58話
「光じゃ」
最初に声を出したのは、キクノスだった。
確かに、まず感じたのは光だった。太陽の光を浴びたのは、いつ以来だろうか。
「生きて出れたねえ」
ステノは、鎧を脱ぎ捨てていた。黒い服を着ていた。
「ふりそすはっ」
「俺? 俺もうれしいけどね、それよりも疲れたね」
あれから二週間。ここに来るまでは苦難の道のりだった。まずは、キクノスの体力と魔力回復を待つ必要があった。そして、魔力が回復しても移動魔法を使うことができなかった。コンピュータがモードを変更したことにより、キクノスの把握している地図では対応できなくなってしまったらしい。そんなわけで、徒歩で地上に戻るしかなくなってしまった。
モンスターは相変わらずいた。これはもう、ダンジョンの宿命のようなものらしい。ところどころに冒険者の死体があり、亡霊にも遭遇した。回収班がいなくなってしまったので、入ってくる者がいないはずなのに、いつもより多くそれらを見かけることになった。
そして、冒険者がいないことにより、上層階のモンスターはいつもより多かった。キクノスの力もあり苦戦はしなかったものの、進む速度は上げられなかった。
「まあ……どのみち休むしかあるまい」
そう。せっかく地上まで戻ってきたものの。ダンジョンの外には柵が築かれ、その外には土塁が盛られていた。入り口をふさがなかったのは、キクノスによると「ダンジョンに干渉すると報復されると考えたのでは」ということだった。
「ひどいな、逃げ遅れた冒険者は見殺しにするつもりだったんだな」
ステノの口が曲がっている。
「しかたあるまい。全人類が滅びるかもしれないんじゃ」
実際、コンピュータの力を封じるまでは多くの犠牲者が生じたのだ。いざという時の対策は、ずっと考えられてきたのだろう。
「上も無理なのか」
「魔法で結界が張られておる。一人の力では破れそうもない」
必死になってダンジョンを抜けたのに、入り口付近で閉じ込められているというこの状況。なんともむなしい。
「これからどうするのっ?」
「うーん、誰かが見に来るのを待つしかないかね。いやしかし……」
「フリソスも気になっておるか」
「まあ、当然。エレガティスはどうなったんだ」
ここに来るまで、コキノレミスの父親、そして山小屋の親父と会うことはなかった。結界は二週間以上前から張られていたはずだ。彼らはそれを抜けたということだろうか。
「あの力をもってすれば不可能ではない……とはいえ、痕跡はどこかにあるはずじゃ」
結界はキクノス以外には感じることはできない。とにもかくにも、とりあえずは一回休憩することにした。
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