第13話 平成31年4月13日(土)「私の一日」

 目覚ましのベルが鳴る。その音が聞こえるか聞こえないかのタイミングで止める。今朝はほんの少し遅かったかもしれない。朝5時。深呼吸をして目を閉じる。身体の隅々まで神経を行き届かせる。毎朝の儀式。どこにも異常ない? 大丈夫。一日の始まりだ。


 ベッドから起き上がる。一度、伸びをすると、毎朝のルーティンを開始する。顔を洗い、着替えて、軽くウォーミングアップ。運動量は軽めだけど、丁寧にひとつひとつの動きに集中する。


 外へ出る。朝はまだ寒い。まずはランニングだ。走るとすぐに身体が暖まり、冷たい風が心地よく感じる。トレーニングのためというより、この後の稽古に集中するために走っている。自分のメンタルが浮上してくるのを感じる。病気で寝込むことが多いだけに、こうして動けることに喜びを感じる。


 通っている空手道場に着く頃にはやる気に満ち溢れている。ある種の万能感。今ならなんでもできそうだ。すぐに道着に着替える。気持ちが引き締まり、空手以外のことは頭の中から締め出される。今日の稽古でやるべきことを整理する。1秒も無駄にしたくない。朝6時。稽古の始まりだ。


 わずか1時間の稽古。集中しているので、あっという間に感じる。しかし、肉体的にも精神的にもかなりの疲労がある。それだけ充実した稽古ができたということだ。私は他の人たちに挨拶してすぐさま帰宅する。本当は後片付けや色々な雑用があるのだが、免除してもらっている。


 ジョギングで家まで帰ると、まずはシャワー。これでようやく空手モードから普段のモードに切り替わる。朝食はパンをメインにサラダなど。パン食は母の好み。その母は、私が稽古に行った後に起きて、私が戻る前に仕事に出掛ける。今年度からは東京の大学で教えている。それだけでなく、研究、学会、メディア出演、執筆、講演等とにかく忙しい人だ。仕事が生きがいである母を私は尊敬している。


 朝食の時、母の手書きのメモが食卓に置かれている。今日のメモには、明日は一日家にいると書かれていた。執筆の仕事があるから、だけど。それでも私の心は浮き立つ。午前中は師範代から稽古の手伝いを頼まれている。午後は少しは一緒にいられるだろうか。


 朝食を終えると、掃除と洗濯。今日は土曜日で学校が休みなので、普段ロボット任せの掃除をきっちりとやる。自室、ダイニング、キッチン、玄関、浴室などテキパキとこなす。すると、もうお昼だ。


 夕べの残り物に、栄養のバランスを考えて数品付け加える。料理は一通りできるが自分の分だけだと作りがいがない。献立を考えるのも面倒なので、似たようなものが続いてしまう。カロリーも計算しているが、食事の機能面ばかり見てしまうと、作ることも食べることも作業のように感じてしまう。悩ましいところだ。家事の中で献立を考えるのがいちばん嫌いかも。


 午後は予定通り買い物に出掛ける。身長が伸びたので、春から初夏にかけて着る服が足りない。駅前のショッピングモールを見て回る。ファッション性より動きやすさを重視してしまうので、きっと日々木さんからダメ出しされるだろう。そんなことを思ってしまう。日々木さんは昨日学校を休んだけど、もう治ったのかな。連絡先を交換していないので、聞くこともできない。


 結局、あちこちの店を見て回ってもののピンと来るものがなくて、小物をいくつか買っただけで終わり。明日の午後、母と買い物に行くというのも魅力的なプランだけど、時間あるかな。


 書店で本を物色した後、夕食のためにスーパーで買い物。明日は母がいるので、昼食も腕によりを掛けて作りたい。ちょっと買い過ぎて荷物が重くなった。鍛えているので問題はない。けど、自転車、あった方がいいかなあ。


 帰宅すると、着替えて、夕食作り。とはいえ、半分くらいは買ってきた惣菜がベース。一人分だけだと、全部作るのは効率が悪い。食後の後片付けを終えると、トレーニングタイム。日によって筋トレ、イメージトレーニング、ストレッチなど。今日はストレッチなので買ってきた本を読みながら体を動かす。


 宿題をさっと終わらせると、お風呂。一日の終わりを感じる。私の髪はショートなので手入れが楽だ。日々木さんのあのロングヘアは大変そうだけど、すごく綺麗なんだよね。憧れではあるけど、自分には無理。


 眠くなってきた。夜9時、就寝。母はだいたい10時過ぎに帰ってくるので、ほとんど顔を合わせることはない。寂しくないと言えば嘘になる。でも、明日は顔を見れるだろう。そう思うと、ベッドの中で頬が緩んだ。

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