55話

 想像していたものとは、ずいぶん違った。

 広くて寒い部屋の中。青白く光る物体があった。

「どういうことだ、ありゃ」

「取り込んだのか」

 半透明の形が不安定な光の中に、キクノスの姿があった。瞳を閉じて、全く動かない。そしてその上には、カルディヤ、のような姿。翼は以前より大きく、顔は以前よりまがまがしい。

「やはり来ましたね」

 声が、空間全体を寄らした。以前とは比べ物にならない、巨大な威圧感。

「キクノスの……魔力を奪ったのか」

「利用しているのです。あなたたちを通すわけにはいきませんからね」

「通すわけにはいかない?」

 違和感があった。普通はこういう場合、俺たちを仕留めることが目的のはずだ。もちろんまだ利用価値があると思っているのかもしれないが。

「あなたたちと王のせいで、計画はめちゃくちゃです。ただ……やり直すことができます」

「そうかな。弓使いは死んだ。それに、王が決してお前たちの計画に協力的じゃないことも分かっただろう」

「最初から王の意志などどうでもよかったのですよ。もはや王は囚われの身なのですから。ただ、あなたたちにここまで協力するとは思いませんでした。裏切り者の人間だというのに」

「それでも王は、コンピュータから世界を守ることを選んだようだぜ」

 カルディヤが右手を振り上げた。突風が巻き起こり、砕けた屋根のかけらが落ちてきた。

「愚かなことです」

 これは、どんな辞書にも載っていない敵だ。どう対処したものか。

「フリソス」

 ステノが、小声で俺を呼んだ。

「なんだ」

「あいつは、自ら戦うタイプじゃなかった。あの形態は、苦し紛れなんじゃないか」

「そうかもしれない。だが、力はありそうだ」

「魔法は、一時的に断たれた。それは、キクノスも同じはずでは?」

「……そうか」

「あれは、最後の搾りかすだ」

 魔法の道は、王によって一時的に閉ざされた。そのことにより、俺たちの魂を肉体から分離させるだけの力を保てなくなった。それでも、空腹になってもすぐには餓死しないように、わずかに残っている魔力があったはずだ。

「臆せず行けば、道は開けるはずだな。大丈夫か、コキノレミス」

「うんっ」

「いい返事だ。よし、序盤中盤終盤、気を抜かずにな」


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