第3話

第二章 人の姿をした鬼


「はあ、はあ、はあ、はっ……」

 林の中を少年が息を切らしながら走っている。

 白いシャツ、デニムパンツといった出で立ちだが、どちらもサイズが大きい。

 そしてひどくボロボロの身なりである。ぶかぶかの服を身につける少年の背中には、中身のぎっしり詰まってるリュック。

 走るにはあまりに不向きなその状態のまま、それでも少年はなおも追われるように走る。

 やがて行く手に光が見える。

 頭上の木々があたりを薄暗くする中で、目の前数十メートルの所に暗闇を突き破る光があった。あそこまで行けばこの林から抜け出すことができる。

 それを一心に目指しいっそう足に力を込める。

「はあ、はあ、はあ――!」

 暗闇の中を抜け、にわかに強い輝きに照らされる。

 一瞬目眩のようなものを覚えたけれど、だんだん目も慣れてくると、なんてことはない、そこは光に満ちた美しい浜辺だった。

 青い空、白い砂浜。穏やかに寄せては返す波の音。

 しかし、少年にはそれを楽しむ余裕がない。

 走りにくい砂浜に足をとられ、よろけながらも走り続けて海を目指す。

 海の中まで入ってしまえば、さすがに「やつら」とて追ってこられまい。

 ――と、思ったのだが。

「――くっそ!」

 いきなり目の前に狼が現れる。

 その足の速さで追いつかれ、先回りをされてしまったのだ。

 やむなく立ち止まる。すると見る間に囲まれる。包囲網がじりじりと狭まっていく。

「しっし! あっちいけっての!」

 少年は叫びながら拾ってきた木の枝を必死に振り回す。けれどもほとんど効果はない。

 狼たちは少年が弱るのを待つように、嫌味たらしく少年の周りをぐるぐると周りながら威圧するようにときどき低くうなってみせた。

「……く」

 よもや万策尽きた。

 誰がどう見ても、食われてしまうのは時間の問題だった。

 ――もうオイラもお終いだ。

 悔しさのあまり歯ぎしりをしながら、けれど、棒を振り回すのも馬鹿らしくなってどうしようもなく諦めそうになった、そのとき――。

 遠くからものすごい風切り音をあげて巨大なものが飛んでくる。

「な――!?」

 そして、それが狼の一匹に突き刺さる。

 断末魔の声をあげることすらぜきずに、一瞬で絶命。

 飛んできたのは、岩石から切り出したような無骨な大剣だった。

 それに驚き、しかし仲間をやられた狼たちの注意は大剣の飛んできた方へとそれる。そのまま狼の群れは復讐心を燃やしながら仇討ちをするべく林の中に飛びこんでいく。

「きゃうん!!」

 けれど直後に響いたのは、その狼たちの悲鳴だった。その後も次々に聞こえてくる。

 ひとつ、ふたつ、みっつと断末魔が続いたと思うと、やがてあたりが急にしんとなった。やがて林の中から一匹の狼の死骸が少年のもとまでふっ飛ばされたきた。

「こりゃいったい何が起こってんだよ……」

 呆気にとられて驚いていると、今度は林の中からひとりの少女が歩いて出てきた。

 しかも、ついさっき息絶えたばかりの狼を背負って。

 その身体が血だらけなのは狼にやられたケガなのか、それとも浴びた返り血なのか。

 ともかく少女は少年には目もくれずてくてく歩いてきて、最初に仕留めた狼から大剣を抜き取る。

 まことに信じがたい話だけれど、どうやらこの少女が大剣の持ち主であるらしい。

「……あ、あんたが助けてくれたのかい? その、ありがとよ」

 動揺しながらも少年は一応お礼を言ってみる。

「…………」

 しかし、無視される。

 少女は少年のことなど目もくれず、担いでいた狼をおろすと、さっきまで大剣が刺さっていた狼に鼻を近づける。

「すんすん……これがいちばんおいしそう」

 じゅるり、と涎をたらしながら食材の吟味を終える。

「あのさ、あんたケガは大丈夫なの――」

 そう言いながら少女を覗き込んだとき、少年は見つけたのだった。

 毛皮がついたままの狼にかぶりついて歯で毛皮を剥がし、そのままがぶがぶもぐもぐ食事をしているあどけない少女。

 ――その左手の甲についている鬼印に。


「……まだ?」

 ぱきぱきと枝の爆ぜる音のする焚き火を見つめながら、もう何十回目になるのだろう、少女がたずねる。

 少年は「もうちょいだって」と答える。

 少年は今、火を焚いて狼の肉を焼いているのだった。

 自分も腹が減っていたので狼の肉を分けてもらい、それを焼くついでに助けてくれた恩人にも生で食べるよりも美味しい焼き肉をご馳走しようという考えである。

「よし、これくらいで十分だろ」

 少年が火から肉を取り出すと、少女はしゅぱんと奪い取って、もう食らいついている。

「あ。待って。ちょい待ってって。もうひと仕上げあるんだよ」

 少年はせっかちで食いしん坊な少女をとめる。

「……いじわる」

 すると少女は無表情のまま宝石のような大きく紅い瞳で抗議してくる。

「ごめんごめん。でもこうすると美味しくなるんだぜ」

 そう言うと、取り出した香辛料をぱらぱらかける。

「お待たせ。もう食っていいよ」

 手渡すと、やはり待ってましたといわんばかりにむしゃむしゃかぶりつく。

「…………」

「どうだい?」

 その様子を見守りながらたずねてみる。

「これもおいしい」

「だろ!」

 その感想を聞くことができると少年まで嬉しくなる。

 なにせ貴重な、なけなしの香辛料をわざわざ他人のために使ったのだ。

「でも、そのままでもおいしい」

 ……ただ、少女は割と歯に衣きせない素直な人となりでもあるらしかった。

「あ、あははは。……そうかい」

 どこまでも野性味ある振る舞いをする少女なのだった。

 悪気がないのは分かるけれども、いくらか落胆してしまう少年。しかしすぐに立ち直る。

「まあ、いいや。さっきは助けてくれてあんがとな。オイラの名前はセンリ。雉間千里っていうんだ」

 ひとまずの礼儀として、一応自分から名乗ってみる。

「……?うん」

 首をかしげながら少女は曖昧に頷く。名乗り合うのに慣れていない様子だった。

「あんたの名前は?」

「おにぎり」

「いや、それは職業だろ」

「……?でもみんなおにぎりってよぶ」

「んー鬼斬ってのはもしかして名前ないのかね。……まあいいや」

 鬼斬という名くらいは聞いたことがあるものの、それにしても分からないことが多い。

 雉間は、それからまじまじと少女を見つめた。

 この少女、どう見ても自分と同じか少し年下なくらいの見た目をしている。それなのに、鬼斬に生まれた者はこんな幼少のころから鬼と殺し合いをさせられるのだろうか。

「傷はもう大丈夫なのか?」

「へいき。鬼よりずっとよわい」

 少女は気にしていない口ぶりで答える。実際、傷口もふさがりかけていた。

たしかにさっきの狼との戦いからしても、ただの人間ではなさそうだった。

この分で行くとさっきの一件も助けてくれたというより、お腹が減っているときに都合良く餌がうろついていたから狩りをした、くらいの感覚なのかも知れない。

「へえ、すげえもんだな。オイラ鬼斬なんて初めて会ったぜ」

「それがふつう。おにぎりは鬼がいるところにしかいないから」

「それもそうか。でも、オイラもそうだけどその年で一人旅してちゃ色々困ることとかあるんじゃないか」

「……?さいしょからひとり」

 なんの屈託もなく、少女はごく自然とそう口にする。

それで少年もはっとした。

 雉間も、身寄りのない子どもだったのだ。

 大和の村はどこも閉塞的なところばかりで誰もが自分たちのその日の暮らしで手一杯だから、孤児を引き取ってくれる場所もなく、そんな奇特な人もめったにいない。

 そこでこうしてしかたなく、生きるために一人旅をしているのだった。

 雉間は急に少女に親近感を覚えた。

「なあ、なんか手伝えることないか?命救ってもらった礼にゃ足りないかもしんねえけど、オイラも一人で生きてきたから村のガキんちょよりかはずっと器用だぜ」

「てつだい?」

「そうそう」

「…………あ」

 少女はなにか思い出したらしく、脇差を腰から外した。それを雉間に差し出す。

「といで」

 鞘を払ってみると、血油やらなんやらで見れたものではない有様だった。

 これってつまり、それだけの生き物を殺してきたってことだよな? どんな生活してりゃこんなにボロボロになんだっての。

「うひゃあ、これはひでえ」

 刃こぼれもすごかった。

 刀の善し悪しは分からないけれど、これでは斬れるものも斬れないだろう。

 そして、そこに混じってるのは狼の血だけではない。鬼の血も混じっているのだ。

 そう思うといくらか恐ろしくないこともなかったが、それでも雉間には誰が流したものだろうと、血はただの血にすぎないと割り切るシビアなところもあった。

「元通りにはできなかもしんないけど、まあやるだけやってみるよ」

 幸い砥石は持っている。研ぐための川の水もまだいくらか残っている。

 本当は飲み水ように取っておきたかったのだけれど、まあなんとかなるだろう。

 ……やがて雉間は言ったとおりの器用さでまもなく脇差を研ぎ終わった。

「はいよ。刀を研いだことはないけど、さすがに元よりかはいくらかマシになったよ」

 少女はそれを受け取ると、慣れた手つきで鞘を払う。

「……おお」

 刀が反射する日差しが少女の顔を明るく照らす。そのせいだろうか、生まれて初めて刀を見たかのように少年の仕事ぶりに感動しているその表情が、ほんの少しだけ明るく見えた。

 そうして、確認がすむとまた鞘に戻し、腰に帯びる。

 それからボロ布の中から何か取りだして、

「これ」

 と雉間に手渡した。

「くれるの?」

「あげる」

「これは……角?」

 受け取ったそれは先の鋭く尖った、骨のような素材でできたものだった。

 牛の角にしては大きすぎるし、象の牙にしては小さすぎる。

「うん」

「ちなみに何の角?」

「鬼」

「――ちょっ!!」

 慌てて取り落としそうになる。角!? 鬼の角!?

「なんでまたそんなものをオイラに渡すのさ!?」

「……いらない?」

「いや、まあ……くれるんならもらっとこうかな」

 損得にはうるさい方なので、もらえるものはなんでももらいたい性質なのだった。そういうわけで受け取った鬼の角のしまいこむ雉間。

 ただ、やっぱりいくらか恐ろしい部分もあって、とんでもねえもんもらっちゃったなあ。とか、あれが鬼斬式のお礼の仕方なんだろうか。とかいうことをつらつらと考えていた。

 ……まさか呪いとかそういうのないよな?

 そんな雉間の不安をよそに、少女は上を向いて、

「……えーと、ごめんなさい?」

 いきなり謝罪を口にした。

「へ?」

「こんばんは……?つまらないものですが?」

 どうやら挨拶らしきものを思いつく限りあげているようだ。

「あー、もしかして『ありがとう』?」

「ありがつう……?」

「そ、なにかしてもらったときに言うのはね」

 雉間がそう教えると、素直な少女は腑に落ちた顔をして、

「ありがつ」

 ぺこり、とおかっぱ頭を下げる。切りそろえた前髪がさらりと揺れる。

 なんだよ。

 何考えてるか分かんなくてちょっと変なやつだと思っちゃったけど、結構可愛いところあるじゃん。

 なんだか妹分ができたみたいだ。

 雉間は心がほっこりして、柄にもなく嬉しさを覚えた。

「ははは、いいよ。助けてもらったのはお互い様だし。あんたこれからどうするの?」

 ――すると。

「鬼を殺す」

 ついさっき可愛げがあると思った瞬間これである。

 せっかくだから楽しく世間話にでも花を咲かせようと思ったのだけれど、まあ、住む世界が違うわけだから、いろいろすれ違いもあるだろう。

「ま、まあそうだよな。そういう仕事だもんな」

 これが少女にとっての当たり前なのだろう。そんなことを思う。

「どこに行くとかってあてとかはあんの?」

「ない」

「ってーと、匂いとかで居場所を探すみたいな?」

「そういうときもある。ひとにおしえてもらうときもある」

「噂をたよりにってことか」

 思っていたよりかはあてずっぽうというか、行き当たりばったりな仕事らしい。

「なにかしってる?」

「本当の話か知らないけど、風の便りならいくらか。ここから西に少し行ったなんとかって村のはずれには鬼がひとりで住んでるんだと。なんでもそいつは鬼なのに人の姿をしてるってんだから――。あ、おい」

 少年が言い終わらないうちから、少女はもう立ち上がっている。

 慌ててそれを呼び止めると、少女は振り返って、

「鬼を殺しにいく」

 とだけ言う。

「でもそっち東だぜ」

「……?にしってどこ」

 少女はあどけなく首をかしげる。

「……はあ。よくそんなんで今までなんとかなってきたな」

 方向感覚のしっかりした少年からはまったく考えられない話である。

 サバイバル能力が高いからなんだろうけどさ。

「ついてきな。途中までオイラが案内するよ」

 ここで会ったのも何かの縁だろう。少年も立ち上がって、ズボンの砂を払う。

「いいの?」

「かまやしないさ。どうせオイラもあてなんざないし、用心棒がいりゃあ心強いや」

 それに、たまにゃ誰かと旅すんのも悪くはねえかな。

 すると、少年の申し出を受けた少女が、

「……ありがつ」

 慣れない口調でお礼を口にするのだった。

「お前それ――」

 正しくは『ありがとう』なんだけど……

「……まあ、いいか」

 そっちの方が可愛いし。


 遠くに村が見える。

 それを山あいから雉間と少女が見下ろしている。

 あの村のはずれに人の姿をした鬼とやらが住んでいるらしい。

「なあ。オイラもついていこうか」

「……?なんで」

「なんかあんただけだと危なっかしいからさ」

 雉間が頭の後ろで手を組みながら答える。

 けれど。

「やめたほうがいい」

 少女は珍しく自分から人に意見をした。

「なんでさ?」

「いし、なげられる」

 少女は平然と答える。多くを語ることはしないけれど、その言葉だけでも十分だった。

 穢賊――そう呼ばれる者への迫害を知らない雉間ではなかった。

 子どもではあったが、子どもだからこそ世の中の残酷さを曇らされない純粋な目で見てきた。石を投げられたと少女は言うけれど、それも一度や二度ではないだろう。きっとそれ以外のひどいこともたくさんされてきたに違いない。

 それなのに、少女の瞳からは何も読み取れない。

 自分が理不尽な扱いを受けることに対する怒りも悲しみもなにも。

 それが当たり前と教え込まれて育ったからなのか、鬼斬というのはみんなこうも感情が希薄なのか。

 それとも――「鬼よりよわいからへいき」なだけなのか。

「そう、か。じゃあ、きをつけてな」

 それが雉間に言える精一杯の言葉だった。

 他にどんな言葉をかければいいか分からなかったし、あまり自分の得にならないことをするつもりもなかった。

 それでも。

「死ぬなよ。あんた、いいやつだからさ。縁が会ったらまた会おうやい」

 それだけ言い残して雉間は去って行く。

 情けはあれど、甘えは捨てて生きてきたのだ。

「…………」

 今まで会ったどの人間とも違う反応を自分に示した雉間の後ろ姿を、少女は不思議そうな表情で見送っていた。

 それは、ほんの数秒だけだったが確かに胸のあたりでなにかが動いた気がした。

 ただ、そういう感情もなすべき仕事の前に忘れ去られる。

「鬼、どこだろう」

 そして最後にはいつもの調子に戻り「しごと」のために山を下り始めた。


「お前、見ねえ顔だな。なんだ?なんか変なもん背負いやがって」

 村の門番をつとめる衛士が、少女に対し油断も容赦もない口ぶりでたずねる。

「おにぎり」

「あ?『おむすび』だ?」

「ちがう。わたしはおにぎり。鬼はどこ?」

「はあ?おにぎりって、お前まさか『あの』鬼斬ってのかよ!」

 少女の正体を知るやいなや男の顔に驚愕と動揺が走る。

 鬼斬というのは、どの村に現れても物議を醸す。

 具体的に言うと存在そのものが不吉の予兆とでもいわんばかりの忌まれ方だった。というのも、鬼が現れたとき、たいていの人間はそれをどうすることもできないので、鬼斬の到着を待つほかない。鬼斬も鬼斬で、鬼を殺すためだけに生き、大和をさすらっているわけだから、自然と人々の間では鬼と鬼斬のイメージが結びつけられやすい。

 鬼がいるからこそ、そこに鬼斬が現れて退治するのだけれども、ときにそれが逆転して、蒙昧な人々の中には鬼斬が鬼を引き寄せたと的外れな勘違いを固く信じるものもあった。

 少なくとも今回は、噂が先にあったからこそ、それを討伐しに来たにもかかわらず。

「そう。ここにいる鬼を殺しにきた」

 それでも少女は態度を変えることがない。

「おいおいおい、よしてくれよ。冗談だろ!んなもん村の中に入れちまったらオレがどやされちまうぜ!」

「…………」

 意味のわからない男の威勢、少女は相変わらずそれすらも意に介さない。

「鬼はどこ」

 何度も同じことを聞いているのに全く答えが返ってこないので、何度も同じことを言うしかなかった。

「ああ、鬼?鬼ならあそこの村はずれの山にある一軒家に住んでるってぇ話だけどよ」

「そう」

 少女がずんずん歩き出すと、

「おい嬢ちゃんちょっと待ちなよ!」

「なに?」

「だから言ったろ?嬢ちゃんみたいなのをぉ、村ん中に入れちゃうとぉ、オレがあとからみんなに怒られちゃうの。人の話はちゃんと聞かなきゃいけないぜ?」

「…………」

「分かったら、村の外をぐるっと回り込んでいくこったな」

「……わかった」

 踵を返し、回り道して歩きながら少女は思った。

「はなす」というのはこの世で一番面倒くさいことだ、と。

 それに比べると鬼を淡々と殺している方が、よっぽど単純で分かりやすいからいい。


 言われたとおりに遠回りをして、村のはずれの山の中腹に辿り着く。

 そこで村人の言った一軒家、もとい洋館を見つけた。

「…………?」

 その洋館の前で少女は首をかしげる。

 こんなところに本当に鬼がいるんだろうか。

 鬼というものは、基本的に家に住むことはない。

 あったとしても洞穴とか洞窟とか、そう言った場所の方を好む。

 まず、体格からして人間とは規格が違うので、家などという小さな場所に収まるのに難儀する。次に、雨風に打たれても風邪を引くほどヤワではないし、人間のように家族をつくり団らんをするということなど、なおさらありえない。

 こんないかにも人間の住みそうな窮屈で狭い場所を、あえて鬼が選ぶというんだろうか。「……」

 鬼の基本的な原理は獣のそれとかわらないはずだ。

 野性的で本能的で――いや、そういうと誤りがあるかもしれない。

 正しく言い直すのなら、鬼の場合は野生動物よりも感情的で、人間への敵対心が強い。

 どうしてなのかは分からないが、とにかく理由のない執着とでも言いたいような行動が多々見受けられる。

 ゆえに相手を食らうためでもなく、身を守るためではない殺しも平気で行う。

 ただ単に快楽や優越感を得ようとしているのかもしれない。

 もっとも、そんなことは少女にとってはどうでもいいことなのだけれど。

 少女にとって大切なのは、ただ鬼を殺すことだけなのだから。

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