第12話 平成31年4月12日(金)「最悪のクラス」

 憂鬱な気分で校庭の桜を眺める。冬に逆戻りしたかのような寒気は去り、再び春の陽気が戻ってきた。しかし、私の心は沈んだままだ。


 原因ははっきりしている。クラス替えだ。こればかりは自分ではどうしようもない。


 私は千草春菜。1年の時は3組で、2年になって1組になった。仲の良かった子たちはみんな4組になり、私だけが別のクラスになった。それだけでも最悪なのに、1年3組から同じクラスになった女子は麓だけだった。


 麓たか良は問題児として知られている。1年の時、クラスメイトをいじめて不登校に追い込んだ。私は学級委員として担任にいじめを訴えたが、いじめられた子が不登校になってようやく先生たちは動き出した。その子は夏休みに転校した。麓たちのグループは学校では我が物顔で振る舞い、私たちは堪え忍ぶしかできなかった。それでも他の子と助け合ってなんとか乗り切った。


 麓はヤバい。男女関係なく、暴力を振るう。たちが悪く、相手の嫌がることを執拗にやってくる。先生に目を付けられた2学期以降は少しマシになったが、バレないようにするのもうまいし、証拠も残さない。頭が回る。ヤバい連中と付き合っているという噂もある。私も何度か泣かされた。地獄のような1年間だった。


 おそらく麓対策でこのクラス替えが行われたのだろう。麓と仲の良かった連中はバラバラのクラスになっている。腕力で麓に勝てそうな安藤さんもいる。クラス替えから1週間。今のところ麓はおとなしい。


 また1年間、麓と一緒になったことの絶望感。一方で、共に麓から耐えてきた友だちたちに対しては疎外感を感じている。毎日LINEでやりとりしていたのに、クラスが別れ、話題についていけなくなってきた。なんで私だけこんな貧乏くじを引いたのか。


 休み時間、騒ぐ子たちの嬌声にいらだつ。教室の真ん中で松田さんたちのグループが大声で話している。今日は日々木さんが休んでいるので、松田さんがこのクラスの女王のように見えてしまう。


「どうして私が学級委員じゃないんですか?」


 昨日、私は担任の小野田先生に尋ねた。別に学級委員をやりたい訳じゃない。でも、私が学級委員でないのなら、どうしてこのクラスに私が入れられたのかと思ってしまう。


「成績で選んだ」


 担任の答えはシンプルだった。


「みんなで学級委員をサポートしてくれ」


「・・・・・・わかりました」


 厳しいことで知られる小野田先生だが、何を考えているのかさっぱり分からない。学級委員に指名された日野さんは休んでばかりらしい。実際、昨日も休んでいた。そんな子で勤まるのか。ただの学級委員ならまだしも、あの麓を相手に。


 心配なのは日々木さんだ。いつも安藤さんが横にいるけど、彼女がいじめに遭うのを見るのは耐えられない。


 そう、私は日々木さんが好きだ。憧れといっていい。妖精と見まごうばかりの愛らしい容姿も素敵だが、誰とでも分け隔てなく接する優しいところに惹かれる。いつも笑みを浮かべ、気さくに話しかけてくれる。クラスが違ったので話す機会は多くはなかったけど、何度か話すうちに私のアイドルになった。文化祭の時に頼んで撮ってもらったツーショット写真は今も私の宝物だ。


 学級委員になりたいと思ったのも、日々木さんと話す機会が増えるんじゃないかと思ったからだ。日々木さんと話している日野さんを見ていてそう思った。もちろん、学級委員になったから日々木さんと仲良くなれると決まった訳じゃない。それは理解している。たまたま席が近いからあの二人は仲良く話しているだけだろう。


 今回のクラス替えで日々木さんと同じクラスになれたことに私は喜んだ。友だちと離れ離れになったり、麓と同じクラスになったりしたことより、大きな出来事だった。


 でも、同じクラスだとしても・・・・・・。日々木さんと日野さんが一緒にいるところを見てしまうと、私じゃ釣り合わないように思ってしまう。


「最悪のクラス」


 私は小声でつぶやく。心の中のどす黒い部分に気付かされて、私はぐっと奥歯を噛み締めた。

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