ただ眠れない夜
最近、ただ眠れない夜が増えた。
ずいぶん昔から眠るのが苦手だったけれど、僕は案外そんな自分が嫌いではなかった。
眠れない夜というのはとても虚しくて苦しいものだ。時間を無為に過ごしている気がして、嫌なことばかりを思い浮かべてしまい、またやってくる明日に怯える。そんな時間なのに、瞑った目に映る暗闇にどこか安堵している自分がいた。息苦しさが実は心地良くて、そこが自分の居場所であるようにすら感じていた。
ベッドの上に横たわりながら、微かに聞こえる周期的な耳鳴りをBGMにして、思考の海に溺れる。僕はそんな夜が好きだったのだと思う。
しかしいつからだろうか。ここのところは、そんな心地良い夜はなく、ただ不毛に時が流れることが多くなった。僕の頭を支配するのは、漠然とした疲労感だけ。歯車の隙間に接着剤が塗り固められたみたいに思考は停止し、重たくなった頭を鈍い痛みが覆っている。羊を数える気力もなくて、あの尊い夜と変わらないのは両耳を貫く無機質な耳鳴りだけだった。
そうして、今日もただ眠れない夜が過ぎていく。
読みかけの文庫本を手に取ってみるけれど、文章が解けてバラバラになっていくような感じがして、上手く読み進めることができない。しばらくそのまま目を滑らせたあと、深いため息をついて本を閉じる。
あんなに嫌だったはずの明日を欲してさえいた。夜さえ明けてしまえば、少なくともこの気味の悪い感覚からは解放される。押し寄せる日常に流されるうちに、この夜のことは忘れてしまうだろう。
僕は大切な何かを失ってしまったのかもしれない。ずっと大切にしてきた何かを。しかし、それが何なのか、今となってはもうわからなかった。
ただ眠れないまま、夜が更けてきた。
自分が眠りたいのかどうかも、もはやわからなくなっていた。
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