第8話 平成31年4月8日(月)「新しいクラス」
「高木さんは知ってた?」
「知ってる知ってる。ネットで見たよー」
「すごいよねー」
休み時間のおしゃべり。同じクラスの仲の良かった子とは違うクラスになったけど、同じ部活の子と一緒のクラスになったのは幸いだった。森尾さんと伊東さん。美術部に所属するいわゆるオタク仲間。これまで特に親しかった訳じゃないものの、イケてない者同士、肩を寄せ合って過ごしていかなくちゃね。
このクラスは強烈な子が多い。男子は普通だけど、女子に。
1年の時から、全校で知らない人はいないんじゃないかと言われた日々木さん。超絶美少女。二次元の住人かと思ってしまうような子。マンガだと学園のアイドルとかそんな形容詞が付くはず。
その日々木さんと一緒にいる安藤さんも目立つ。長身でがっちりした体型。ベリーショートの髪。下手な男子より格好いい。無口だけど、日々木さんというお姫様を守るナイトのよう。
松田さんはクラスの中心って感じの子で、ギャルという言葉がしっくり来る。取り巻きの子たちと今も盛り上がっている。日々木さんもだけど、松田さんたちもみんなオシャレだ。普通以下のわたしたちとは天地ほどの差がある。なんでこんなに違っちゃうのかと思ってしまうほど。うちらにはオシャレよりも優先するものがあったりするから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。
もうひとり、日野さん。黒髪のショートヘアで、優等生って感じ。同じクラスだったけど、話す機会はなかった。3学期に転校してきて、休んでばかりいた子。美形だしスタイル良いしで男子にはモテそう。
わたしはおしゃべりしながら教室の中を観察する。これは習性と言っていい。マンガのネタ探しって訳でもないけど、人を観察することはクリエイティブな着想につながるんじゃないかな。
クラス替えの直後の割りには、女子はもうグループができあがっている感じ。ひとりって子もいるけど、松田さんとこ、日々木さんとこ、うちら、あと窓際で仲良くしている二人組。クラス内ヒエラルキーってのがあるのだとすれば、普通なら松田さんが頂点だろうけど、日々木さんが別格って感じでいるからなあ。日々木さんは日野さんと親しげに話している。わたしの目はそこに釘付けって感じになっていた。
「こんちわー」
放課後、みんなが帰ろうとしている中、わたしは日々木さんと日野さんに声を掛けた。自称、社交性のあるオタクとしては、このふたりとは仲良くなっておきたい。
「こんちわー」
日々木さんは笑顔で挨拶を返してくれる。
「こんにちは」
日野さんは挨拶したあと、こちらをじっと見た。なにか威圧感みたいなものがあって、ちょっと怖い。
「高木すみれです。よろしくですー」
物怖じせずに、軽い口調で自己紹介。
「日々木陽稲です。お見知りおきを」
日々木さんの笑顔が眩しい。
「高木さん、同じクラスでしたよね」
覚えていてくれたのかとちょっと驚いた。1度もしゃべったことなかったのに。
「です、です」
「日野です。あらためてよろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
真面目に頭を下げられて、こちらもつい頭を下げる。それをニコニコと笑顔で日々木さんが見ている。
「堅いよねー。敬語じゃなくて、もっと砕けた方がいいんじゃない?」
「あー、クセというか、つい、使っちゃうので」
非オタ相手だと、敬語を使ってしまう悪いクセ。どうしても出てしまうんだよー。
「高木さん」
日野さんは変わらず真剣な表情でわたしの名前を呼んだ。
「困った時は助けてもらっていいですか?」
「え?」
「学級委員の仕事」
「あ、はい、もちろん」
そう言えば、朝のホームルームで担任から言われていた。転校早々に学級委員なんて大変そうだと思ったけど・・・・・・。
「ひどいよねー、小野田先生」
日々木さんはそう言って頬を膨らます。
「お考えがあるのでしょう」
日野さんが日々木さんに微笑んだ。なんだか尊い。写真に撮って額に入れて飾りたいほどだ。帰ったら速攻で、このシーンをスケッチブックに描こうと堅く心に誓った。
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