時は耳馴染みがなく、変な感じがした。でも、1ヶ月ですっかり聞き慣れた感じがする。
「でも、平成が終わっちゃうなんて、なんだか寂しいね」
「うん」
わたしの横を走りながら、お姉ちゃんが相づちをうってくれる。わたしもお姉ちゃんも平成生まれの平成育ち。きっと同じように感じているのだろう。
「夕べは日付変わるまで起きてたの?」
「LINEしてた。友だちみんな起きてたかな」
「そうなんだ」
わたしはさっさと寝てしまった。純ちゃんもこういうことに興味ないだろうし、そこまで盛り上がるものだと思わなかった。
「そういえば、高校、どう?」
お姉ちゃんはこの4月から高校生になった。新しい環境に馴染むための大事な時期なのに、家ではわたしのおたふく風邪やお祖母ちゃんの葬儀など色々とあって大変だったと思う。
「うーん、中学とはだいぶ違う感じもするけど、もう慣れた」
「友だちはちゃんとできた?」
わたしが笑って聞くと、「同中の子が多いから」と答えた後、「新しい友だちもできたし、ヒナに心配されるほどじゃない」と続けた。
それはなによりと、ふざけて言うと、「ヒナはどうなの? 学校」と少し心配そうに聞かれた。
「あたし? あたしは大丈夫」
自信を持って答える。休みは多かったけど、対人関係に不安はない。一番の問題は勉強の遅れだった。それもここ数日で数学以外は目処が立った。数学は……これは今に始まった話ではないので、長期的な解決の道を探していかないと。
「あ、でも、ひとり、友だちになりたい子がいて、ノートを貸してくれた日野さんなんだけど、すれ違いばっかりであんまりお話できてないの」
「珍しいね、ヒナにしては」
「これだけ色々あるとね……。連休が明けたら……」
連休が明けたら、わたしの全力を持って友だちになる。ちゃんと連絡先を交換し、できれば名前で呼び合えるくらいになりたい。令和最初の日に立てた、令和最初の目標であり願い。わたしは右手をギュッと握り締め、決意を込めた。
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