53話

「ふりそすっ」

コキノレミスの声に振り返ったとき、見えたのは彼の姿ではなかった。目の前に迫りくる、矢。

「しょうかんへいじゅつ、きんっ」

 そして、矢は弾かれた。巨大な盾を持った金兵が、俺のことを守ってくれたのだ。

「エレガティスか」

「うんっ」

 状況を理解するまでに、少しの時間がかかった。弓使いの存在を察知したコキノレミスは、どうやら気づかないうちに俺より前に出て、召喚兵術を使ったようだ。持ち前の速さに加えて、判断能力も養われている。

「駒もどうしたんだ?」

「きづいたら、もってたのっ」

 あの、不思議な丸い形の駒たちは、取り上げられていなかった。もしくは、取り上げることができなかったのか。魔法的な存在の中には、一生持ち主から離れなくなるものもあるという。

「そいつはいいや。早く敵を倒してステノと合流しないと」

「うんっ」

 とはいえ、相手の状況もわからない。弓使いが一人ならばいいのだが。

「ひとり。おとがしないもんっ」

「そんなことまでわかるのか」

 何かが開花している。師匠としてみればうれしいのだけれど、どこか、恐怖も感じる。

「なんか……できそうっ」

「え?」

 金兵の盾が、赤く光った。そして、光が飛び出し、前方を照らし出す。

「な、なんだ」

「たぶん、まりょく……」

 コキノレミスは魔法を習っていない。それでも魔族の血を引くので、確かに魔力はあるはずだ。だからと言っていきなり、召喚兵術と組み合わせた技を使うなんて、かなり驚かされている。

「何ができるんだ」

「……おなじ、かんじがするっ」

 金兵が、駆け出した。これも速い。右に曲がったかと思うと、鈍い音と、悲鳴がした。

「やったのか」

 近づくと、血まみれのエレガティスが倒れていた。盾に押しつぶされたようだった。

 無駄がなかった。もし敵に回したら……そんな思いを、必死に頭から消し去ろうとした。

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