第30話 平成31年4月30日(火)「平成最後の日」
平成最後の日。そう言われてもピンとこない。元号が変わったって、生活に何か変化があるわけじゃない、と思う。
だから、今日も平常運転だ。朝5時に起床し、ジョギング、朝の稽古。帰ったらシャワーを浴びて、朝食。学校が休みだから、その後は掃除洗濯お買い物。昼食を取ったら、午後はのんびり読書の時間に充てる予定。朝の母からのメモに今日は夕食までに帰れると書かれてあったので、いつもより腕によりをかけて夕食作りに勤しむことになるだろう。夕食後は軽く身体を動かして、お風呂、就寝という流れだ。
先日、折角の休みなんだからと、母から地方の仕事に旅行気分で付き合わないかと誘われた。私はあっさり断った。生活のリズムが崩れることが苦手だし、それ以上に興味のままに行動してしまう母に振り回されることが分かっているからだ。母のことは大好きだけど、今の距離感くらいが丁度良い。
そろそろ夕食の準備を始めようかと思っていた時、スマホに着信があった。母からだ。悪い予感というより、過去の経験からほぼ確実に夕食のキャンセルの連絡だろう。
「もしもし」
「可恋ちゃん、ごめん」
「いいよ、仕事なんでしょ?」
「えーっと、違うのよ。夕食は帰って食べるんだけど……」
珍しく母が言い淀んでいる。
「今日はひとり、お客さんを連れて行くから」
「お客さん?」
これは更に珍しい。いくつかの理由から母は仕事関係の知り合いを私に会わせることをしない。
「ゼミの子なんだけどね。女の子。もしかしたら、何日か泊めることになると思う」
「わかった。……着替えや洗面用具を用意しておく?」
「そうね。助かるわ」
その子は私より少し小柄で、普通の体型だと教えてくれる。
「あとね、その子、福田さんって言うんだけど、左手の小指を骨折してるのよ。病院に行って治療はしてもらったんだけど」
私自身は骨折の経験はない。しかし、大阪にいた頃は道場でそういったケガの話はよく聞いた。実際に骨折する場面も見たことがある。生活する上でかなり不便だろう。とりあえず、気を付けることやあったら便利なものがあれば教えて欲しいと師範代にメールを入れておく。
今日掃除したばかりの客間を点検する。ここに引っ越して来てから初めて使うことになる。特に問題はなさそう。私は買うべきものを頭の中にメモしながら買い物に出掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます