59話

「ここじゃ」

 キクノスが示したのは、何の変哲もない場所だった。他と同じように、柵が作られている。

「俺の目には普通に見えるなあ。コキノレミスにはわかるか」

「うん……ちょっとあながあるっ」

「わかるのか。すごいな」

「おっ、少しへこんでるぞ」

 ステノが、柵に痕跡を見つけた。本当にここを乗り越えていったようだ。

「ううむ。結局封印って破れるんだな」

「まあ、破れない封印があればコンピュータを恐れる必要もなかったわけじゃ」

「それもそうか」

 あくまで封印は一時的なもの、ということだろう。

「まずはフリソスからね」

「えっ」

「当然だろう」

 断ると殴られそうだ。意を決して、柵に向かう。

「そこじゃそこじゃ」

 キクノスに言われたとおりの場所をよじ登る。よほど急いで作ったのだろう、柵自体はそれほどの高さではなかった。

「本当に大丈夫か」

「多分大丈夫じゃ」

「多分って……あつっ!」

 柵を乗り越えようとしたとき、額に熱いものがぶつかった。

「あまり頭を出すとぶつかるぞ」

「先に言ってくれ……」

 身を縮めて、ゆっくりと柵を越える。たしかに、結界に行く手を阻まれることはなかった。額に傷ができたけど。

 続いてステノ、コキノレミスが柵を越える。最後にキクノスは、俺が手を貸して何とかこちらへと引っ張り込んだ。

「土塁もたいしたことはないか」

「モンスターが出てきたらひとたまりもないのう」

 土塁をよじ登る。ようやく、ダンジョンからきちんと出られた気分だ。

「おい、あれ」

 ステノが、何かを見つけて指さした。そこには、見覚えのある男が倒れていた。

「山小屋の親父か」

「そのようね」

「力尽きたのか、もしくは……」

「利用されたか」

 おそらくは、ステノの方が正しい。結界を破るために力を使わされ、そしてエレガティスはこの先へと進んだのだ。

「かなり魔力は弱っとるじゃろうが……それでも強敵じゃ。警戒しながら進むぞ」

 とりあえずは人の住むところへと行かねばならない。少し休憩して、四人は再び前進を始めた。

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