言葉

 苦し紛れに言葉を吐き出す。空っぽになった身体に思い切り手を突っ込んで、ほとんど無色透明の意味を成さない言葉を引き揚げる。

 酒を飲みすぎたあとに胃を空にする感覚と似ている。もう吐き出すものは何もないというのに、早く楽になりたくて何かを出そうと必死になる。

 昔は持て余すほど溢れていた言葉たちが、今はもう時折ぽつりとこぼれ落ちるだけだった。奥へ奥へと手を伸ばしても、指先に触れるのはどろどろとした胃液と凝り固まった腫瘍ばかり。やっとの思いで吐き出した言葉の欠片も、歪に凹んだ不格好で価値のないものだった。

 きらきらと輝く美しい泉を夢見ながら、朦朧とする意識の中、僕は真っ白い便器を抱えて嘔吐する。水に浮いた油塗れの吐瀉物がどこか愛おしい。こんなものに縋るくらいしか、僕には残っていなかったから。

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